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異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【7-1】

「第3皇子妃様、酷な様ですが早急なご決断をお願いいたします」


それは私に対して突き付けられた現実だった。

医師と魔法使いの集団は、私に延命処置を受けてほしいって事だった。

そう「延命処置」であって対処療法という事に他ならなかったの。

そしてその「延命処置」を受けてしまったら私はまともに動けなくなるとさえ、

宣言されてしまったのだった。

呪いの起点となった体内の異物を取り除いて、

同時に汚染を貯めつつある体にあちこちに出来た毒素の発火地点と、

変化しつつある体内の部位を削ぎ落す。

そこは、効率よく毒素を貯める場所に変化し始めているから、

早めに摘出したいって事だった。

呪いの毒袋に変化してしまった場所を取り除くって事は全身からその毒袋を、

取り出すって事で、場所も教えられたのだけれど…

右脹脛、左太腿、お腹2か所。左右二の腕、右手首とその下。

その摘出と毒袋のそぎ落としが終わってあと、それ以上呪いが流れ込まない様に、

摘出個所の上から呪術防護用の充て具と保護具を付けてこれ以上、

毒を貯めない様にする事までして、

なんとか膠着様態に持っていけるとの事だった。

悪化しない。

ただそれだけ。

あとは私の体力の続く限りきついリハビリをしながら、

体を回復させて呪いと戦い続けるって事になるという事だった。

どんなに呪術を防いでも完璧に遮断する事は出来ない。

だからまた数か月後に溜まった毒袋の摘出を繰り返し続けなくちゃいけない。

そうやって体力が続く限り呪いに抗い続ける生活が待っているって事だった。


もちろんこのまま放置する事も出来る。

ただ、溜まって大きくなった毒袋がいつ破裂するかは、

正確には解らないって事だった。

運が良ければ数年間は、そのままの状態が続くって事でもあって、

少なくともその毒袋が破裂するまでは、

健康的な状態でいられるって事なのだけれど…

この呪いは時限式でもあるけれど同時に任意で爆発されることも出来る様に、

術式が組まれているみたいで…

それってつまり、王国にいる私に呪いを掛けた人がその気になれば、

明日にだってこの毒袋を爆発させることが出来るって事だから・・・

今はそんなに溜まっていない毒だって、

発動させれば最悪の場合体の中から腐り落ちて、

腕や足だった場合は直ちに切断処置を取らなくちゃいけないって…

そういう話でもあるけれど…

僅か数日で私は帝国にとって厄介な人質となってしまったという事でもあった。

王国に私の現状が知らされれば第3皇子妃を殺されたくなかったら、

帝国は譲歩しろと言えるようになるって事でもあるのに。


「同じ系列の呪いを何度か見てきました。

今すぐにでも準備を開始して、処置をやらせていただきたいのです」

「ま、待って下さい。それは…」


受けるべき。

それは理解できるし助かる為にしなければいけない事だって、

解るのだけれど、

けど…

けど受けてしまったら両腕はもう力が入れられなくなるのは解ったし。

両足だっていう事を聞いてくれなくなる。

きっと辛いリハビリと毒袋の存在に怯えながらの日々になる。

て、帝国で結婚したとってもまだ数日だし。

動けなくなる上にいつ死ぬかもわからない私に付き合うって事でしょう?

