異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【18-2】
皇帝陛下は自分のペースを乱すことなく次へと移るのだった。
「王子達はしばしそこ手待っておれ。
しっかりと相手してやるうえ…
男として残り少ない時間を堪能すればよいだろうて…
さて、次は王太子妃か。
お主は王太子妃として王妃をしっかりと支える役目をする事が、
王国の王太子妃としての役目だと思うのだが、
その辺りはどう考えておるのかの?」
「わ、私は未来の国母となるべく清い体で、
王太子様に愛される事だけが、役目だとお、思っております」
それは自分は無関係。
戦争を始めた責任は国王と王妃が取ったのだから、
自分は無罪放免にしてくれとそう訴えているに等しい回答だったのだ。
トカゲのしっぽきりとでも言えば良いのか…
帝国に連れて来られて戦争犯罪人として裁かれない様にする為の、
王太子妃という他国からj嫁いできた物だけが使える最大級の言い訳。
自らの死を回避する為なら何でも「言い訳」だ出来る、
全力で王太子妃と言う立場から逃げる女がそこにいたのだ。
王国で王太子妃と言う立場を甘んじて受け入れていたにもかかわらず、
権利だけを主張して義務から逃げる王太子妃の姿だったのだ。
「で、ですが国母としての役目を果たせない以上、
ぼ母国に帰る許可さえ頂ければ、私は全てを忘れて、
何も見ず、何も聞かず、何も話しません!」
「そうか、全てを忘れて母国に帰りたいのか…」
「はい!」
「時に聞きたいのだが王国は嫁いだ姫は故郷に帰す事が普通の事なのかの?」
皇帝陛下の頭によぎった事は間違いでなければきっと私の事だったのだろう。
だって今王太子妃が言った理論が押し通せるなら私はここにいない筈なのだ。
けれど王太子は、私の事など既に忘れていて、矛盾に気付けない。
皇帝陛下から知らされたその質問に王太子妃を救いたいがために、
矛盾を孕みながら、王太子妃の意見を必死に補強する意見を言ってしまうのだ。
「そ、れは、もちろんです!
新たに誕生した「姫」と同じです。
王太子妃は巻き込まれただけなのです!
関係のないただ間違って巻き込まれた王太子妃は、
帝国との戦争を忘れて母国に戻るべき人なのです。
皇帝陛下、王太子妃は母国に帰る権利があるのです!
私なら必ず巻き込まれた王太子妃を母国に帰します!
て、帝国もその慣例に習って無実の王太子妃を、
「高貴なる姫」を母国に帰してあげなければいけないのです!」
王太子は恐らく王太子妃をちゃんと愛している。
だからその愛した人だけでも無事に母国に帰す事を考えて王太子は、
最後の命乞いを「正当な言い訳を」皇帝陛下にしたのだった…
けれど…
王太子は言葉選びを完全に間違えてしまっていた。
―高貴なる姫を母国へ返す―
その言葉は王国の、まして王家と関わり合いになっていた人間が、
口にして良い言葉ではなかった。
だって…
「ほぉ?良く回る口だのう…」
ここに…
王国が母国に帰すべき責任を放棄し、
帝国という得体の知れない場所に捨て石の様に捨てられて、
母国に帰る事は叶わず帝国で生きる事になった「私」がいるのだ。
どの口が王太子妃を母国に帰すのは帝国の義務などと言えるのか…
自分達がもみ消した事実を忘れ去り、帝国は実行しろなどと、
ちゃんちゃら可笑しくて私は笑いが止まらなくなりそうだった。
そんな私の心の乱れを皇帝陛下は機敏に感じ取っているのか、
「しかしのぉ?
大それた事言っているが「人」一人、元の国へと帰せなかった王国が?
説教を垂れるかの如く帝国に王太子妃は母国に戻せとのたまうのかの?
なぁ王太子よ?
貴様の「妹」は逃げだしたが「黒薔薇姫」は逃げもせず、
帝国に染まり帝国の為に生きておる訳だが?
