異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【9-1】
式典の後私はお姫様抱っこされたまま運ばれ続けていた。
もちろん運んでいるのは第3皇子だと思う。
皇子は必要以上に私が不特定多数の人と接触するのを避けさせるし、
なにより皇子のプライベートルーム外に出る場合、
私は皇子がいるとき意外に外出する事を禁じられているからだ。
とは言ってもこの体だし誰かの介助なしに動けないのだから、
連れ出されない限り私が皇子のプライベートスペースから出るなんて事は、
絶対にありえないのだけれど。
それでも不安にはなる。
式典後すぐに私を連れ出されたはずなのに式典会場に歩いて行った時より、
時間をかけて運ばれているように感じたのと…
未だ私は周囲を確認出来ないでいたからだ。
顔に取り付けられたままの顔隠し。
会場の参加者達に私の顔を見える訳にはいかないって配慮は解るのだけれど、
抱えられて運ばれ続ける私には周囲の風景どころか、
匂いも、音も聞こえないのだ不安にもなる。
小さく「ぁ」と声が漏れるだけでも、
その顔隠しの中で音が反響して大きくきこえるし。
なによりその声を漏らす度に皇子は私が不安になったと思うのか…
器用に手を首に当てられて首周りをキュッと締められ頭を動けなくされるのだ。
結局運ばれ終わるのを大人しく待つしか出来なかったのだ。
けれど、なかなか着かない上に、
―キィ…パタンー
と特徴的な音を出す扉を開いてその中に、私と皇子は入り込んだのだった。
「出せ。行き先は伝えていた通りだ」
「はい」
その言葉だけが聞こえて。
けれど、私は抱きかかえられたまま。
第3皇子は座ったみたいで、その膝の上に乗せられたみたいだけれど…
それでも私を隣に座らせたりとかしなくて。
ずっと私を抱えたままだったのだ。
独特の振動が加わり始めれば、どうなっているのかは大体予想がついた。
と言ってもぼやけながら聞こえてくる音だけでもバレバレなのだけれど。
馬車に乗って移動していること位は解ってしまう。
皇帝陛下は開戦の号令を出したのだ。
もう、この国は平時の状態ではなくて、
戦時対応が始まるって事は私でも理解できる。
だとしたら皇子はともかく、
私も他の妃と同じく王宮の皇子のプライベートスペースか、
皇帝陛下がご用意して下さる「安全な所」に移動しなくてはいけない筈なのだ。
私が第3皇子殿下に戦争に参加しても良いと言ってしまった場合、
私が暮らすのはその皇帝陛下の用意して下さる、
「安全な所」に移動しなくてはいけない。
第3皇子のプライベートスペースは、あくまで第3皇子がいるから特例的に、
「安全」と認められている場所に過ぎないのだそうだ。
…皇后様を失った皇帝陛下の変化はすさまじい物だったらしい。
報復もすさまじかったけれどそれ以上に帝国の王城の姿は、
大きく変化したのだそうだ。
帝国としては毒殺や暗殺を中心とした戦いは得意だった。
けれど皇后様を狙い暗殺者を送り込まれる事は想定内。
だから軽々と撃退できたのだ。
何時ものルーティン。
襲われるけれど必ず守って貰えると言う安心感もあったのだと思う。
つまり馴れてしまったが故に対処が送れたのだ。
100%守られるなんて保証はないけれど、それでも皇后さまは健在。
傷だらけになっても生きていたのだ。
そして皇子達も3人産んでのんびりとした王宮での生活。
「暗殺されかけただけ」と、軽く言ってしまえるような、日々だったのだと言う。
深く切り傷を付けられる事もなかったし。
その後の治療でその傷跡さえも、見えない所まで回復していたのだ。
だから、誰の目に見てもちょっとした傷を体に付けられた程度にしか、
