異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【17-1】
帝国の栄誉ある式典に参加する事になった王国の王族達は、
皆一様に情けなく震え続けていた。
どんなに反抗しても、
もうこの場から逃げる事は出来ない事は解っているはずなのに。
それでも剣を突き付けられて歩かされるその姿は一分でも、
一秒でも長く生きていたいと必死に歩みを遅らせて全員が全員、
笑ってしまう位に足を動かさなかったのだ。
けれどその場に留まる事は許されない。
許す訳が無いのだ。
だから…
―プツリ―
と、首へ突き立てられた剣がめり込んでいくのだ。
動かないならここで死ねばいい。
剣を持つ兵士の強い力と前へしか進ませて貰えない状況に、
観念したのか、なんとか歩くペースを上げたみたいだった。
用意された6人が並べる場所へと歩かされた王族達に注がれる視線は、
最後まで軽蔑の眼差ししか送られない。
この戦争の引き金を引かせたと言う自覚はないのだろう。
だって王国の王族にとって「黒薔薇姫」の命など簡単に捨てられる。
とっても軽い物だったのだから。
簡単に見捨てようとした事すら覚えておらず何も思っていないだろう。
そしてなにより…
帝国の帝都に剣を突き付けられて、
皇帝陛下の前で跪くなんて事は、彼等にとってはアリエナイ事なのだ。
だからこうして歩かされている事すら納得も出来ない。
「悪かった。私達が悪かったのよ。それは認めるから剣を下ろして!」
「謝罪する。この国王である私が謝罪すると言っているのだ!
だ、から、剣を納めてくれ!」
国王と王妃の無駄口は当然の様に聞き入れられず、
突き付けられた剣は首にめり込んだまま。
それに続いて泣き顔の王太子妃に何とか歩みを遅くしようと考える王太子。
けれど、その細やか抵抗すら許さない様に問答無用で剣が突き立てられたのだ。
スッと首筋を撫でる様に滑らされた剣先の移動した後からは、
ツゥーっと首に赤い線が現れて、タラリと血がにじみ出てくるのだ。
「ひっぃ、あっ…」
まるで女性の上げる悲鳴のような微かな声を漏らして。
そのにじみ出た血は首輪へとポタリと落ちて王太子の大切な正装を汚した。
じんわりと広がるその血の雫がしみ込む所を見た王太子は、
自然と歩くペースを上げたのだった。
突き付けられた剣の切れ味の良さを隣と後ろにいた王太子妃と、
王子達に見せられた3人もまた歩くペースを上げるしかなかったみたいだった。
薄皮一枚切り裂かれてその歩みを遅くすることを諦める。
第2王子と第3王子はその王太子の裂かれてにじみ出た赤い血を見て、
歩かない事こそ危ない事になると理解したのか、
王太子と歩調を合せながら歩くペースを決めたのだった。
静まり返る会場に木霊していた王国の王族達の嘆きの声は、
王太子の首筋からにじみ出た血を見ただけで無言となったのだ。
剣を突き付け続ける兵士も無駄口を叩かせないと言う意味でも、
王太子の血は王族達を大人しくさせるには丁度良い物だったのだ。
そうやって皇帝陛下の前に連れて来られた6人は、嵌められた首輪の鎖を、
床に設置してあった重りに繋がれていったのだった。
もちろん立っている事に出来ない長さで、その重しを持って移動する事等、
考えられない重さの様で、ビンと張った鎖はもう跪く事しか許されない。
周囲全員から上らか視線を注がれる形となった王族の圧迫感と、
心理的なプレッシャーは相当な物だと思う。
横並びに一列にされて、中心に国王と王妃。左に王太子妃と王太子。
そして右に第2王子と第3王子とした、並びで右に並ばされた、
第2第3皇子の二人は首輪と重しを繋がれて剣を突き付けられなくなったとたん、
暴れ出したのだ。
「クソがぁ!」
「っざけんな!」
―ギン―
と大きな音を立ててその場から離れて逃げようとした二人の王子だったけれど、
もちろん重すぎる首輪に繫がれた状態で逃げ出す事は叶わない。
往生際が悪いというべきなのか、それともこの場に至って悪態をつく辺り、
頭が足りていないのか解らないけれど、たぶんバカなのでしょうね。
暴れる二人の王子を制止する人は誰もいない。
冷めた視線がその二人の王子に注がれるのだが、
それでも、二人の王子達は真剣な表情を崩さない。
まだ逃げられる。
まだ生きたいと言わんばかりに動けなくなったら死ぬ。
殺されると考えて首に繫がれた重しを引きずってでても逃げようと、
必死に立とうとしていたのだった。
けれど暴れていられるのはほんの数分程度。
いやそれ以上に短い時間だったかも知れない。
なにせ「美しい王子様」な王国の王子達の体付きは気持ち悪いくらい細いのだ。
