異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【3-2】
一年ぶりの故郷の面影は、私をより惨めに感じされていたけれど、
それでもその面影を…
見つけてしまった面影を…見なかった事には出来なかった。
「そ、うですか…では黒薔薇姫様。
暫くわたくし達にお時間を戴けますか?」
「は、い」
明らかに…
明らかに今までと周りの雰囲気が切り替わったのだった。
貴族が身に着けるドレスに帝国も王国もそんなに違いはない。
それ故、これまで過ごして来た1年間私は和服の様な印象を受ける、
衣類を見た事は一度だってなかったのだ。
建物だって、中世ヨーロッパを基準に作られた私からすれば海外の物。
そう言いきれてしまえるほどに出来あがった文化物だった。
今まで王国から私のお世話と称して付いてきたメイド達の姿だって、
使者達と同じ印象のメイド服。
全て帝国製と言い切ってしまえる統一感のある仕上がりの物だった。
けど…
「お待たせしました黒薔薇姫様…
本日より貴女のお世話を担当する者です。
以後何かご不便を感じられたら、
即座にわたくし達3名の誰かに声をおかけください。
黒薔薇姫様が心穏やかに過ごされる事が我らが主の願いです」
突然現れた彼女達3人のメイドの姿は今までの私に与えていた印象と、
まったく別の物となっていたのだった。
そう…その姿は和服のテイストが入ったドレスと同様に仕上げられた、
この世界では奇抜なスタイルとされてしまう格好だったのだ。
普通のメイド服のエプロンの上から明らかに着物用の幅広の帯を締めて、
エプロンのデザインも普通のメイド服を和服っぽく見せる着物風の形で。
前面の合わせの様な形が縫い付けられスカートに係る部分には亀と鶴の刺繍。
それは上質に仕上げられているけれどフリルやパフスリーブは省かれ、
スカートを広げるパニエも最小限の脹らみしかない。
スラッとした印象を与えそれは更に私に懐かしみを覚え起させる、
和服のシルエットへと仕上げられていた。
ここに連れて来られるまでの、帝国のメイド服と質もデザインのまるで違う。
けど…不思議と彼女達にはその姿が合っていたのだ。
それはメイドと言うより侍女と言った方が良いのかもしれない。
「それでは、始めさせていただきます…」
彼女達は私を支え、婚礼用の衣装を私に身に付けさせていく。
そこには締め上げられて呼吸が出来なくなるほど腰と胸を圧迫する、
コルセットは無くて、長い布のような物を体に巻きつける形で…
肌着とする形を取ってその上から和服用の腰巻と襦袢に見える様な物を、
身に着けさせられた。
今までの鬼の様に締め付けるコルセットから解放されて、
一気に楽になる。
用意されたドレスも、サイズフリーとまではいかないみたいだけれど、
大き目に作られていて…
普通のドレスと違い、上半身にお着物の様な形にデザインされた長めの、
装具を身に着けて、背中側で紐で引き絞って宛がわれた。
とはいってものその締め付けも相当緩い。
そして下半身へとスカートを巻き付けていく。
ふわりと広がる様に作られているけれど、
くるりと体を回る様に2回転半巻き付けられれば上半身の装具に、
吊り下げる形で身に着ける事になったのだった。
そして最後にお腹周りに幅広に作られた帯を模したベルトを巻かれると、
スカートと上半身との装具の繋ぎ目は目立たなくなった。
それから帯揚げを模した飾りを取り付けられれば、ベルトは帯へと見える。
背中に背負う形で取り付けられる帯の結び目を模した鞄を宛がわれれば、
型に細いベルトを掛けられて、それは腰のベルトへと結ばれたのだった。
綺麗に刺繍の間を通されたベルトは全く目立たず…
最後に細い帯留めを模した紐をベルトの上に宛がわれれば、
歪で不細工に仕上げられた御着物ドレスの着付けは終わり。
髪形をそれに合わせでサイドポニーテールへと変えられ、
ファー付きの手袋と足袋を模した物を穿かされれば、
私の婚礼衣装の準備は終わった。
姿見に写る私の姿ははやはり綺麗とはいえず…
ひたすらに綺麗に仕上げられたゴージャスなドレスと比べれば、