思われていなかったのだ。
けれど暗殺者は必要に送り込まれ続けたのだ。
何人も。何十人もかけて送り続けられた暗殺者は、
皇后様に直ぐにでも傷をつけ続けたのだ。
そして、何十人もの暗殺者を「消費」して、一つの呪いを成就させたのだ。
何度も狙われ、何分割にもして、少しずつ付けられた。
傷跡を繋ぎ合わせて完成する呪いの入口。
起点が作られれば後は簡単だった。
その起点を軸に、今私が受けている擬態機能を持った肉体を変質させていく、
呪いを、ゆっくりとけれど確実に皇后さまの体の中に植え付けていく。
もちろん皇后さまも毎日体調のチェックはされるけれど、
その呪いの侵攻は人が体調を崩して、寝込むぐらい自然に体内に毒袋を、
作り始めたのだ。
薄く長くを基本として、毎日毎日体にしみ込ませるように広がった、
呪いは、気付いた時にはもう手遅れだったのだ。
私と同じように皇后さまも手術を受けて、
保護具を身に着ける生活を送る手筈だけは整えられた。
けれど気付いた時には全てが遅すぎたのだそうだ。
全身に広がった、毒袋の位置が何処にあるのか探している時間もなく、
また摘出手術が成功したとしても保護具が無いから呪いを防ぐ方法はない。
結局助かる見込みはなく皇后さまは手術を受けなかったそうだ。
最後の最後まで皇帝陛下の隣に立って歩いて…
皇帝陛下に笑顔を向けてある日突然逝ったそうだ。
葬儀も恙なく行われて…
暫く皇帝陛下は思い出に浸る。
けれど、その後は皇帝陛下が先頭に立って戦争が始まったのだ。
皇帝陛下は決して許さなかった。
術者も見つけ出しその命令を支持した隣国の王国は問答無用で処罰したのだ。
その王国の国王が
「これは私が考えた事ではない!違うのだ!」
「では誰が指示した?」
「それは、わ、我が国の隣国の国王に!唆されたのだ!」
「解った」
「そ、そうか!ではその剣を納めてくれ。話し合おう!」
「ではその隣国も滅ぼそう。貴様は先に行け」
「やめろ…やめてくれ!」
等と言うからその隣国にも侵略戦争が続いたって事で。
結果的にデストピアが誕生したらしい。
自分は暗殺されない。妃だって近くにいれば守れる。
そう考えていた皇帝陛下はその過ちを認めて全てを変える事にしたそうで。
油断と慢心。
言うのは簡単だけれどその油断に対して、
皇帝陛下は必死に対応策を王宮に作り続けた。
自分の住まう場所を中心に暗殺者の侵入など絶対許さない作りへと変えていき、
皇子達が治めるプライベートエリアの中でも、
妃達が住まう場所は特別に誂えた結界構造で作られているらしい。
私達には「安全」としか伝えられていなくて、
ほとんどの事は機密事項に該当してしまうのだそう。
過保護な位に強力な結界が張られていて、外部からは認識阻害・魔法無効化と、
それに続く複雑な秘密の守り手が仕込まれた「帝国の最高傑作」が、
注ぎ込まれて形を成しているのだとか。
けれどそうだったとしても私が存在を感じる事が出来る事はほとんどなかった。
その用意された箱庭で大人しく生きるしかないのだけれど。
私の見る普通と変わらないお部屋の裏には、
すさまじい労力が割かれているって事だけは理解せざるを得なかった。
それでも…
そこまでして守られた箱庭を潰そうとして周囲の各国は暗躍するのだ。
大切な妃達を狙って来る奴等は後を絶たない。
帝国の強さと堅牢さを知り、
けれど周辺各国の国王たちは野心を抑えずにはいられない。
帝室の「心の弱さ」を機敏に感じ取っている周辺各国は、
帝国の弱さが最愛の「妃」に、ある事を知ってしまっているのだから。
領土拡大を掲げ帝国を奪い取ろうとする野心の大きい国は諦めない。
絶対に諦めない。
