異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【3-1】
王国の美しき黒薔薇姫。
それが私を帝国に連れて行く理由であり、
それ以上に王国に対する見せしめと言う意味が大きかった。
私は使者に鎖を引かれ多頭引きの馬車へと乗せられる。
その中に待っていたのはリクライニングシートの様な寝そべる形を取らせる、
革張りのシートだった。
私は、中にいた帝国のメイドに促されその革張りの椅子に深く腰掛けると、
背凭れに背中を預ける事になる、
そうすれば、すぐさま使者が私の両足に最後の枷を嵌める。
スカートはたくし上げられ「グフグフ」と気味の悪い声を出しながら、
重たい足枷が嵌められればその足枷に付いていた短い鎖は、
床に据え付けられていた留め金へと固定され同時に首枷に付けられていた、
鎖も私の後ろに合った留め金へと取り付けられたのだった。
そして左右にいたメイド達が胴枷を椅子の両端のフックに繋がれれば、
私の体はもう動かせなくなってしまった。
「それでは黒薔薇姫様これから数日間の馬車の旅を通じて、
帝国と王国の力関係をご理解ください」
「は…い…」
「まだお返事が出来るのですね良い胆力です。
これからも期待しておりますよ」
どんなに姫らしく着飾っていても、王国と言う後ろ盾があっても、
身をもって帝国に跪いて許しを乞え。お前は何もできないのだ。
そう嫁ぐ姫に理解させるための旅が始まるのだ。
私の正面に一名。
そして両隣に1名ずつの計3人が乗った「快適な馬車の旅」と言う名の、
黒薔薇姫の旅路はもちろん快適(笑)状態だった。
椅子に深く腰掛け体を預ける形を取らされているのは、
一見楽そうに見えるけれどそれは道が舗装された場所の話。
帝国兵の護衛する馬車はガタガタと石畳の道を抜け、
すぐさま舗装されていない悪路を走破する事になる。
それは体を容赦なく上下に揺らし私の体は、
その椅子の上で跳ね回る事になるのだった。
木と鉄でできた車輪は段差を超えるたびにガタンガタンと揺れて、
馬車の揺れは一層ひどくなる。
馬車の窓は全てカーテンで仕切られて、私が周りを見る事は出来なくされていた。
そのせいで揺れに対して身構える事すら許されず、
私はその度に椅子の上で何度も動き回り…
固定の緩い鎖のお陰で首は引っ張られ餌付く事になりそれでも胴枷の所為で、
体は椅子からすれ落ちない。
足枷に繋がれた鎖のお陰で足もまた暴れる馬車に引っ張られて…
体全体は衝撃を受け続けるのだ。
「あうっ」「ぐっ」「ぐぇっ」「いぎっ」
自然と漏れる言葉と共に体は痛め続けられる移動の日々は使者が言った通り、
数日間続いてその間中私が涙を流しながら痛みに耐える時間は終わらない。
馬車が泊まれば体中は痛みけれど固定された枷は外されず。
私はそのままメイド達にお食事を与えられ、
下の世話をされるだけの日々が続いた。
もう、恥ずかしいとかそんな事を思う余裕はなく、
一刻でも早く目的地について欲しいと願う日々だった。
2日も経てばもう体で痛くない所を探す方が難しいくらいになっていた…
それでも私は死ねない。
帝国に行って第3皇子を焚きつけて王国に兵士を送り付けるまで。
私は歯を食いしばって意識を保ち続けたのだった。
「黒薔薇姫様、御到着いたしました。
さぁ、帝国に入る前にお色直しをするお時間です」
6日後やっとの事で国境の帝国が管理するお屋敷へとたどり着いた時には、
この拷問が終わるという安堵感と、帝国の花嫁衣装に袖を通す事の出来る喜びで、
私は正気を保っている有様だった。
馬車の中から漏れ聞こえて来ていた私の歌(うめき声)はさぞかし、
帝国の兵士達を楽しませた事でしょう。
現に、私を連れ歩く使者はとても良い顔をしているのだから。
それでも私に使者の言う事を聞かないという選択肢は与えられない。
「くぅぅぅ…」
「良くご自身のお立場がお分かりになったでしょう?