体力なんて当然の様にない。
暴れるだけ暴れて何もできない滑稽な姿を帝国の要人達に見せつけて、
無様な姿を晒していると気つけない。
これ以上ない恥をかいていると言うのに。
周囲からも王族らしくないとクスクスと笑まで零れていると言うのに。
だが、その元気な姿を見て皇帝陛下はとても楽しそうだった。
「ふむ、まだまだ元気だのう…
これならわしから言い渡す裁きも楽しそうな事になるかの」
その言葉を聞いた王族達は、一斉に皇帝陛下の方を向いたのだった。
そして恨めしそうに睨め付けようとするもすぐさま、言葉を失うのだ。
皇帝陛下は基本優しいし穏やかなのだ。
もちろん怒る事もあるけれど皇后さまを失った時から比べると、
覇気は衰えたらしい。
それでも、スイッチが入ってしまえば、その皇帝陛下のスイッチを切る事が、
出来たのは皇后さまとも聞いている。
そして、今、眼前に皇后様を失う事になった憎むべき「同じ呪い」を掛けて、
皇帝陛下にとって「可愛い愛娘」に対しても「同じ呪い」を掛けた奴等が、
お行儀悪く雁首並べて眼前に並んだのだ。
皇帝陛下の「怒り」と言う意味では頂点に達していてもおかしくない。
「ああ、慌てるでないの。
貴様らの処罰は既に決まっているが…
寛大なワシは、選択肢を用意してやっている。
好きに選ばせてやろう」
その言葉に6人全員の顔色が悪くなっている事と、
絶望に染まっていくのが手による様に解ってしまうぐらい、
表情がコロコロ変わっていった。
けれど、その中で怯え続けている何も言えない国王に変わって王太子が、
声をあげたのだった。
「お、恐れながら皇帝陛下。
この度の戦争は、帝国側から突然と侵攻。
これは無礼なのではありませんか!」
勇気を振り絞っての発現だったのだろうけれど、
けれど、そんな事は関係ないのだ。
この場は皇帝陛下の仕切る式典中なのだ。
皇帝陛下が何かを述べる事を許可しない限り話す事は許されない。
もちろん、普通の式典なら皇帝陛下もいきなり皇太子や側近から、
話しかけられても、不快感を示したりしない。
けれどダラダラと反抗的に入って来て無理矢理跪かされた王族に、
苛立ちを覚えずにはいられない。
まして帝国にとっては最悪の「罪人」なのだ。
「…発言を許したつもりは無いのだがのう?」
「ひっ」
皇帝陛下のひと睨みで王太子は震え上がるしかなかったみたいだった。
「ぁっぁ…」と小さく呟いて、黙るしか出来ないみたいだった。
「まぁよかろう。
何故王国に侵攻したか?突然の侵攻?何を言っておるのだ?
おぬしらが「王妃」を大人しく差し出して第3皇子妃に対する呪いを、
辞めれば、侵攻なんて面倒な事はしなくてよかったのだがの?
その代りに送り付けられた、ふざけた「罪人」と「使者」を使って、
しっかりと、宣戦布告してやったではないか。
ちゃんと「使者殿」を王城に投げ返してやっただろう?
宣戦布告の史書を持たせて。
断じて突然の侵攻ではないのぅ」
「あ…」
「それに、国境付近の町が「戦時体制の様な兵站が山積み」で、
兵士の訓練場の様な場所を隠す様に作っている辺り、
突然ではなくて、準備万端だったのだろう?」
そう。
帝国は王国への情報収集だってかかしていない。
だから、王国が帝国に侵攻しようとしている事なんてお見通しだったのだ。
私を嫁がせて時間を稼ぐと言う、見え透いた媚びる行動で帝国内の守りを、
弱くするなんて事は絶対にしなかった。
「別に、帝国に侵攻してくるだけなら、普通に迎え撃つだけだっただがの?
お主らは、わしの大切な者達に手を出した。
その結果が今お主らが立っている場所だの。
自覚無き権力を使った末路とでも言うべきかのぅ?」
「ち、違う私達は!私達は帝国の圧政で苦しむ帝国民を解放するために!
戦うつもりだったのだ!たかが一人の小娘の命の為に戦争を仕掛ける様な、
愚かな事をしたのは帝国だろう!」
「…何を言うのかと思えば、貴様らは何も理解できていないのだの?
まぁ頭が軽い王太子ではその程度の考えしか出来ないのかの?
はたまたそう「教育」したのか今となってはどっちでもの良い事だがのぅ…
国王どっちなのか答えてはくれまいか?
我が国は、少なくとも王国よりか良い暮らしを帝国民にさせているつもりだがの、
流石に圧政に苦しむ市民を解放する等と圧政をして、
不要な貧困に喘いでいるのは、王国民の方だと思うのだの?」
このまま言い合いを続けるつもりなどないと言わんばかりに、
何も言わず怯え続ける国王に皇帝陛下は話を振るのだ。
そして更に問い質される事になる。
何方が国民に圧政を強いているのかと。