大陸の三分の一を占めるにまで広がってしまった帝国の敵は多い。
正攻法で帝国にダメージを与える事はほぼ不可能と言っても良くて。
虎視眈々と帝国に隣接する領土を持っている国は、
帝国の領土を少しでも切り取ろうとあらゆる手段を考える。
その帝国最大の単体戦力。
戦況をたやすくひっくり返せる能力を持った、
―皇帝直系の血を引く皇子を無力化できる―
というコストパフォーマンスを考えたら最高の誘惑に逆らえる、
他国の軍部はほとんどいないのだ。
成功すれば、帝国の戦力の20%を失う事になるのだから。
野心を抑えられない国王を持つ他国も考えたのかもしれない。
皇子達が参加しなくとも、
戦争に勝つだけの実力を帝国は勿論持っている。
何とか帝国への勝ち方を提示せよと言う国王。
それに対して普通に戦争しても勝てない帝国兵との戦闘を。
避けたいと考えている軍部もその国王の考える、
侵略戦争の矛先を、逸らす為にも20%の戦力低下という言葉は。
魅力的に見えるのでしょうね。
だから妃をめぐる攻防は日に日に激しくなっている。
私達の知らない所で、日夜どす黒い戦争をしない為の戦いが、
行われていると教えられていたのだけれど…
「何か」が起こればその黒い面を私は見ずにいられるほど、
安全な所で暮らせる訳ではないって思い出させるに十分な事だった。
それでも第3皇子殿下は私を連れて最も私が安全に暮らせる場所から、
離れる。
何処かに行こうとする。
第3皇子はぼつぼつと話し始めるのだ。
馬車の中で他に同乗者はたぶん、いない。
二人だけの秘密の会話をするって意味ならとてもいい時間だったから。
「今向かっているのは俺にとっての「墓」だ。
ただ、帝国の帝室の墓じゃない。
遺体も何もない。
遺品だって存在しない。
俺が勝手に作って「墓」と言っている場所に過ぎない。
自己満足の形と言われればそれだけなのだが…
たぶん無い「故郷」の戦友と帝国の平穏な未来を願った、
もう一つの帝国の為に生きた証…なのかもしれない。
俺が記憶を持っている証拠と言っても良い」
それは、何を指すのかを言うまでもない。
前世のともに笑いあった戦友達の為に作られた物だって事だった。
「今」の帝国の慰霊祭等には私は第3皇子妃として参加するけれど、
「前世」の事を話す事はほとんどなかった。
時々出る帝国第3皇子としての立場としては「おかしい」と、
咎められても仕方がない行動。
私と結婚してからは、「可笑しな行動」はなりを潜めたと、
第3皇子の側近達は喜んでいたけれど…
私に元の世界を思い出させない様にする為なのか、
元の世界の話は二人の間ではあまり語り合わなかった。
けれど「戦争」となると、思い出さない訳にはいかなかったって事だった。
「…そのお墓を、私も見せて貰えるのですか?」
「今は近くに連れて行く事しか出来ない。
お前の顔隠しを解いてやる事は出来ないから我慢してくれ。
ただ、それでも近くに連れて行きたかった」
「思い出しているのですか?
その、「前」の戦争を」
「お前の話を聞いてから、
あの戦争で戦った事が無意味でなかったと納得できるようになった。
それだけで俺には十分だ」
「そう、ですか」
「その代り、別の事を思い浮かべるようなった。
俺は母上…皇后さまの事を良く覚えていない。
俺が生まれて2年位で逝ってしまったからな。
だからなのか、俺はもう一人の母親の事を思い出すのだ。
戦後、俺は故郷に戻れなかった。
その故郷で、逞しく生きてくれたと願っている。
―願う事しか―
俺にはもう…出来ない」
それからは無言の時間が続いたのだ。
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