異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【7-3】
私の手術後の装具の準備は完璧だった。
妃にはなにも大変な事は起きていない。何事もない様に演出されたのだ。
王国に私が体調を崩したって知られる訳にはいかないから。
私は健康。だから呪いの事も気付かない。そう演じなくちゃいけない。
手術をしたってバレない様にするには、
対外的には健常な姿を見せなくちゃいけない。
私が呪いに気付いて、帝国内で毒袋を摘出されたって王国が知れば、
毒の成長を促進させる為に王国は呪いを強めて来るだろうから。
私は呪いを受けているのにそれに気付かない間抜けな姫でいなくてはいけない。
けれど保護具に頼っていたら体力は戻らない。
少し手も動いて力を取り戻さなくちゃいけない。
それは苦しいリハビリの始まり。
少しでも体力を付けて筋肉を戻さなくちゃいけない日々の始まりだった。
第3皇子のプライベートスペースで必要最低限の人に囲まれてリハビリをする。
次の毒袋が大きくなる前にまた体力を戻して…
手術に耐えられる体を作らなくちゃいけない。
生きなきゃ…
私は生きなくちゃいけないんだっ。
それから数日後、更に私の為に用意された物が届いた。
摘出された呪いの塊を使った身代りの依り代の話だった。
呪いに対しての緩和処置。
術後の経過で私の体力は想定以下の回復しかしていない事が解った、
十分キツイリハビリをしているしこれ以上は駄目ですと、
周囲が止めに入るくらいには努力し続けた。
けれど回復出来ていないのが現実。
焦る私の気持ちとは裏腹に、
影武者として斬られた時の呪いと関係ない傷がリハビリを阻害して、
その傷をろくに治療していなかったから体の各所に変な負荷が、
かかり続けているらしくってその所為で回復が遅れていると。
呪いだけだったら問題なかったけれど治療を受けなかった傷が、
悪さをし続けていると。
そしてそれは…
次の手術までに体力の回復が間に合わないって事だった。
だから少しでも手術までの時間を延長するために処置という事で…
代わりの依り代を用意する事態に至ってしまった。
医師と魔法使い達の判断で私の知らない所で話だけは進んでしまって。
万が一にも呪いが直ぐにでも発動してしまった場合、
その呪いを代わりに受けで、
私が汚染されるのを少しでも遅らせる為の処置だった。
完全な身代りにはなれない。
けれど呪いを私の代わりに受ける人はそれ相応に苦しむ事になるって…
その人は言うまでもなく身代わりとなるのは特別な力を持った人。
殺しても良い死刑囚とはいかないのだ。
そしてその身代わりとして選ばれたのは私を帝国に連れて行く時に、
私を甲斐甲斐しくお世話してくれたメイド…
侍女の一人だった。
あの不思議なドレスを着せられた時から私に忠誠を尽くしてくれる、
彼女を私の代わりにしなくちゃいけないの?
「お選び下さいませ第3皇子妃様。
短い間ですが貴女様はお仕えに値するお方だと判断しております。
貴女様の為にこの命、お使いになれるのであれば私に後悔はありません」
けれど私は頷く事は出来なかった。
この世界に落とされて、そして身代り姫とされたのだ。
その私がっ。
その辛さを知る私がっ。
自分が辛いからと言って他人にその呪いを擦り付けるの?
私がリハビリを頑張って体力を付ければ良いだけじゃない。
頷けない。
絶対に身代わりなど私にはいらないっ!
それが近しい人であれば直さら頷く事は出来ない!