それは見劣りする形でしかなかった。
けれど…
けれどこの婚礼衣装は優しく私を包み込んでくれていた。
1年間のドレス生活。
きついコルセットと股の間に取り付けられ続けた貞操帯。
まともに動く事を許されず淑女教育と言う体罰を受けながら、
重たい教育用ドレス(拷問器具)に比べれば軽くほとんど体を締め付けていない。
今の私にとっては、嬉しい衣装だった。
「…よくお似合いですよ」
そう言いながら仕上げに薄化粧をされたら…。
私は優しく支えられながら歩き始めフィッティングルームを後にした。
そこ先にあったのは対面の間。
それは、王国の使者が、帝国の第3皇子に私を引き渡す場所だった。
両国の代表者が部屋の差左右に並び私は王国側に用意された席へと座る。
式の手順は教えられていた。
帝国の用意した婚礼衣装を着た私が最後に王国側の使者達に、
誓いの言葉を残すのだ。
黒薔薇姫の引き渡しと言う事は王城を出る時に終わっている。
ここらかここで行われるのは、王国に黒薔薇姫は帰らない事を、
誓わせて帝国に尽くす事を宣言する宣誓式という事だった。
普通ならここに並ぶのは、姫を長い間世話をし続けた人々。
その人々に姫が一人一人声を掛けて別れを告げるセレモニーなのだが、
その声をかける相手すら数名しか用意されていない。
その場にいたのは私を影武者に祭り上げて本物の姫を逃がした代表者達。
彼等に私は解れを告げなければいけなかったのだった。
「では、黒薔薇姫様。
お国に残る忠臣達に別れのお言葉を掛けてあげて下さいませ」
椅子に座る私の周りにいるのは既に帝国のメイド…いや侍女達なのだ。
いわゆる…
触れる事すら出来なくされた帝国の婚礼衣装を身に着けた姫を見せる事で、
帝国の優位性を示す最後の場所なのだろうと思う。
けど、悔しさも悲しさも勿論私には沸いて来なかった。
だって湧き上がる気持ちは憎悪と復讐心しかないのだから。
「今までお疲れさまでした。
本日私は帝国へ嫁がされます。
あなた方の深い愛によってこのような結果となった事、
私は嬉しくもあり悲しくもあります。
もう、お会いする事は無いのでしょうがどうかお元気で」
模範的な挨拶の中に嫌みと憎しみを込めながら笑顔で話した。
その言葉に無表情だった彼等の表情も歪む。
この儀式に置いて喋るのは嫁ぐ姫だけなのだ。
だから返事を聞く事すら許されない。
けれど私の歪んだ感情と憎悪は確実に彼らに届いたと思う。
これ位しか…
今の私には王国に傷跡を残せなかった。
最後の別れを終らせた私はそのまま無言で王国の見送り人の退場を見送る。
これがもし本物の姫だったら忠臣達は涙ながらに抵抗しながら、
帝国の人間に追い出されるというそう言ったお涙ちょうだいのシーンなのだろう。
けれど私にとっては憎むべき相手にしか過ぎなかった。
ただ王国の人間が私の視界から消えただけ。
それだけだ。
周りの侍女達はその様子を不思議とも思わないで彼らを見送る。
最後の最後まで私を利用し尽した王国を私は絶対に許さない。
絶対に…。
帝国民だけになった部屋には静寂が音連れる。
姫に味方がいない事を理解させる時間なのかもしれない。
けれどわたしには元々見方はいなかった。
だから解らされる時間なんていらないのに。
「では黒薔薇姫様皇子殿下の下へ参りましょう」
「…はい」
「皇子殿下は気難しいお方なのです。
くれぐれも失言を致しませんようお気お付けくださいませ」
「っは…い」
告げられる現実に敵国に嫁ぐことを理解させるようなセリフを言われて、
私は少しだけれど狼狽えた。
覚悟もしたし失うものは何もないのだ。
それでも殺されるのは純粋に怖い。
偽物の姫として帝国でそれがバレない様に。
必死に黒薔薇姫を演じるしかない自分にそれが出来るのか?
出来なければそこまでで。
私の未来は閉ざされる。
けれど、出来ないという言葉を吐くわけにはいかない。
痛む体を引きずる様にしながら両脇を侍女に抱えられて私は、
皇子殿下の下に歩く。
その先に私が望む歪んだ未来があると信じて。
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