異世界召喚された私は姫様の影武者として生かされ、そして復讐を誓う【5-2】
綺麗に整えられた帝国式の街並みを抜けていけば、
地方の拠点防衛を兼ねているのか大き目の砦兼領主の館と思われる場所へ、
馬車は到着する。
その領主の館の大きさだって王国の王城並みの大きさに仕上げられているのに。
「ようこそお出で下さいました。
第三皇子殿下」
領主の出迎えを受けながら、私は皇子殿下と一緒に馬車を降りる事になった。
腰に手を回された私は皇子に支えられながら歩く事になる。
重たいドレスのはずなのに背中側の帯を掴まれ支えられた私は、
その重さをあまり感じることなく歩く事が出来たのだった。
淑女としてははしたなく、綺麗に見えない歩行であり、
着せられたドレスも相まって不格好の私。
けれどその姿を見た帝国貴族は誰一人として笑う事はせず、
皇子と私の様子を見て純粋に喜んでいるみたいだった。
「良い奥方となられる方を見つけられましたな」
「ええ、私には過ぎた人だよ」
その言葉の意味。
そして帝国臣民の願いや想いを推し量る事は私には出来なかったけれど、
言葉的に考えるのであれば私は帝国の貴族にも歓迎…
少なくとも拒否はされていないみたいだった。
私が皇子に認められている事。
そして何より私を皇子が支えている事が大切にさていると、
周りに印象付けられているだけと私は思っていたのだった。
その日の夜は領主の館の客室で私と皇子は眠る事になる。
もちろん部屋は同じでけれどベッドは別に用意されていた。
流石に婚前まえに同じベッドだとまずいという考えはあったのかもしれない。
けれど2つ並べられたベッドは手を伸ばせば届く距離で、
仕切りの代わりに用意されたのは天蓋から垂れ下がる薄い半透明の生地。
けれど立派な天蓋は開け放たれたままで私の姿が皇子から見える場所で、
眠る事になるのだった。
ちょっと違うかもしれない。
私が皇子の見えない場所に行くのが怖いのだ。
だから薄い天蓋の布でさえ余計に感じているのかもしれないと思ってしまった。
けれど、皇子はそんな私を見て手を伸ばしてくるのだ。
私は精一杯手を伸ばして皇子の手を両手で握る。
結局別のベッドで並んで寝ているだけで、
大きな一つのベッドで寝ている様な形となっているのだった。
そして次の日の朝は領主の奥方が用意していたドレスに体を通す事になる。
帝国の1領地とは言え広大でその場所その場所で大きな文化を作っている。
私はこの一泊させてもらった領地から婚礼ドレスをプレゼントされた。
「帝国へ嫁ぐ姫へ、わたくしからの細やかな贈り物です。
どうぞ旅路のお供にお使いくださいませ」
そう言いながら着せられたドレス。
そしてこの地の特産物と領主と領地から愛を込めて贈られる可愛らしい品々。
それは何も持たない「黒薔薇姫」へと送られる帝国で使う必要な物の数々だった。
利害関係もきっとある。
それでも用意された物は王国で私が使わせられていた黒薔薇姫のお下がりより、
数段良いものへと仕上げられた物だった。
献上品を貰うのも私にとっては初めてで用意されていた物は、
明らかに急遽用意された物と言う訳でもなさそうだった。
この国の貴族には「不浄の存在」として命を狙われる事は、
無さそうとほっとしたのだけれど、同時にこの歓迎ぶりの裏に何があるのか。
裏があるんじゃないのかなって考えてしまう。
もう王国で散々裏切られて来たのだからそう思っても仕方ないけれど。
繋がった命。
認めてくれる皇子が必要としてくれる間は、
なんとか生きようと思える程度には前向きな考えも持っていたのだった。
1日に付き一つの領地へと渡り歩く様にしながら、私を載せた馬車は進む。
行く先々で、私の事を「良い奥方」「素晴らしいお方」と評されるだけれど、
私はまだ何もやっていない。
そして評価が高すぎる意味も理解できていなかった。
けれど各地で受け取った荷物は膨大で、私達の乗る馬車を先頭に、
何十台のもの荷馬車が連なる光景は別の意味で花嫁行列の様な有様だった。
敵国に嫁いだという事実さえ忘れそうになる。
誰を「敵」として認識するかにもよるのだろうけれど。
そして数日間掛けて移動した先。
帝国の首都へと私達は到着した。
一国の皇子が姫を迎えるとなるとそれはお祭り騒ぎとなる。
私と皇子を載せた馬車は凱旋したかのような歓迎を受ける事になったのだった。
