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Uncommon ⚔️ Adventurer  作者: イニシ原
一章 丘を越えて
3/20

003 王都は動いてしまっている

 最後の丘を越えると、碧ラたちの目の前に王都キハン東部の全容が現れた。


 ひときわ高い丘の上にそびえる白い都は、真昼の太陽を浴びて、まばゆいばかりに光り輝いていた。遠目に見ても、その威容に誰もが息をのむだろう。


「この牛。アルゼフィスだっけ?こいつの速さなら、あっという間に着いちまったな」


 瑠フィーダはそう言って、感心したようにため息をつく。


「ル礼ルのおかげだよ」


 ル礼ルはアルの首辺りを撫でていた。その瑠フィーダの言葉だけで、今までの苦労が報われたかのような、心からの安堵が滲み出ていた。


 城門の前まで来ると、アルゼフィスが「もぉー」と短く鳴いた。まるで別れを告げるように、その巨体はひとりでに立ち止まった。当然だ。この門は、これほど大きな牛が入れるほど広くはなかった。


「あ、兄ちゃん! アルはここらへんに放しておけば、勝手に帰っていくってバルおじいちゃんが言ってたから平気みたいだよ」


「そうか……」


 碧ラはアルゼフィスの巨体をあらためてじっと見つめた。


「こいつにも何かお礼をしたかったけど、こいつは一体どれだけの草を食べるんだ? 飼うだけでも大変そうだな」


 その言葉には、短い間でも旅を共にした相棒への、感謝と惜別の念が入り混じっていた。


「それじゃあな、アル」


 碧ラはそう言うと、手を伸ばしてアルの首筋を軽く叩いた。

 瑠フィーダもそれに倣い、アルの巨体に触れようとした。しかし、とんでもない勢いでベロベロと舐められそうになり、慌てて飛びのいた。


 ル礼ルはまだ、アルの背中にいた。温かい体温が心地よく、安心感を与えてくれていた。腕がまったく回らないほどの太い首に手を回し、頬を摺り寄せると、彼の柔らかな毛並みが頬に触れ、思わず微笑んでしまった。


「アルちゃん、本当にありがとう。おかげで早く着けたよ」


 最後のお礼を、心からの感謝を込めて告げた。


 ――三人が城門をくぐったその時、アルゼフィスが「もぉー」と人懐っこく鳴くと、向きを変えてゆっくりと歩き去っていった。


「兄ちゃん、アルを見ても誰も驚かないね。この辺りでは普通なのかな?」


 ル礼ルの素直な問いに、碧ラは少し考え込み、周囲を見回しながら答える。


「そうだな……。まさか、あんなのが何頭もいるわけではないだろうが、珍しくはないみたいだな」


 そうやって辺りを見渡す碧ラの勘には、この王都の空気に明らかな違和感が感じられていた。いつもながら活気に満ちた大通りから、剣と鎧が擦れる甲高い音が響き、人々の間には焦りと恐怖の匂いが混じり漂っていた。


 碧ラは背筋を伸ばし、これから始める行動をテキパキと告げた。


「ル礼ルは俺と、刀剣類を売りにいく。いくつかマジックアイテムもあるから、ベベラー狼の牙店へ行って来る」


 碧ラの言葉に、瑠フィーダは静かに頷く。


「瑠フィーダは、そのフルプレートアーマーを高めに売ってもらいたいから、南さんのお腹防具店に行ってみてくれ。それで、またここで集合だ」


 三人は、それぞれの任務を胸に、王都の雑踏の中へと消えていった。


 ***


「兄貴、待ったか?」


 人波の中でも頭一つ高い瑠フィーダが、向こうから大きな声を掛けながらやって来た。その姿は、周囲の喧騒とは対照的に堂々としていて、彼の存在感は一瞬で人々の視線を引き寄せていた。