公務になって支障をきたす事になるだろうし…

第3皇子殿下の迷惑になるって解りきっている事じゃない。

だ、だったら潔く毒袋が破裂するのを待って死んでも良いんじゃないかって。

そう、考えてしまったの。

疲れた…

王国の道具でしかない私自身にもうこれ以上付き合うのは…


「…この事は第3皇子に報告はされているのですか?」

「いいえ。まだ報告はしておりません。

帝国にいらしたので念のためにお体の精密検査を、

受けて戴いたという事にしておりますが…」

「なら、手術は受け「受けさせる。もちろん直ぐに手配しろ」」

「え?」

振り向けばそこには第3皇子がいたのだった。

医師との話が始まって数十分。

私と2日間に渡って過ごした第3皇子は今日は朝から溜まった公務を、

こなしているはずだった。

執務室と言っても第3皇子のプライベート空間の中に設置された場所で、

離れてはいないけれど数日間滞った公務を処理するのに一日では、

終わるはずがない量が溜まっていたはずなのに。

第3皇子はすぐさま私の隣に座ってテキパキ日程等を決めてしまう。


「それから直ぐに兄上達と皇帝陛下に連絡を。

準備が出来次第、第3皇子妃は術式を受ける事も、

合わせて報告してしまって良い」

「直ちに用意いたします」

「…呪術関係の事なら皇帝陛下の医師が最も詳しいと思う。

直ぐに支援を要請しろ」

「既に話は通しておきました」

「宜しい。では直ぐに動け」


医師や魔法使いたちはすぐさま動き出して…

第3皇子の部下も私を介助していた侍女達もその場から、

離れて行ってしまった。

それはあっという間の出来事で…

誰もその空間にいなくなる。

すると、第3皇子は私を抱え上げて膝の上に乗せたのだ。

それから他の皇子達がしていたように私をきつく抱きしめて、

頭を肩の上に乗せる様に促される。

私は無言でその肩の上に頭を乗せたのだった。


「手術を断ろうとしたな?何故だ?」

「それ、は」


迷惑を掛けたい訳じゃなかった。

けれど私と第3皇子の関係はたかだか帝国に入国してからの、

数日間でしかないのだ。

そこに異世界人と言う付加価値があったとしても私を失っても。

深く悲しめるだけの時間はまだ経っていないと思ったのだ。

自分の命を安く見積もったつもりは無いのだけれど、

一日でも長く生きられる可能性を考えるよりも、

いつ終わるかも解らない健康な体でも自由に動ける方を私は望んだ。

ベッドの上に拘束されて第3皇子をただ眺めるだけの生活になるのは、

嫌だったのだ。

延命の為の施術よりも一緒に歩ける一日が私には欲しかったの。


「一日でも長く体を動かして、皇子の隣を歩けることを望むのは悪い事ですか?」

「…ああ。悪い事だ。

お前のしなければいけない事は一日でも安全に命を繋いで、

俺が呪いを解呪するのを待つ事だ。

今、一時的に動けなくなったとしても俺がお前の呪いを解いて、

必ず健康な体を取り戻す事は決定事項だからな。

だからお前は俺を信じて手術を受けなければいけない」

「そ、その自信はどこから来るのですか?」

「何を言っている。

帝国第3皇子が第3皇子妃の呪いを説くと言ったのだ。

これは決定事項なのだ疑問に思う事じゃない。

お前は信じるだけで良いのだ。

それ以上の事を考えるな自分の体だけを心配すればいい」

「は…い…」


私は信じた。

信じさせられてしまった。

第3皇子殿下のその自信たっぷりな宣言に。

私はベストな判断ではなくてベターな判断を下したつもりだった。

けれど第3皇子はそれを認めない、絶対にベストをもぎ取る為に動くのだ。

それは別の形で私の元に届けられたのだった。



―決して諦めず養生せよ―


短く綴られた皇帝陛下からの手紙と、

皇帝陛下からの贈り物だった。

大き目の黒い箱に入れられて丁寧に梱包された箱が届けられたのだ。

大きくの帝国の紋章が入れられ、丁寧に梱包されたソレ。

それは私にとって命綱となる施術後に使う大切な物。

呪術から身を守る保護具の数々とドレスの上から更に身に纏う様に作られた、

エプロン型の退魔保護具や、日常使いできるバスク型の退魔呪具だった。

毎日取り変える事を想定された数が揃っていて一品一品が丁寧に作られた、

ドレスと合わせて使って公務に出ても可笑しくない様に仕上げられた物だった。

呪術を軽減するために呪印の掘られた革の充て具に、

退魔宝石を埋め込まれたベルト。

それは一日や二日で用意できるレベルの物ではなくて明らかに、

私以外の「誰か」の為に用意された物だった。

その品々を見ながら私が使用できるサイズに針子さん達が準備していく。

けれど…いったい誰が使う予定だった?