王都の入口の付近に作られた皇室専用の館で私は入城の準備をする事になった。
流石にあの和服もどきドレスを着て皇帝陛下にお会いする訳にはいかず、
専用に用意された黒薔薇姫に相応しい…
と言っても第3皇子殿下の色と私の黒を中心とした帝国式の婚礼ドレスを、
私は身に着ける事になった。
とは言っても皇子の要望が100%反映され仕上げられたドレスは、
皇子の色をふんだんに使用した皇子の為のドレス。
サイズも少し苦しくて重さはお察しレベルで重たかった。
数日間掛けてゆっくりと進行して体力が戻っていなかったら、
着たところで歩けるのか疑わしいレベルで仕上げられていた。
けれど心配する必要は無かった。
私が動くより先にすぐさま皇子殿下が私を抱え上げて連れ歩くのだ。
窓枠が大きく作られたお披露目専用の馬車へと乗せられた私と皇子殿下は、
帝国のメインストリートを花吹雪を浴びながら城へと連れて行かれる。
そして車寄せで降りた私を皇子は抱きかかえる。
その事に誰一人として文句を言う人はおらず私は皇子に抱き抱えられたまま、
皇帝陛下の待つ王広間へと連れて行かれたのだった。
私と皇子の二人は皇帝の陛下の前に並んで立つ。
他の家臣たちは全員跪いて此方を見上げる形をとされていた。
それほどまでにこの国において帝室は、
権力を持っているという事を表しそして表現する場となっていた。
帝室は特別。式典中は誰一人として頭を皇帝より高い所に上げてはならない。
そんなルールさえある様に見える。
私は恭しく頭を下げて、皇帝陛下からの言葉を待った。
「よくぞ参られた黒薔薇姫よ」
「はい。この度は私の様な若輩者を帝室の一員としてお迎えくださって、
ありがとう御座います」
「うむ…
噂にたがわぬ黒よの」
「はい。私の象徴とも言える色で御座います」
「…なるほどの。第3皇子が欲しがる理由も良く解る。
長旅で疲れているだろうから手短に伝えよう。
黒薔薇姫と帝国第3皇子の婚姻を認める。
そしてこの瞬間より二人は夫婦とみなす。
異論ある者はおるか?」
シンと静まり返った会場に異論を唱える者など当然いなかった。
「では指輪を嵌めよ。
二人が指輪を嵌めた時より、二人は帝国において夫婦となる。
これから先帝国の繁栄の為に力を尽くすがよい」
皇帝陛下の側近より、紫色のクッションに乗った指輪が2つ持って来られる。
2つの指輪にはそれぞれ帝国の家紋とそれぞれの名前。
それは皇子と黒薔薇姫の名前が刻まれていたのだけれど…
リングの内側に小さく。
けれど確実に掘られたもう一つの名前が刻まれていた。
それはこの世界において絶対に私が呼ばれない名前。
けれど、それは私の本当の名前だった。
「どう、して」
「私が結婚するのは「黒薔薇姫」と言う名のアナタと結婚するから・・・
急いで掘らせおいたんだ」
耳元で囁きかける様に説明してくれる皇子はちゃんと「私」と、
結婚してくれる。
「黒薔薇姫」ではなくて。それが秘密であったとしても。
今の私にはそれが嬉しくて仕方なかった。
私は指輪をした手を第3皇子殿下に絡めると同時に。
彼の唇に長い長い口づけをした。
そして私は背伸びをしながら彼に耳元で囁きかけるのだ。
誰にも聞こえない声で「愛しています」と。
その言葉を聞いた第3皇子殿下も同じように私にだけ聞こえる様に、
「愛しているよ。いつまでも死が二人を別つまで」
大勢のいる空間だったけれど、
その時だけは二人は世界で皇子と私だけしかいない気がした。
けれどその、一連の行動を観ていた皇帝陛下は納得した雰囲気で、
私達を祝福していた。
「良い鞘を見つけたようだな?」
「はい。私には勿体ないほどの鞘です」
「ならば全力で守り・支え・育てよ。
帝国の為だけではなく「姫」の為にも生きるのだ。
良い鞘を手に入れたという事は貴様は勝手に死ねないという事。
絶対に忘れてはならぬ」
「はい。肝に銘じておきます」
「うむ」
巨大な帝国の結婚式と言う割にはあっさりとした式典で、
その後は帝室の面々と別室にて顔合わせをする事になっていた。
第3皇子の結婚と言う帝国にとっては文字通りお祭りとなるべき事、
ではあったのだけれど、それでもその強い帝国のあり様が、
愉快に騒ぐだけの事では終わらないとっても不思議な空間を演出していた。
次回の更新は明日の20時です。
完結まで毎日更新します。




