わからない
奴隷の子side
「黒髪は初代王族の髪色なので、決して奪ってはならない」
これはこの国の絶対的な考え方。
これに反すると、どんな美人でも虐げられる。
俺はこの考えに反してしまった。
それに俺はとびっきりの不細工だった。
好きで黒髪の不細工に生まれたわけじゃない。
でも周りの人たちは「お前が死ねばこの色は初代王族の方々に変えるんじゃないか?」と疑って、俺を殺そうと何もない森の中に捨てていった。
そんな時に拾ってくれたのが、園長様と呼ばれている女性だ。
園長様の所には、俺と同じような身寄りのない子供達が身を寄せ合って暮らしていた。
俺ほどの不細工は居らず、みんな黒じゃない髪色の美男美女だ。
それでも、みんなは俺なんかと仲良くしてくれた。
でも、そんな幸せな暮らしは長くは続かなかった。
園長様は俺を奴隷商に売った。
そこで園長様は奴隷商に「もっと高く売れないのか」「黒髪は売れると思ったのに」「だから不細工でも我慢して育てたのに」と言っていた。
また捨てられたんだと、絶望した。
この黒髪を恨んだ。この顔を恨んだ。
そこからの毎日はひどいものだった。
誰かに買われる前に、まずは調教される。
罵声を浴びせられるのは普通で、鞭などの器具を使われたり、水に沈められたりする。
そこで徹底的に主人に従うようにするらしい。
実際、もう俺には反抗するような気はない。反抗したらまたあの地獄が待っていると思うと、できない。
その後、俺は採石場の主に買われた。
そこでは、俺と同じ奴隷や沢山の労働者が働かされていた。
労働者には休憩などを与えられていたが、奴隷にはそうはいかない。怪我をしても働かなくてはいけない。そんな場所だった。
買われてから10年近く。
ある日、とある労働者たちに呼ばれた。
こういう鬱憤晴らしの暴力は度々あった。
今日もそんな所だろうと大人しく着いて行った。
たどり着いた場所は誰もこないような場所。
そこで、奴隷が「嫌だ」と言えないことを利用して、その労働者たちに気が済むまで暴力を振るわれた。
しかしその日は以前よりも大人数で、長かった。
あの時のことはもう意識が飛んでいたのかトラウマになったのか、記憶がない。
ただ記憶しているのは、終わった時に足は変な方向に曲がっていて、片目はもう見えなかったことだけだった。
その後も、捨てられないように、処分されないように必死に働いたけれど、結局数日で店に連れ戻されてしまった。
――――――――――――
店に戻されてから、何日経ったかわからない。
日の当たらない牢屋に鎖で繋がれて、食事や水も出されずに放置されていた。
水を飲んでないのにまだ生きてるってことは数日ぐらいかなぁなんて、死ぬ間際なのに呑気に思っていたその時、人の気配がした。
その人は、店員と一緒に俺の牢屋の前に来た。
こんな不細工な顔、見せてはいけないと思って必死に、なぜか白髪の混じってきた憎き黒髪を顔の前に持ってくる。
しばらくそうしていると、お客さんだろうその人が、初めて言葉を発した。
「買うわ。いくら?」
冷たいその声。
この人は俺を使い捨てにするんだろうと思った。
また捨てられるのかと怖くなった。
体が勝手に震えてくる。
止めようとしてるのに止まらない。
その間に話は進んでいたようで、俺を買った人は会計をしようと店員に案内されようとしていた。
髪で顔を隠しているせいで前が見えないから状況が分からない。
でも、俺の主人となる人の声は確かに聞こえていた。
「今助けたる。待っといてな。」
俺なんかには優しすぎるその声に、思わず顔を上げてしまった。
しかしすぐに店員の怒声が飛んでくる。
俺の頭の中が恐怖でいっぱいになる。
「まぁええやないの。私は素敵やと思うで。」
さっきと同じ、優しい声。
でも言っていることが分からない。俺の顔が素敵じゃないことなんて分かっている。
なのにこの人は素敵だと言った。
初めて褒められたので、なんだか嬉しくなった。
俺にもまだこの感情が残っていたんだと安心した。
でも同時に疑問がが湧いてくる。
俺は奴隷なのでお世辞を使う必要はない。つまりはお世話ではないと思う。
なら、なんなんだろう。
俺の小さくて使えない頭で必死に考えている間に会計を済ましていたようで、店員が牢屋の鍵を開け、首輪から鎖を外した。
その人は、誰も触れたがらない俺になぜか肩を貸してくれて、立ち上がらせようとしてくれた。
でも、俺は足が悪いのでどうしても立ち上がれない。
申し訳なくて、多分この後されるであろう折檻が怖くて、謝ろうと声を出すが、掠れた息さえ出ない。
ごめんなさいと心の中で思っていると、その人が俺に声をかけていた。
「ちょっと失礼するなー。」
何をだろうか。
分からないが、逆らえないのでひどいことをされないよう願いながらその先の言葉を待つ。
しかし言葉はこない。
その代わり、俺は抱き抱えられたようだ。
この人がしようとしていることが本当に分からない。
でも、この人は俺なんかとは別世界の人なのはわかる。
だから、抱えられて必然的に引っ付いているが、どうにかして離さなければいけない。
必死に降ろしてもらおうとするが、非力で足が使えない俺は全く降ろしてもらえない。
そのまま豪華な装飾がされた馬車に一緒に乗せられていた。
高級な馬車だからだろう俺が乗せられるような馬車とは違う程よい揺れと、ご主人様の人肌温度の温もりで、俺は眠ってしまった。