侍女の一人が私に教えてくれたのだ。


「第3皇子妃様が知らないのも無理はありませんが。

この保護具の数々は、元々皇后さまが使う予定だった物です。

けれど皇后様が使用する事はありませんでした」

「それ、は…」

「間に合わなかったのです」

「…そう、ですか」

「第3皇子妃様は生きて下さいませ。

皇后さまが亡くなられてからの皇帝陛下の荒れ様は酷いものでした。

皇后さまを呪い殺した国に攻め入り、一方的な虐殺に近い事まで行われたのです。

けれど誰も皇帝陛下を止められる者はおりませんでした。

巻き添えで数か国まで余波が及び、

その後の統治がどうなったかは言うまでもありません」

「ど、どうなったのでしょう?」

「呪いに関わった者はもとより次世代の者まで徹底的に「管理」したのです。

もうその王国に国民は一人もいません。

後に残った土地に帝国国民の開拓希望者が、

新しい街を作り統治している状態なのですよ。

帝室の人間は最愛の人を害した人を生かすという考えはありません。

彼等は根絶やしにするまで戦い続けるのです」


それは帝国の支配では無かったという事だった。

属国である事は当然として侵略後徹底的に人狩りを行い捕まえた人を、

占領した王都に全員放り込み王都から出られない様に「管理」したとの事。

数か国分の人間を必要に生け捕りにして一つの国の王都に全員放り込んだなら、

その王都の中がどうなったかなんてお察しだった。

その上、防具こそ取り上げたけれど、武器は所持させたまま「管理」したのだ。

更にすべての消耗品は「管理」された王都に仕上げられた。

食料や医薬品の供給は管理されて、王都の中で何かが行われたのか…

考えるまでもない。

外敵の侵入を防ぐ堅牢な城壁は、そのまま脱出不能の檻として帝国に作り替えられ、

外から中に入る事は出来るけれど、中から外に出る事が出来ない堅牢な、

結界まで魔法使いに張らせたのだ。

中に取り残され、生き残った王族や貴族と捕まって連れて来られた国民で、

いがみ合いながら僅かに供給される食料と医薬品を求めて殺し合いをする、

凄まじいデストピアの王都を作り上げたのだ。

その城壁は一般の帝国民に解放され眺める事が出来る様にしてあるらしく…

その絶望のデストピアは現在進行形で存在しているらしく、

皇帝陛下の死と同時にお焚き上げられる予定らしい。

そこまで生き地獄を作って、やっと皇帝陛下は止まったらしい。


「う。あ」

「あまり良い話ではないですね。

けれど、忘れないで下さいませ。

それほどまでに殿下たちは妃を失ったら怒り狂うのです」

「は、い…」



皇帝陛下からの手紙に込められた思いが、

自身の皇后様と私を重ね合わせている事は確実で、

もしも私が死んだ場合、第3皇子だけではなくて、

皇帝陛下すら動いてしまうのだと改めて知らされたのだった。

術式の準備は速やかに行われ次の日の昼には、

私は毒袋とナイフの破片を取り除く手術を受けたのだった。

と言っても私にはその記憶はない。

魔法使いの眠りの魔法を掛けられて手術の日は起きなかったのだ。

私が気づいたのは全てが終わった後。

全身に保護具を身に着けた状態で、

第3皇子にベッドの中で抱きしめられた状態で目を覚ましたのだった。


「あ…う…」

「おかえり」

「ただいま…戻りました…」

「ああ」


全身に取り付けられた保護具とひと際頑丈に作られた、

お腹周りをくるりと一周している固い革の矯正具。

その上から厚いネグリジェを身に着けた状態で、

私は第3皇子の泣きそうな顔を見る事になったのだ。

予定通り右腕はほとんど動かせなくなっていたし、

太腿は鋭い痛みが走り脹脛は痺れていた。

お腹の違和感が一番ひどくて中身が無くなったかのような感覚になっていた。

足と手の感覚はあるのだけれど、繋がっているはずの体がお腹がない様に思えて。

動く左手でお腹を擦っても保護具と一緒に巻かれたお腹を支える矯正具の固い、

物がある事が解るだけでその中身がないみたいな…

まともに肩は動かせず、だらりと垂れ下がる様になってしまった両腕。

中から毒袋が取り出されたせいなのか、

肩の内側から筋肉が引っ張られているみたいでジグジクと深い痛みが残っていた。

体の中で私が動かせるのは左腕の肘と手だけになっていた…

私はかくごしていたのだけれど、

もう、今の私では何をしようとしても動けなかった。

ほとんど動かなくなってしまった体が情けなくて、

涙を流しなら第3皇子に謝るしかなかった。

唯一動かせる左肘と手を使って…皇子の顔に手を添えようとするのだけれど、

それも叶わない…


「ぼろぼろになっちゃいました、ごめん、なさ、い…」


第3皇子は私のしたい事を理解してくれたのか、

左腕を握ってくれて、その手を顔に付けてくれる。

ちゃんとそこには第3皇子の顔があって、暖かさを手のひらを通して与えてくれる。

これが現実だと私はほんの少し手だけだけれど安心したのだけれど…

私は生きてるって思えてまだ死んでいないって。

第3皇子の傍にいられるって思って。

零れ出る涙を止める事が出来なくなっていた…

そんな私を何も言わず皇子は強く抱きしめてくれたのだった。




次回の更新は明日の20時です。

完結まで毎日更新します。

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