「いや、戻ってきたばかりだよ。ただ……この短剣をちょっと見てくれ」


「あれ、売れなかったのかい? 兄貴が、けっこういけるって踏んでた短剣だろ?」


「ああ、これを抜いてみてくれるか」


 瑠フィーダは不思議そうな顔で短剣を受け取る。


「え? なんだよ……抜くぞ?」


 しかし、どれだけ力を込めても、短剣は鞘から抜ける気配すらない。瑠フィーダは眉をひそめ、力を入れ続けたが、次第にその表情は焦りに変わっていった。


 抜くことを諦め、折ろうとするが、それすらもままならなかった。


「な?それはマジックアイテムだが、ただの装飾品だと言われてしまってな、だから、後で別の所で売ろうと思って、とりあえず戻ったんだ。――他の物も大したことなくてな、どうするか悩んでいるんだ」


 その言葉を聞いた瑠フィーダは、にやりと笑って懐から財布を出し、碧ラに手渡した。


「お!すごいじゃないか。いくらになったんだ?」


 碧ラは財布の中を見ながら目を輝かせて尋ねた。


「三百万エンだよ。この間の相場の三倍だろ? びっくりしたよ」


 瑠フィーダは得意げに続ける。


「ほら、今何か起こってるみたいだろ?それで鎧が必要になって、騎士がどんどん買ってるらしいんだ」


「そうか……運がいいな。そんな相場はすぐ戻るもんだからな」


 碧ラは、その幸運に安堵しつつも、どこか不穏な空気を感じ取っていた。


「兄ちゃん、兄ちゃん! あたしにも見せてよ!」


 ル礼ルは、碧ラに渡された財布の中を覗こうとするが、あまりの重さにフラフラとよろめいた。


「うわー、すごいね! これなら『美カナ(みかな)』ちゃんや『夢ム(むむ)』ちゃんたちに、たくさんご飯を買ってあげられるね!」


「そうだな。だが、まずは俺たちが休まないと。久々に百羽の鳥亭にでもいくか、ル礼ル」


「え、いいの!? やったー! あたし、席を取っておくから、すぐ来てね!」


 興奮した様子で財布を碧ラに返すと、ル礼ルだけが通り抜けれる狭い隙間にスッと入って行った。


「ふふ、南側はよく行く場所だったから庭の様だな。久しぶりに美味いまるごと揚げ鳥が食べれるな、瑠フィーダも好物だったよな」


「ああ、よだれが出てくるよな、あれは。俺たちは早く、こっちから行こうぜ」


「その前に、このお金は半分お前が持っておくんだ。何かあった時の為にな」


「ああ、わかったよ。そういえばさっき、ル礼ルが金貨を一枚くすねて行ったけど、あれでいいのか?」


「いいさ、お駄賃だよ」


 碧ラは小さく笑いながら答えた。


「こういう特技は、考えてやるようじゃダメなんだ。考えるのはやった後。まあ、戦士のお前だって、考えるより先に――動くだろう?」


 瑠フィーダはその言葉に頷き、少し誇らしげに胸を張った。


「もちろん、行動が全てだ。考えるのは後からでもできるからな。まあ、兄貴は考えてから動くっぽいけどな」


 瑠フィーダの軽口に、碧ラは微笑みながらも何も言わずに歩き出した。


「さあ、行こう」


 まるごと揚げ鳥のことを考え、思わずよだれを拭きながら、二人は早足で百羽の鳥亭へと向かって行った。

あとがき。


王都は、碧ラたちの知らないところで、不穏な空気に満ちていました。騎士たちが鎧を求め、店主が慌ただしく動く。そして、売り物にならない短剣も、なにやら謎めいたアイテムなのかも知れません。


キャラ紹介3

碧ラ (あおら)

職業:剣士

性別:M(精神)/ M(肉体)

年齢:20歳

(性別は、男M:女F:中性N:がある。そして肉体と精神に別れているので、6種類あります。)


三人のリーダーで、冷静かつ思慮深い青年。物事の本質を見抜く洞察力に優れており、知略と剣術の両方を兼ね備えています。寡黙で多くを語りませんが、その言葉には重みがあり、仲間からの信頼も厚い。彼の知識と判断力が、旅の行く末を左右することになるでしょう。

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