異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【2-2】
準備は上々。
ドレスは綺麗に直されて多頭引きの馬車を用意されれば、
もう次の日は帝国からの使者が到着する日だった。
まだ薄暗い朝早くからたたき起こされた私は、
婚約ドレスをたっぷりと時間をかけて着せられ…
使者を出迎える為玉座のある大広間で待たされ続けた。
十分な会食などおもてなしを受けた使者は、
国王陛下を先頭にして王広間に現れる。
それは婚約式開始の合図でしかなかった。
「黒薔薇姫、貴女を我が帝国へお連れします。
そこで我が国の第3皇子と結婚して頂き、
王国と帝国の友好の証として暮らして戴きます。
宜しいですな?」
「承知いたしました」
ここで嫌ですと言えればどれほど良いか…
私は最大限の自爆を行う為に必死で断りたい返答を我慢して肯定する。
帝国に行って皇子と会うまで…
私は死ねないっ。
その想いが全ての私の行動に緊張感を与え、
今までしたことのないような動きを私にさせていた。
それは短時間のことだった。
少し小首を掲げながら優雅にカーテシーを使者に披露する。
この日の為に磨き上げられた私の体と顔は、
正しく王国の姫に相応しい姫の立ち振る舞いだった。
「ほぅ」
使者の方がため息をつき顔を赤らめる。
それは確実に見惚れた証でありこの時ばかりは、
私の容姿に偏見を持たない帝国の使者にはさぞ綺麗に写った事だろう。
けれど帝国の人はコホンと咳ばらいをして、
その後ろに控えていたお付きの人から、
豪華な枷を受け取って私に見せる。
私の手首のサイズや足首のサイズに合わせて作られた、
豪華なだけの枷。
これを付けられたら逃げられない。
普通の姫なら…
自分を苦しめる枷なんて見せつけられたら、
気絶してしまうのだろう。
豪華だが苦しそうな枷だった。
「知っての通り我が帝国から―、
逃げようとする姫が何故か沢山おりましてな?
逃走防止用の器具を付けさせてもらいますが宜しいですな?」
「はい。覚悟は出来ております」
そう言うと私は両手を使者に差し出した。
すっと揃えた手首に使者がにやにやしながら枷を嵌めていく。
ガチャリという大きなカギがかかる様な音を立てて。
私の細い手首に枷は遊びなく嵌められるのだった。
姫の所有権が帝国に写る瞬間だった。
私はその手首を見ながら…
帝国と王国の差を体で思い知らされることになる。
短い鎖で繋がった枷達は腰と首とも、短い金のチェーンで繋がれ、
私の腕の動きを制限してきた。
首に嵌められた枷も胴に嵌められた枷さえ重たい金属の塊で、
その重さが体にズシリと伸し掛かる。
使者の人はその姿に満足そうにして…
私に国王陛下との最後の別れの時間を用意して下さった。
喋りたいことなど何もなく…
ただ私には憎い存在で…
「達者で暮らせ。お前なら帝国でも幸せになれる様に祈っている」
「…はい」
最後だと思い私は国王陛下の顔を見た。
そこには満面の笑みで計画が全てうまくいっているという、
余裕の表れか使者を騙せた嬉しさか明らかな笑みを浮かべた、
顔がそこにはあったのだ。
その笑顔を見た時私は5年後の侵攻計画があるのだと確信する。
これから帝国でどんな目に合うか解らない姫を笑顔で送り出すなんて、
普通の神経ならアリエナイ。
だって姫は人質として嫁がされるのだから。
悲しい表情一つ見せず…
そして帝国への引き渡しまで付いて来る心算も無さそうな、
この国王陛下を見た時私は全てを捨て去った。
この国には私が大切にしなければならない物は何もない。
そう思えてしまった。
だから…
私も返事の後に満面の笑みを向けてやる。
その顔を見た時、国宝陛下は少々驚いたみたいだった。
けれど私は止まれない。
振り向けば手枷に繋がった鎖を使者が優しく引き始める。
私の歩調に合わせてこの国の姫を帝国に連れて行くために、
歩き始めたのだ。
私の王国での日々はそれで終わりを告げる。
最後に見せた笑みは正しく国王陛下に伝わったか解らない。
けどどう捉えられても私は良かった。
王国を滅ぼすままで私は止まらない。
いや止まれない。
そんな生き方を決めた日となった。
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