母国に帰されなかった「黒薔薇姫」の事をどう考えているのだ?」
「あ、アレは帰る意思を示さなかったのです!
わ私達は帰る様に促したのに!その善意を無下に断って、
帝国へ嫁いで行ったのです!
王太子妃とは違います!」
「ほぉ…
記録に残っておるのだかの?
周囲のお世話係に「帝国に嫁がされる」と。
自分の意思で帝国に来たわけではないと、
しっかりと黒薔薇姫は意思表明していたのだがの。
それでも自分の意思で来た事に王国内ではなっている様だから、
ほうほう。つまりこう言う事なだのぅ」
皇帝陛下は何かをひらめいたみたいで、面白い様にニタリとした、
悪い笑顔を王太子に見せるのだ。
「王太子妃の言った言葉は全て嘘だったのだのぅ!
献身的に王妃を支える毎日を続けたくて仕方がないと言う思いが溢れて、
それを言葉に表すと「国母として愛される」と言う言い方になるのだのぅ。
いやはや何とも王国の言葉は難しいの。
あい分かった。王妃と供に一生を過ごせるように手配してやろう。
帝国の為にその身を捧げると言う崇高な生き方が出来て嬉しかろう?」
「い、いやぁがぁぁあぁぁ」
その言葉を最後に王太子もまた轡を噛まされ、
その場から連れ出される事になったのだった。
暴れながら必死の抵抗も叶わず、引きずられる様に退場させられた、
王太子妃を王太子は悲壮感あふれる表情で見送る事になったのだった。
まるで出来の悪いメロドラマのワンシーン。
引き裂かれる一組の男女は二人して涙を流しながら名シーンとして、
語り継がれる事になるでしょう。
主にメイド達の間で場違いなメロドラマを皇帝陛下の眼前で、
繰り広げたって言われて。面白おかしくローカライズされるのかもしれない。
「さて、王太子よ?
お前はどうなりたいのかの?
国王はまだ死んでいないから貴様はまだ王太子のままだがの?
お前は姫に成れぬしなぁ?
最後の王族と言う訳では無いから名誉の死等ありえぬし。
ここはやはり、第2第3王子が姫になる事を手伝わせてやろうかと思うのだ。
兄弟として最後の触れ合いはしておくべきだと思うのだの。
そして手伝いが終わったら、そうさの「姫」を作るのに協力した、
「褒美」として毒杯を飲んで王太子として死ぬことを、
許可してやろうと思うのだが?」
「か、格別の配慮痛み入ります…」
「では決まりだの。
姫を作る準備をせよ!」
姫にするという意味をどの程度王国の王子達が理解しているのか解らないけれど、
王太子だけはちゃんとその意味を理解しているみたいだった。
皇帝陛下の掛け声とともに、私達妃の前に数着のドレスが用意されたのだ。
そうすれば皇帝陛下の側近が私達妃に
「「姫」としての先達者として、どのドレスが新しい姫に相応しいのか、
お選びください」
そう言われて、並べられた帝国製のドレスは…
明かに可笑しなサイズとして並べられていた上に、
その前には革の貞操帯?が用意されて腰には手枷付きのベルトがあったのだ。
私は第3皇子に支えられて、
第2皇子妃と皇太子妃様と一緒にドレスを選ぶ事になったのだけれど…
用意されたドレスはどれもこれも「着られるサイズ」ではない様に見えるのだ。
皇太子妃様はにこやかにしながら私と第2皇子妃が決めて良いと言ってくれて…
ドレスを選ぶ権利を譲ってくれたのだった。
とは言っても用意されたドレスはどれもこれも似たようなデザインだから、
何を択んでもそうそう変わる物ではなかったし、
私達が着せられている普段使いのドレスとは系統が違う物が用意されていたから、
どれを選んでも珍しいと思えるドレスだったのだ。
私は…私は用意されたドレスの中で一番王国にいた時に着せられたあの、
「黒薔薇姫用」のドレスに近しい物を選んだのだけれど…