強がっていても黒薔薇姫の周りにお味方のなられる者は一人もいないのです。
その事を良く理解して我らが主に忠誠を誓うのが良いでしょう」
あくまでも私は第3皇子の為に生きる花嫁…
と言う立場の奴隷と言いたいのだ。
自身を一国の姫として扱ってくれると思うな。
「よ、く…りかい、できました。だいじょ、うぶです」
どんなにひどい扱われ方をしたとしても、
私にそれを断る権利は無いのだ。
屋敷の一室に連れ込まれた私は…
そこで改めで花嫁として仕上げられる事になった。
王都から数日間着なれないドレス姿のまま全身に打ち身を作り続けるような、
全身痣だらけでも、水場に連れて行かれると容赦なく体を身がまれ始めた。
と言っても私の体は磨いて綺麗になる様な体じゃないけれど…
打撲の痛みも考慮されず唯々帝国の花嫁となる時間が近づいていたのだった。
もう少し、もう少しで…
私は自爆して王国を攻めさせることができる。
それだけが私の心の支えとなるはずだった。
もう水場に連れて行かれ体を洗われた後は、まともに動く事も出来ず、
私は二人のメイドに支えられながら、帝国の用意した花嫁衣装を着る為の、
フィッティングルームへと連れ込まれたのだった。
ココまで来て私はただの奴隷人形であって姫の扱いじゃなかった。
メイドの代表者?に私は質問を投げつけられる。
「では黒薔薇姫様、帝国の用意した婚礼衣装は2つ御座います。
何方を御召しになられますが?」
そこに用意されていたのは豪華な2着のドレス。
一着は、王国でも良く目にした私も着せられ続けたドレスの物凄い豪華版。
けど、もう一着は…
それは明らかにこの世界では異質なドレス?だった。
プリンセスラインのドレスなのだが…
パニエでふわりと広げられたスカートの部分はまだいい。
けれど、上半身のバスクに当たる部分にはこの世界にはありえない、
鶴と亀の刺繍が立体的にされていて、
胸前で重ね合わせる部分に見える所があって…
腰に当たる部分には幅広の帯に見えるベルト。
そのベルトの色に合わせて背中側に大きく結ばれた複雑な結び目の飾り。
そしてそのベルトに上に帯留めの様な細い紐が飾りとして取り付けられていた。
肩の部分には大きいパフスリーブも縫い付けられているけれど、
その先の袖の部分には振袖の様にひらひらと動く布が縫い付けられている。
所々に作られた布が重なり合う部分には赤で刺し色が付けられて、
目出度い紅白の様なデザインに仕上げられていたのだった。
それは明らかに…
異質であり普通の姫様なら絶対に選ばない不格好なドレス。
パニエで広がるスカートに白無垢の上半身だけを合体させ肩を膨らませた、
そのデザインはこの世界の美的感覚から確実にズレていた。
出来上がりこそ良く作られているけれどどう見ても違和感はぬぐえず、
誰もが羨ましがる花嫁の衣装とは程遠い。
出来損ないの婚礼衣装だった。
それでもメイドは私にもう一度聞いてきたのだ。
「さぁ、黒薔薇姫様。
どちらの婚礼衣装をお選びになられますか?
お好きな方をお選びくださいませ」
この質問が、選んだ結果が私の未来を大きく変える事になったのだった。
普通の姫様なら着飾る為に豪華なドレスを選ぶだろう。
けれど私はそのドレスを選ぶ事が出来なかった。
出来損ないで不格好なドレスだったとしても、
帰れない故郷を感じる事の出来るドレスを着たかった。
「そちらの…不思議なドレスでお願いします」
その瞬間周りのメイド達の顔色が変わったのだ。
「く、黒薔薇姫様?
本当に?本当にこの、何というか…
出来損ないの不格好なドレスで宜しいのですか?」
「…はい」
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