異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【10-2】
その日は第3皇子も鎧を身に纏っていて…
もちろん私も鎧を身に着けさせられていた。
皇子の鎧と同じデザインに加工された私の鎧はそれだけで、
私が第3皇子妃と解ってしまうもので…
けれどピッタリと身に着けさせられた鎧ははっきり言って邪魔くさかった。
これを身に着けて生活させられるのは少々…
いやかなりきついなぁって思って。
けれど。それでも私はそれ以上の事は言わなかった。
それよりも、今日から眠る時に隣に第3皇子がいない事の方が怖かった。
今、私の存在意義は第3皇子の為だけにある。
その彼が隣にいなくなると思うと…
帝国に来て一日だって皇子と眠らない日は無かったのだ。
夜ベッドに眠れば、どんなに体が痛くたって動けなくたって、
絶対に彼がそこにいる。抱きしめてくれる。私の名前を呼んでくれる。
その安心感は計り知れないものがあった。
それでも私は皇子が戦争に行く事を止められない。
彼と歩めるかもしれない何十年も続く道を捨てる事が出来きれなかった。
皇子に支えられながら「安全な所」に向かって私は歩き続ける事になった。
「安全な所」までどれだけの距離があるのか解らない。
けれどお姫様抱っこされれば直ぐにでも着いてしまう事位は想像できたのだ。
小さな悪あがきって思われても良い。
少しでも一緒にいたかった。
それでも。
どれだけ時間をかけても。
皇帝陛下の用意してくれた「安全な場所」についてしまう。
大きな扉を潜り抜けて、皇帝陛下の直轄のエリアの中でも一番の奥にある、
更に特別な扉を抜けた先。
そこにあったのは下に降りる階段で、明らかにその「安全な所」があるのは。
地下だった。
広めの螺旋階段を下りていけば、大型の家具を運び込む事が出来る程度の、
空間の廊下が続く。壁の装飾品も手が込んでいて。
けれど空気は動いていない。そんな空間だった。
少し広がったエントラントの様な場所へとたどり着けば、
そこにあったのは大き目の両開きの扉。
特別と言って良いかもしれない。
私にはその据え付けられた扉の意味は解らなかったけれど、
エントラント前にぎっしり敷き詰められた魔術刻印を見れば、
その空間が何のために用意されているか理解せざるを得なかった。
帝国最高の結界がそこに張られ続けている。
魔術干渉をほぼ100%遮断できる場所で扉を潜った瞬間、
空間が切り離されたような感覚になり、
別の場所に移動した様にすら感じられる。
…たぶん違うかな。本当に移動しているんじゃないかと思う。
ここは帝国であって、帝国ではない空間な気がするのだ。
そんな事を思いながら…
私はその内部空間にあった部屋に案内される事になる。
細かな装飾こそ施されてはいるものの、空間は限定的。
現代風に言うのであれば、核シェルターの様な堅牢さを感じられて、
生活空間としては申し分ない物が揃っているのだけれどそれ以上の、
快適さを感じる事が出来ない場所だった。
閉所にある場所を極力閉所と感じられない様にデザインして、
何とか場を整えたけれど、それ以上に快適さは与えてくれない場所だった。
それでもここは「安全な所」妃の命を守れる最上級な場所だと思えば、
十分上等…
いや、上等すぎると言える場所だった。
ベッドが設置されている私室というか寝所と呼べる場所が、
4か所用意されている辺り、その4か所は私達妃と皇后さまがいた場合、
使用する場所と、簡単に考えついてしまうレイアウトだった。
あくまで帝室にいる妃が暮らす所であって、
皇帝陛下以下皇子達が住む場所ではないと主張し続けていたのだ。
帝国の弱点が安全に暮らせる場所と考えられたその空間は、
あくまで緊急用の避難場所。
出入りは厳重に管理され侵入された場合はエントラントの扉を閉め、
魔術を起動してしまえば、空間は断絶される。