それでも彼女は私の前に跪き、私が手を伸ばしてくることを、
契約する事を望んでくれる。
ニコリと笑いながら私を選んで欲しいと訴えかける様に。
それでも動こうとしない私に彼女は私の右腕を手に取ろうと、
手を伸ばして来た。
駄目だ。
捕まれていけないと私は反射的に右腕を動かす。
フルフルと震える腕を必死に動かして、
彼女の腕から逃げる様に腕を自分のバスクと身に着けた、
エプロンの間に差し入れてしなおうと必死に動かすのだ。
けれど肘は思ったように曲がらない。
痩せた肩は思うように持ち上がらない。
必死に手を取られない様に頑張るのだけれど私の反抗なんて
関係なしに彼女は私の腕に両手を伸ばしてくる。
ほとんど動かせない右腕を侍女はやさしくそしてゆっくりと、
私の手に取ろうと動くのだ。
必死になって彼女が掴もうとする手から逃げようと動かして…
自由に動かない右腕は彼女の両手で包み込まれてしまった。
それから彼女は自分の首に私の右腕を押し当てるのだ。
「我はここに願う。
我はここに誓う。
我が持つ全てを使って第3皇子妃の守り手となる事を。
守り手として忠誠を誓い、唯一の主として生涯を共にする事を。
我が命尽き果てるまでっ、我が忠誠を誓う主に降りかかる、
災厄を引き受ける盾となる者なりっ!」
呪文の後、彼女の首に契約の証が浮かび上がってくるのだった。
その証を優しく撫でる侍女は私に言うのだ。
「第3皇子妃様。
ここにいる侍女やメイド達は貴女様の為なら喜んで命を捨てられます。
貴女と過ごした時間は短いですが、それでも生きなければいけない方だと、
私達は考えているのです。
生きて下さい。
第3皇子の為だけではなくて私達の為にも。
私達の第3皇子妃となられたのですから」
私は、頷くしかなかった。
彼女達に私の何が見えているのか解らない。
けれどそれでも今の私は昔の黒薔薇姫の身代わりとして、
死ぬ事を望まれた存在じゃない。
第3皇子妃として生きる努力をしなくちゃいけないのだ。
それから数週間の時が流れた。
私は動かない体ながら必死に体を動かして、
体を元に戻そうと努力し続けている。
それに合わせる様に第3皇子は私から離れない。
それでも公務は遅れていない。
それで私の傍にいるのだから皇子はやっぱり優秀なのだろう。
きついリハビリが済んだ後、夕食を済ませれば侍女とメイド達の手によって、
湯浴みをして体の状態を丁寧にチェックされる時間が待っていた。
浴室に特別に設置されたベッドに寝かされると傷の状態と、
呪いの進行状況を細かく観察されて進行度が少しでも上がっていれば、
保護具をより強いものに交換されるのだ。
強力な保護区は重たくて強くしすぎると、
呪いが反発して抵抗力が上がって進行度を上げてしまう。
だから適切な保護具になる様にチェックするのだそうだ。
もう私の体の事なのに私以上に周囲の方が私の状態を理解しているのだった。
私にできる事は言われた事を素直に受け止めていう事を聞いて生活する事位しか、
許されなかった。
毎日毎日の体のチェックを受ける度、
侍女達が一喜一憂するのを見るのは辛くなってくる。
「ご安心ください今日は進んでいませんよ」
「今日はちょっと具合が悪いですね。保護具を調整しますね」
「うん…今日も大丈夫ですよ安心して下さいませ」
そこ言葉の一言一言が今の私には重たかった…
それでもその後は湯舟に浮かべられて丁寧に洗われる毎日。
体は磨き上げられて、って言ってもきれいな肌はほとんどないけれど、
それでも、少しでも傷跡が良くなるように。
体のバランスが元に戻る様にと丁寧にマッサージを受けながら、
体をほぐされるのだ。油断すれば直ぐに曲がってしまう胴体を、
どうにかまっすぐに保てるように。
ある程度体が落ち着いた頃、マッサージに加えて香り付けがされる様になって…
ある日の夜。
真新しい保護具が用意されていて丁寧に身に着ける事になった。
それは「夜」ベッドの中でしか使えない特殊な保護具で…
その日の私には甘い香り付けがされてその香りは第3皇子が好きな匂い。
今夜は皇子も執務を終らせるのは早くて、
何時もより早い時間にベッドに寝かされた。
特別な保護具は外れやすい代わりに柔らかく出来ていて、
色々な刻印や宝石が埋め込まれているけれど付け心地の良い物なの。
外れた所を見た事は無いのだけれど、万が一にもドレスの下でズレたりしたら、
大変な事になるから外れた事に直ぐに気づける、
ベッドの上でしか使わせてもらえない特別な物だったら。
材料も希少な何かを使っているから、
帝国をもってしても数を用意するのは難しいらしくって、
特別な時にしか使えない物なのだった。
その特別な保護区を取り付けられれば皇子に優しく迎えられる夜がやって来た。
その日は私の状態確認の結果が出る日で結果は良好だったのだ。
とはいっても悪化していないという意味であって、
回復しているって事ではないのだけれど現状望みうる最高の結果だった。
その私の回復傾向に第3皇子は喜んで…
その日の夜はたくさんの愛を注がれたのだった。
その一日だけ。一日だけの特別な許可で。
次にこの特別な許可が出るのがいつになるか解らなかったけれど…
私は久々に満たされて呪いの事を忘れて安心して深い眠りに落ちたのだった。
私の体は見せ掛け上は安定した状態を手に入れたのだった。
けれどそれがどれだけ続くのかは解らない。
次回の更新は明日の20時です。
完結まで毎日更新します。




