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異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【2-1】

逃げる時間は与えられない。

私の出来ることは城で大人しくこれから嫁がされる帝国の事を、

少しでも多く覚える事だった。

それが帝国で私の立ち振る舞いに影響するし、

なにより知らない事が怖かったのだ。

けれど私が嫁ぐまで過ごす部屋には窓一つない、

城の奥深くの部屋で迎えが来るまでの十数日徹底的に管理する事と、

私の知りたい帝国の事には全く触れる時間は無かったのだった。

それはこれから始まる婚約式と呼ばれる、

帝国に嫁ぐまでに決められた長い長い式の準備をしなければ、

ならなかったから。

もちろん姫をよこせと打診はされていたのだろう。

だから王国も打診に従って準備を続けていたのだ。

姫が無事に帝国にたどり着けるように。

精一杯の準備はされていた。

もちろんそれは私ではなく駆け落ちしてしまった姫の為の物。

けれどそれを自動的に私が使う事になる。

迎えの日が来るその時まで、

私は婚約式と言う名の帝国の立場を王国に知らしめる、

格差を表現する式に付き合わされることになった。

そこには信じられないほどの金額を掛けた、

豪華な式とするべく王国は言われるがまま金を払い続けるという、

地獄のような図式が成り立っていた。

王国は決して小さくはない。

全てを犠牲にすれば帝国の喉笛に噛みつけるほどには豊かなのだ。

その豊かさの前には「仮初」という2文字が付くけれど。

属国となっていないのはまだ経済的には独立していると王国が思っているからで…

帝国が本気になれば王国は捻り潰される。

けれど「今は」出来ない。

複雑な事情が帝国にもある様だった。

結局この王国は帝国の気まぐれで生かされているに過ぎないのだ。


けれど…


王国は自分達を帝国と対等なのだと思っている。

だからこそ大切な姫が嫁ぐことになった時、

帝国の言いなりと言われても帝国に言われるがまま支払い続けた。


その金と姫を使った経済戦争は帝国の負けという事で決着はついた。

払えないと思っていた金額を請求した帝国。

けれど支払いきった王国。

その金額で王族のプライドは守られたが王国は疲弊する事になる。

強固に守らなければいけない王宮の警備が疎かになる程度には。


―帝国は嫁ぐ姫の為に金を用意させたがけれど物は用意させなかったのだ―


交易という点でいえば王国は負けであり、

国と国の間の国境に配置される騎士の数にも多大な影響が出ただろう。

愛されていた姫。


彼女は逃がされた。


それが何を意味しているのか王国の内情を知り深く考えれば解る事でしょう。

今の私に帝国の考えは解らない。

けれど私の目の前に用意された現実からその事を推測する事は出来る。


私の逃走を防ぐために付けられた3人のメイドは、

これから始まる帝国への時間のかかる旅路と私の帝国での立場、

そして王国がどれほどの物を用意していたのかを、

私は身をもって解らされたのだった。



「帝国に嫁ぐ姫は絶対服従の証を身に着けて嫁がなければいけません」



メイドのリーダー格がそう私に教えてくるのだ。

つまるところ、


―私が従順である事を示すために用意された物を身に着けて嫁げ―


って事だった。

それは帝国の用意した枷を嵌めて従う意思を見せるという、


―婚約の儀式―


粗雑に扱われ王国は帝国より格下だと内外に示す場所だった。


大切に扱われた姫が枷を嵌められ苦しみながら嫁がされる。

それは国辱にも等しい行為ではあるがその力関係を表すバロメーターとして、

単純明快な事でもある。

つまり姫に着けさせられる枷の数によって姫が不自由な姿を、

強いられれば強いられるほど、帝国は王国に対してどれだけの事が出来るかを、

身をもって表せる場所でもあった。


国境で姫を引き渡すまで続けられる婚約式と言う名の姫の移送。

それが嫁がされる私に訪れた最初の使命だった。


「嫁ぐ姫」である私を使ってまた王国と帝国の茶番がくり広げられるのだ。

私のドレスはもちろん王国が用意する。

姫として相応しい格好で美しく磨き上げた姿に仕立て上げれられる。

けれどその上から帝国は見せつけるのだ。


「お前らは格下だ。その格下のお前らが逆らう事は許さんぞ。

どんなに着飾ろうとも帝国に繋がれている事を忘れるな」


これでもかと言う位に太いブレスレット。

それは宝石の埋め込まれたブレスレットの形を取った手枷であり―

同じ様に首輪が、足枷が、胴枷まで用意されていた。

王国側はそれに対して嫁ぐ娘を気遣い楽に移動できる物を用意するのだ。

王国に引き渡されるまでの間。

この王都の王城で愛された証の専用の婚約用のドレスを着せられた姫は、

数日間掛けて帝国の国境へと向かう。

もちろん大切な姫が汚れる事は許されない。

だから姫は馬車の中に数日間閉じ込められる事になる。

それまで姫は馬車から降りる事が許されない。


出来るだけ大型の馬車に多くの馬を繋ぎ少しでも早く移動させる。

