異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【9-2】
馬車は予定通りの場所に到着したのかゆっくりと止まって。
私はまた抱きかかえられて降りたのだ。
勿論周囲を見る事なんて出来ないし全身ドレスに包まれたままの、
私はその外気だって解らない。
しゃっしゃっと皇子が草を踏みしめて歩く音だけが聞こえてくるのだ。
状況が解らない私に代わって、皇子が周囲の事を話してくれる。
「特に変わった物を作ったとかじゃない。
木々が立ち並び、道が手入れをされている訳では無いし、
誰かにこの場所に俺の故郷の「墓」と言った訳でもない。
…お気に入りの場所とは伝えてあるが。
ただ一つだけ。
俺の故郷に似ているのだ。
そして物心がついたころ一本の木の苗を取り寄せて植えた。
特別に探して貰ってどんな花が咲くかだけ教えて貰って。
自分の手で植えたのだ。
ただ何となく見た事のある―――
春にピンク色の綺麗な花を咲かせる木だ…
まだここに植えてから一度も花を咲かせてくれないが…
何時かは咲いてくれると信じて毎年見に来ている」
なんとなく彼がイメージしている気が解ってしまう。
桜だきっと。その語り掛けもさることながら、
いつだってあの木は故郷のイメージと重なる所があるから。
「ここが俺にとっての「墓」で無くなる事を願って。
いつか…この木が花を咲かせる時に、
また、ここに来たいと思っている
新しい「今」の為のお前との時間が欲しい」
ただ、その木の近くで優しく語り掛けられて…
第3皇子殿下にとって、故郷は忘れてしまいたいと思える思い出と、
今を生きる以上、昔の故郷に縛られるわけにはいかないと言う考え。
皇子は変わろうとしていると、私に使えたかったのかもしれない。
変わるために。今の為の戦争に行きたいのだと。
私が、その考えを受け止められるかは別の問題として。
「変えようと思っているのなら、
この場所は皇子にとって「今」の為の場所となるでしょう」
「…その場所にお前がいない事を俺は絶対に許さない」
「…そう、ですか」
「ああ」
ただ、私が隣にいると言う訳にはいかなかった。
簡単な言葉で皇子を縛り付けつような事を言ってしまっては、
彼の今後にもかかってしまうから。
だって、ね。
また、毒袋は膨らみ始める。
戦争は始まったけれど何時までかかるのかなんて解らないのだ。
皇帝陛下の報復の戦争が「終結」と言われるまで5年はかかっている。
侵略国を根絶やしにしたと言う事もあるのだけれど…
私にとっては開戦しただけなのだ。
戦争が終わるまで、体が持つかなんて解らない。
それが私の現実。
延命出来ているだけなのだ。
それに…
いつかと言わずとも第3皇子殿下には後を任せる為の子供だって必要になる。
今のままなら、たとえ呪いから解放されたとしても私の体はボロボロだ。
出産するだけの体力を取り戻せるかどうかだって解らない。
私は、どんな言葉を言おうとも皇子をおいて先に逝く未来しかないのだ。
それが痛いほどわかっているから、
希望となる様な言葉を掛ける訳にはいかなかった。
馬車に戻った私は帰りは無言のままだった。
けれど、その馬車の中で皇子は言うのだ。
「俺は、お前を諦めない。
お前はっ!俺の隣で生きるのだ」
それでも、返事は出来なかった。
私の数年先の未来が明るい物ではないって思えてしまうから。
年々体力は戻せなくなっていく。
今年の手術までにはギリギリで体力を戻せた感じだったのだ。
来年は…って、思うと怖くなる。
私は呪いから逃げられない。
それでも返事が出来ない私を皇子は強く抱きしめるのだ。
私を失うことを恐れて…
皇子のプライベートスペースに戻っても、
この重苦しい式典用のドレス直ぐに逃がされる事は許されなかった。
背凭れの極力倒された私専用の休憩椅子に座らせた私は、
やっと落ち着く体勢になる事を許されたのだ。
リハビリ前で腰回りがじくじく固まっていて前回の手術後も、
リハビリ直前の体が私自身一番苦痛に感じる時期で。
一番筋力も落ちている上に治り掛けの緩くなった筋肉が、
体に思いっきり付いて全身に変な負荷を掛けて歪ませて来るのだ。
動かす事を許されず、保護具や矯正具が一番きつく締め付けて、
体を補正し続けておかないと。
私はたちまちの内にねじ曲がって歪な体付きになってしまうだろう。
今の私は楽な体勢ん位はなったけれど、楽な姿ではないのだった。
式典用のドレスは見られるためと防護服としても役割もあるから。
重くゴーシャスに作られている。
もちろん最大限体に配慮はされているけれど、
いつも軽い病人着の様なドレスを着ている私にとっては、
直ぐに着替えたいものだった。
それに今のドレスは顔も覆われていて不安になってくる。
下着として身に付けらせられている物も式典用のドレスに合わせて作られた、
「全身を覆う事」が目的のドレスだから本当に何も感じないのだ。
唯一露出する顔周を閉じられてしまえば、
寒さや温かさだって解らない様に作られている。
けれどその耳元の蓋がまたカシャリと開く音がすれば、
やっと皇子以外の聞きなれた声が聞こえてきたのだ。
「第3皇子妃様。おかえりなさいませ」
それはいつもお世話をしてくれる侍女の優しい声だった。
思わず、私はドレスを脱がせてほしいお願いしたのだけれど。
「申し訳ありません。今しばらくそのままでお待ちください。
そう言われるだけだったのだ」
それからまたどれだけ待たされたのか解らないけれど…
私は抱き上げられて、皇子の足の上に足を開いて向かい合って、
乗せられる形を取らされることになった。
皇子の両腕が背中に回らされると、ぎゅっと力が込められるのが解る。
そしてついに今回の戦争の話が始まってしまうのだ。
「明日の先発隊の行軍開始と同時に俺も戦地へ赴く。行かせてくれるな?」
「ダメです」
私は即答だった。
皇子を行かせられない。
だって、行かせる必要は無いのだ。
帝国対王国の戦いは皇子がいかなくたって勝つ事が出来る。
それは解りきった結果なのだ。
それが解っていてなんで行こうとするのか?
