春は過ぎ去る 桜が散る頃
ずっと傍に居た幼馴染の彩音が転校するという事実を知ったのは、中学二年の桜が散り始めた春の終わりのよく晴れた朝のホームルームのことだ。
いつも登下校は必ず一緒だった彼女が今日の朝に限っては、先に行ってて、というメッセージがスマホに入っていて僕は一人で登校することになった。
僕はその事態に、何か嫌な予感を感じずにはいられなかった。
校門前の桜が散っていく様を見て、僕の不安と予感はますます強まり、同時にいつも隣で笑いかけてくれる幼馴染が居ないことがたまらなく寂しく感じられた。
今思えばその散りゆく桜は、僕たちの関係が永遠に約束されたものではない、移ろう季節の一つみたいなものに過ぎないことを僕に教えていたんだと思う。
──東坂彩音さんは明日転校することになりました。
そう、教師が告げた声はまるで世界は近々終わりを迎えます、というように聞こえた気がする。
悪い夢だと強く思った。夢であってほしかった。
幼稚園の頃からいつも一緒に笑って、泣いて、時には揃って叱られることもあったけど、下校中に先生の愚痴を言って笑い話にしたりもした。
僕はその時間がこれから先もずっと続く、隣に彼女が居ることが当たり前になればなるほど、そう勘違いをするくらい幼かった。
そして、中学二年という大人のなりかけの僕の心中は、受け入れられない幼さと、これは夢ではなく受け入れなければいけないよくある現実なんだ、という二つの感情が渦を巻いていた。
ふと、先生の隣に立つ彼女と目が合った、視線を逸らすことなく真っすぐ僕を見ていた。
僕は今とても複雑な表情をしているんだろうなと思う。
彼女は皆に気付かれないように微かに、こちらに微笑みかけた。
──ごめんね、でも君なら私が居なくてもきっとやっていけるよ。
そう言っているような錯覚、でもずっと数年以上一緒に居たから分かる。
それは紛れもなく、彼女が微笑みに込めた別れの言葉なのだと。
また、夏が来て秋冬が過ぎれば春が訪れる。
どんな出会いも別れも訪れては過ぎ去るそういうものなんだと、この五月に知って少し僕も彼女も大人になった気がする。