表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の国にて  作者: しし
14/42

2-9 魔法の本質

2-9 魔法の本質


決闘の翌日、私は仕事終わりにオーリスの元を訪れた。

魔石と魔法について、話がしたかった。


月明かりしかない丘の上。オーリスは上機嫌で私を迎えた。


「魔石を飲み込んで一週間で発動とは、想像以上だ。……素晴らしい」


低く響くその声が、静かに夜の空気を震わせる。

私はそっと、疑問を口にした。


「……あれは、どんな魔法なのですか?」


「ふむ。本来なら知識は交換で得るものだが……

まあ、昨日見せてもらった魔法と交換ということにしようか。特別だ。

毎回教えてもらえるとは思わないことだな」


オーリスは細めた目でこちらを見つめ、威嚇するように笑った。

老いた龍の瞳には、どこか遠い記憶のような、赤い光が揺れている。


「朱色の魔法だな。

対象の身体能力を底上げする系統だよ。

君の魔法の本質の一部が、ようやく動き始めたようだ」


私は無意識に、自分の手のひらを見つめる。

あの日、石はじわじわと手の中に吸い込まれていった。

今ではもう、どこにも見当たらない。

けれど、身体の奥に、何かが巡っている感覚がある。


「一つ、覚えておけ。君の魔法は、感情と意志に深く結びついている」


「……意志、ですか?」


「そうだ。魔法の発動には、意志の力が必要だ。

その意志を明確にするために、清空は紐を使い、白羽は手を開くという動作をして、自分を操作している。

君も、君なりの“操作方法”を見つけるといい」


オーリスは少し間を置いてから続けた。


「昨日は三人──白羽、陽仁、そして桂馬に力をかけたな。

白羽と陽仁にはほぼ均等に1.75倍ほどの身体強化がかかったが、

桂馬は少し効果が弱かったかもしれん。」


「そんなに……?」


「初回にしては上出来だ。だが──」


言葉の調子がわずかに変わる。


「この先、どう成長するかは君次第だ。私はこれ以上は教えん。

特性の検証も、使い方の工夫も、自分で試すことだ。

力とは、そうして手に入れるものだよ」


私は頷いた。

頼れる者はいない──だが、それが当然なのかもしれない。


「……なぜ、私に魔石を?」


オーリスは短く、喉の奥で笑った。


「長らく持ち歩いていただけの、ただの道具だよ。

だが──君に渡せば最も利益が大きいと、そう判断した」


「利益?」


「そうだ。君が強くなれば、村も龍も守られる。

それが巡り巡って、私の益となる。

君は、いずれ“決断”しなければならない時が来るだろう。

その時まで、私は待つつもりだ。

……もっとも、君が何を選ぶかまでは、強制するつもりはないがな」


それだけ言うと、オーリスは寝床の方へ向かい、背を向けた。


「今日は帰るといい。魔法の訓練は始まったばかりだ。

人間には、休息も必要だろう」


 


あれから、私は仕事の合間を縫って、少しずつ自分の魔法の性質を確かめるようになった。


清空やアズールだけでなく、白羽、陽仁、桂馬にも協力を頼み、再び魔法をかけてみる。

何度も繰り返すうちに、目視できる範囲にいる相手に、“名前”を強く意識すると魔法が通じやすいことに気づいた。

また、一人だけにかけるよりも、複数──それも多ければ多いほど、全体の能力はより大きく上がるようだった。


稲刈りの季節、村の長に許可をとり、高台から見下ろす形で村人たちに魔法をかけてみた。


名前を知っている人数が増えるにつれ、効果も明らかに増していった。

……ただ、後から話を聞くと「ちょっと疲れやすかった」とのことだった。


どうやら、力の持続時間や反動は、状況や人数によって変化するらしい。


(……この力は、“短期決戦”向きかもしれない)


突発的な戦闘や、緊急時の逃走──

そういった一瞬の爆発力が求められる場面で、最も効果を発揮する感触があった。


だが龍たちに対しては、私の魔法はまた違った性質を見せた。


アズール、ルスカ、そしてオーリス。

彼らにも魔法はかかるが、“名前”ではなく、どうやら私に対しての“心の開き方”が影響しているようだった。


アズールのように完全に受け入れてくれる龍には、明確に力が届く。

普段から距離感を保つルスカには、少し弱い。

それぞれ、約四倍と二倍というところだろうか。

オーリスは冷静な観察者であるがゆえに、約一・五倍だった。


オーリスはこの結果を聞いて、低く笑った。


「アズールが珍しいのだよ。

自身に他者の魔法が混ざることに拒否を示さぬ龍などいない。

想定以上に喜ばしい結果だ。アズールにとって君は、得難い宝になるだろう」


そして続けて言った。


「朱色の力だけではない、色が君の中に見える。

未だ発動はしていないが、君の中にあるものだ。

時が来れば、自然と形を取るだろう」


魔石は、もう私の一部になった。

意志と感情に応じて、魔法は色を変え、力を変える。


魔法は、私の感情に応じて“誰か”を動かす。


どこまでできるのか。どこまで進めるのか。

それを知るためにも、私はこの力と向き合い続けるしかない。


──君は、いずれ“決断”しなければならない。

──その時まで、私は待つ。


オーリスの言葉が脳裏に響く。

胸の奥で、朱い力が静かに熱を帯びていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