それを選んだ私を見て第3皇子は複雑そうな顔をしたのだった。
小声で「王国製のドレスは気に入っていたのか?」
と、問われる事になったのだけれどすぐさま拒否を態度で示す事になった。
「帝国製デザインのドレスに近寄った物を着せるなんてありえません。
「王国の姫」なのでしょう王国に近いドレスを着せるべきでしょう?」
私がそう言うと周囲の側近たちがそのドレスを王子達の下に運んで、
行く事になったのだ。
もちろん手枷に貞操帯も運ばれて…
第2皇子妃も同じようにドレスを択び彼女は幼い子供が着る様な、
リボンたっぷりフリルたっぷりのとっても可愛らしいドレスを、
選んだみたいだった。
とはいえ、私達が見る事が許されたのはそこまでだった。
「では殿下達は「妃達」に処置を願いします」
側近の言葉と同時にまた私の頭はドレスに付けられた襟と厚手の布で、
前回と同じように視界を奪われる事になったのだった。
今回も同じように臭いも視界も周囲の音もほとんど聞こえない様になって…
私は、第3皇子に抱きしめられながら、
周囲の音を必死に聞き取ろうとしていたのだけれど、
その音はほとんど聞こえない。
前回よりも襟は厚く布ももちろんしっかりした物だったから、
けれど
「ふぐう!あがぁ!」
「ごくぅ!があぁ!」
二人の王子の叫び声と…
「許してくれ!許してくれぇ!」
という王太子の絶叫がこだまする時間が続いたのだった…
ただ、その叫び声が続いたのは数分程度で…
「うむ…良い姫が完成したの。これでゲームの景品もばっちりだの」
「左様でございますね。すぐさま会場へと輸送する準備に取り掛かかろうかと」
「そうだの…しかしのまだ「姫」として自覚が足りないかもしれんしの?」
「…では?」
「しばらく帝国で妃達の玩具にするもの面白いかも知れん。
まぁ妃達が望めばであるが、汚染されない様に「姫達」の「処置」も出来よう?」
「確かに第2皇子妃辺りは喜びそうですな」
「うむ」
強い香り付けがされた頭隠しは勿論臭いも遮断して、
一体何が行われているのか気になるのだけれど…
第3皇子に抱き留められた私はその安心感と長々と続いてしまった式典で、
体力を使い果たしてしまったのか、こちらから外が見えない様に、
外から私の様子も見えないから…
体を支えられる心地よさと私が落ち着く匂いが充満した頭隠しは、
生地が厚くなったせいか若干暗めになっていて…
閉ざされた視界の中で私は側近と話をする皇帝陛下の会話も、
途切れ途切れに聞こえているせいか私はウトウトとし始めていた。
皇帝陛下の裁きを聞いた時点で、
私の聞かなくてはいけない事はもう無かった事も、
気が緩んだ大きい原因だったかも知れない。
式典と言う場所で王家の人間が裁かれたと言う事実が、
私の中につっかえていた「王国」での立場があった「黒薔薇姫」が、
王国が消滅した事によって消えて…
私はやっと侍女達が言っていた「帝国の白薔薇姫」となれたのだ。
王国にもう振り回されないという現実がやっと私を安心させてくれたのだ。
呪いを掛けていた王妃が消え、その周囲を固めていた、
私に「呪い」を掛ける事が出来た人がいなくなったことで、
私の心は平穏を手に入れる事が出来たのかもしれない。
「これで本日の式典は終りとする。
第3皇子よ…妃を大切にするのだ」
「…はい」
その言葉を掛けられた皇子は私を抱きしめる力が強くなったような気もした。
同時に私の緊張の糸が切れで第3皇子に更に体を預ける様な形となったのだ。
その事に気付いていたのかどうか解らないけれど。
「終わったぞ…」
第3皇子から出た、「終わった」と言う宣言は、
私を眠りに誘うのに十分なキーワードとなったのだった。
その日、私は復讐を終えたのかもしれない。