そうやって姫への負担を王国は減らそうとするがそのスピードは、

帝国の兵士によって決められる。王国の兵士は誰一人近づけない。

帝国の御機嫌次第で姫は何日も馬車から出られない日々をすごす事になるのだ。

帝国に引き渡されるまでの間、姫に近づけるのは世話付きのメイドだけ。

そのメイドさえも帝国から派遣された人員で固められる。

馬車に乗せられた姫を気遣ってくれる人は誰一人おらず、

姫は孤独な旅を強いられるのだ。

本物の姫じゃない私が酷い事になるのは言う迄もなかった。


式が始まるまでの間に残された僅かな時間、

私は必死になって帝国に行った先の身の振り方を考え続けた。

どうやればこの王国に仕返しが出来るのか…

そんな事でも考えなければ私の気が晴れる事なんてアリエナイ。

どうせ失うのであれば…

私は…私をここに送り込んだ王国だけは破滅に追い込みたいと、

強く願い思うようになっていった。

助かれない絶望感と復讐心だけが私を支えていた。

自分自身の心が黒く染まっていく事を止められなかった。


そしてそんな私に更に追い打ちをかける様に、

第3王子が私の下にやってくる。

彼はおしゃべりだった。

私が本物の代わりに嫁ぐことが決まった時点で、

国王陛下は5年計画を発動させる事にしたと…

その計画の全容を話し始めたのだ。


「君がさ、5年我慢すれば俺が助けてやるよ」


等と自慢げに私に言ってきたのだ。

帝国でどんな形であれ結婚式を挙げてしまえば、

王国的には勝利という事らしい。


姫が嫁いだ後は王国の負担は軽くなる。

本来なら嫁いだ娘の幸せを願って毎年姫の生活費を王国は納めさせられる。

その金を使って帝国はまた優位に立てるというサイクルが出来ているのだ。

経済的に王国に負荷を掛けてそして武装を強化できない様に、

余裕のない財政状態に落とし込む。

長い安定を続けたい帝国にとっては程よく続けられる、

王国への圧迫政策として効果的で管理の楽な計画でもあった。

けれどこれが嫁いだ娘が偽物なら?

適度に金がないふりをして拠出金を減らして軍備に回す事も出来る。

私が子供を産んだら更に良い。

偽物の王族の血を引く帝国の皇子なんて考える必要もない。

それに武力で刈り取った土地の統治者として矢面に立たせれば、

その後の統治も楽になる。


力を蓄える事が出来れば王国は帝国に侵攻出来る。

そんな夢のような計画が王国内では進んでいた。


本物の姫が嫁ぐのならこんな無謀な計画を王国は考えなかっただろう。

けれど、嫁ぐのが私だから…

私が死のうと王国のロイヤルファミリーの心は痛まない。

だからこんな無謀な計画だって容認されるのだ。


口の軽い第3王子はその戦争で大活躍をして、

王位継承権はないけれど新しく得た土地で領主として大きな地位を得る。

その事を夢見て…

夢と計画を私に話したのだった。


つまり私は長くて5年間程度で帝国に基盤を築かなければ、

いけないという事だった。

王国が帝国に攻め込んだ時点で私の命は尽きる。

盟約を破ったとして私は殺されるだろう。

つまりタイムリミットまで決められた、

帝国での生存を掛けた戦いを強いられる事になったのだった。

嬉しくはないが…

口の軽い第3王子には感謝したい。


逃げた姫のサイズから私の体のサイズにドレスの大きさを変更しながら、

身に着ける物一つ一つのアクセサリーや宝石に乱れがないかを、

チェックするメイド達を見ながら私は毎日の様に体を磨かれ続けた。

そして同時に王妃様による皇子様に寄り添い支え方を無駄に教え込まれた。


これが第3王子の計画を聞く前だったら…

多少はこの王妃様に感謝できたかもしれない。

けれど…

5年間というタイムリミットが用意された中での話しなら、

何も知らないである日切り殺されろと裏で言われているにすぎないと、

この王国には本当に私の味方になってくれた人はいなかったのだと、

改めて思い知らされた。


もちろん第3王子の言っている事が嘘かも知れないとも思い、

少し王妃様に質問をしたのだ。


「私が嫁げば王国の負担は軽くなるのでしょうか」

「そうね。帝国の気分も少しは晴れるのではないかしら。

娘の為とは言え王国は少し帝国に、

見栄を張りすぎている様な気がするもの」


それはこれからの財政的にどうするか解らないが、

暗に私には金を掛けないと言って来ているみたいで…

仕送りが少なくても我慢しろと訴えてきている様にも見えた。

財政状態を訴えて私が少しでも王国に請求するのを、

防ごうとするかのような意見。

それは最後の最後までぬかりなく私の心情を前向きにして、

帝国で身を削る様な生活をしろと言っている、

王妃の本音が見え隠れする回答だった。

王国の財政が何処まで酷い事になっているのか今の私には解らない。

けれどあの第3王子が言ってきた、

兵士を集めての帝国への侵攻作戦もありうるかのような回答ではあった。

私は王国で利用さて尽くした。



次回の更新は明日の20時です。

完結まで毎日更新します。

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