それ位の設備だった。
魔術と技術の結晶の様な空間だった。
ベッドに私を座らせると、第3皇子殿下は私の両腕を握って、
優しく語り掛けて来るのだった。
「決して快適ではない。
だがお前が暮らす場所として一番安全な場所だ。
辛抱してくれ」
「はい…ご武運を」
「ああ。必ず帰ってくる」
その後にぎゅっと抱きしめられた私は付いてきた侍女達の手によって、
そのままベッドに寝かしつけられる。
…もちろん鎧は着たままでとてもじゃないが眠る形ではないのだけれど。
それでも皇子がいない妃がベッドで眠る場合はお寝巻きに着替える事は、
出来ないと言われてしまった。
ベッドに寝かされながら皇子の後姿を見送った私は
一緒に部屋に残された侍女達の手によって、ベッドの上で姿を整えられる。
そして着御ごちが悪くて眠り辛くなっても着せられた革鎧の意味を、
侍女達から説明されたのだった。
二つ一組で作られた革鎧には、特別な魔術か掛けられていて、
妃の着ている鎧はいわゆる全身に着けたセンサーのらしいのだ。
「…革鎧には、第3皇子妃様が身に着けて生きている限り、
無事という事を第3皇子へ伝え続けるという、魔術が掛けられています。
もしも第3皇子妃様のお体に何か問題が起きた時、
その部位が反応して対となる第3皇子殿下が身に着けている鎧が、
変色するようになっているのです。
それは呪いの進行具合が手に取るように解る様になっているのです…」
それは万が一にも、私が悪化したら戦地から戻ってくると言う意味で…
戦場では鎧は脱がないから、直ぐにでも私の容態を確認できるように、
特別に編み込まれた魔術だとの事だった。
この鎧は私の体温を感じ取っているみたいで。
脱いでしまえば私は死んだ事になって、慌てる事になるとも言われたのだ。
そこまで心配なら一緒にいてほしいとも思う。
けどっ!
もう決めた事だから1年間は我慢する。
一年後、手術が必要な時第3皇子殿下がいなければその時は、ね?
いなくなっても良いでしょう?
何方に転んでも私は、第3皇子に未来を預けたのだから。
それから始まったのは、何時もと変わらない日常ではあったのだけれど、
日向ぼっこの時間はなくなったし、
冒険者との語らいの時間も勿論ない。
私に許されたのは戦争の戦況報告を聞く事と、
皇子の活躍を知らされる毎日だった。
動かなくなった手では、手紙を書く事もままならない。
リハビリで左腕を動かす事を優先的にやらせてもらって、
なんとか字を書けるようになったら、戦況報告を持って来てくれる、
兵士に皇子に手紙を渡して貰う様に頼んだのだ。
それくらいしか…
私には出来なかったから。
けれど書ける文字なんてたかが知れている。
それでも、判別が出来ないほど汚い文字でも、
私は文字を書いて第3皇子に届けて貰う事にした。
「私はまだ生きています」
それだけは自分で伝えたかった。
伝えるべきだって思ったから。
返事を書く時間がない事も理解しているから、
一方的に送り続けるとしか出来ないけれど…
リハビリを頑張っている証拠とでもいうのかな…
皇子がいない中でもなんとか自分の存在に価値を与えようと必死だった。
…のかもしれない。
少しでも、私の気持ちを届けたくて…
皇子の近くにいる様な、会話をしているような気持になりたくて、
私は手紙を書き続けていたのだった。
順調な戦争の進行具合を聞きながら、第3皇子は私の手紙を無視することなく、
時間がある時には、返信してくれていた。
「字が上手くなっている」
「その調子で手紙を送り続けてくれ」
「今日予定の進攻を2日程度、縮めた早くおまえの下に戻りたい」
短文ながら、しっかりと私の手紙を読んでくれている様な返事が届くのだ。
それを読む度に私は気持ちを落ち着けるのだ。
戦争でいない、自分の隣にいるべき人の存在を思いながら。
次回の更新は明日の20時です。
完結まで毎日更新します。