私の元にいてくれないのか。
理由が解らない。
「…帝国の戦術研究所の結果が出たのだ。
およそ王国の王都を落とすのにかかる期間は2年半かかると解析が取れている」
!2年半。その2年半と言う数字は、
そのまま私が呪いに苦しむ時間だという事なのだ。
2年半かかるという事は、私はあと最低3回の手術を受ける事になる。
そう、「最低」3回なのだ。
王国はこの戦争の引き金になった理由が何なのか理解しているはずだ。
王国を出る時、第3王子が言っていた事が本当で。
5年後侵略戦争を起こすつもりだったら戦争を起こすタイミングで、
私を呪い殺そうと考えていても可笑しくは無いのだ。
帝国が喪に服している時に状して、宣戦布告をして来たって、
可笑しくは無いのだ。
…そうする心算だったと思わせる事は多々あるくらいに。
私を呪い殺すために5年かけて毒袋を育てるつもりだったのなら、
そのペースを速める事を考えても可笑しくは無い。
戦端が開かれた時点で、直ぐに呪いの量を飛躍的に増やして、
私が死ねば、戦争は一時的に停戦に持ち込める。
その隙に戦力を立て直して継続戦闘をする力を手に入れたり、
他国に支援を求めたりしたっておかしくないのだから。
「あと最低3回の手術に、お前は耐えられるのか?」
「そ、それは…」
「うまく事が運ぶ戦争なんてあまりない。戦争が伸びる事はあれど、
縮む事は今のままでは恐らくない。
王国にある王城を落としたとしても、
目的の王妃が逃げて別の砦に逃げこむだけでも数カ月単位で、
戦時間は伸びるのだ。
お前の手術回数は、4回5回と増える事になる」
「4回5回…」
それは、あと4年間も碌に体が動かせない生活が続くって事だった。
あと4年~5年と言う数字は、皇帝陛下の報復戦争を考えれば、
ありえない数字じゃなくて。
むしろ戦術研究所の数字の方が楽観的に見えてくる。
4回と言う数字には絶望を覚えないではいられなかった。
「あぁ…」
その数字は今の私には重すぎる。
自然とこれからの事を考えると、目から零れ落ちる物が…
4年間もの間ベッドの中で第3皇子に心配される毎日…
生きている事を確認されて体の状態を確認され続ける毎日…
頬を伝うものがあって…
考えるまでもない私の涙だった。
「ぁっぁ…」
たぶん私は…
そこまで耐えられない…
そこまで生きていたいと考えられない。
「だがここに「俺」という要素が加われば状況は変わってくる。
戦術研究所の俺の「運用」を考慮にするのなら、その戦争期間は、
劇的に縮まる。縮める事が出来る。
…一年だ。一年と言う数字を戦術研究所は提示してきた」
一年ならあと私が手術を受けるのは1回で、済むかもしれないって事だった。
その数字には魅力を感じてしまう。
第3皇子はもう一度私を強く抱きしめてくるのだ。
「行かせてくれ。
お前を失わない為には俺はいかなくちゃいけない。
俺が行けば戦争の侵攻状況は変えられる」
短くなると言う言葉には魅力を感じないではいられない。
戦争は絶対じゃないし、皇子が戦死しないとは限らない。
けれど戦死した場合、私は生きる意味を失うのだから。
その時の事を考える必要はないの。私も一緒に逝くだけだから。
皇子が従軍したって、期限は短くならないかもしれない。
それだったら、少しでも長く近くにいたかった。
「…一つだけ約束をしてくれるのなら」
皇帝陛下と皇后さまの話を聞いて思ってしまったのだ。
最後まで私は第3皇子の隣にいたいのだと。
呪いで死ぬのはもちろん怖い。
けれど第3皇子の傍にいられなくなるのも同じように私には怖かった。
出来る事なら私も進軍について行きたい。
けれどそれが絶対に許されない上に、多大な負担を皇子に掛ける事になる。
だからここが私の限界点―――。
妥協点だった。
「何を約束すればいい?」
「もし、一年以内に戦争が終結できなかった場合は、
従軍を辞めて私の下に戻って来て下さい。
その後の時間を私と共に生きて下さい」
一年間は我慢しよう。
それで戦争が終わらなければ、次の手術を受けた後は、ずっと…
ずっと一緒にいて貰うの。
それで残りの命の時間の使い方を、二人で考えるのだ。
「約束しよう。
必ず!必ず一年間でケリをつける!
だから、行かせてくれっ!」
「はい…」
それで了承した私は、ドレスの顔隠しから解放されたのだ。
そこには涙を流した後が顔に残った第3皇子がいたのだった。
顔隠し付きのドレスは正しく私を皇子が見せたく無い物から、
隠していたのだった。
第3皇子も参加する戦争が始まる。
次回の更新は明日の20時です。
完結まで毎日更新します。




