異世界召喚された私は姫様の影武者として、生かされ,そして復讐を誓う【1-1】
「では陛下はわたくしに黒薔薇姫として、
帝国へ嫁げと仰るのですか?」
「その通りだ」
この世界に転移された私は碌な目に合ていない。
理由は簡単で忌み嫌われる色である「黒」を持っているから。
単純で明快な理由で私は汚れた人として扱われた。
こうなる事は解っていたのだ。
わかっていて、奴等は私を召喚し…
そして姫の影武者として危険な目に合い続けたのだ。
お優しい家臣団に守られて安全な所でぬくぬくと過ごした姫は、
つい先日、国王より手渡された手紙を読んで、
傍付きの護衛騎士と一緒にこの国を去ったのだ。
それは今私の言われた事。
この王国に隣接する帝国に嫁ぎそこで両国の懸け橋になること。
大切な架け橋となる事が出来た暁にはこの国にいるよりも、
幸せになれるでしょう。
等と言ってはいるがそんな事になるはずがないのだ。
これは帝国に対して反抗する意思がないという意味で、
差し出される体のいい人質でしかない。
国のパワーバランスや位置関係など。
いかに偽物の姫と言えど教えられた。
それはそうだ。
一応式典で立っているだけと言われても、
何も喋らなくても周りに表情を合わせる必要がある。
誰かが偉大な事をやり遂げれば驚き、
優秀な人が死ねば悲しみを声に出さなくとも、
表情は変えなければならないのだから。
忌み嫌われる姫の式典への出席はそれはそれは慎重に扱われ、
最低限、王族として出席しなければいけない式典だけでも、
多くの回数をこなさなければいけなかった。
命の危機を感じる事も数えきれない。
可愛そうな姫の代わりに私を出席させる様になった時からは、
その態度を国王もは変え始めていた。
私が国王陛下にあったのは何の変哲もない挨拶の前が初めてで、
姫は末席として顔だけ出すという役回りだった。
そんな場所にいきなり呼び出された私は顔と体付きを確認されて、
納得された後に声を掛けられる。
まあ合格だと言わんばかりに。
「ほう、よく似ているではないか。
これなら…式典へ参加させても問題ないな。
可愛い娘の代わりだしっかり励め」
始めて国王に言われた言葉がそれだった。
いきなり転移させられ訳も解らないまま姫の影武者にさせられ…
身を守る術も与えられずただ殺される事に怯える毎日の始まりだった。
自分が何故こんな目に合っているのかも解らずそれでも生き延びようと。
あがき続け耐える事一年間。
その恐怖と姫教育と言う名の体罰を含んだ躾の果てに用意された、
結末がこれだった。
右も左も解らない状態で、
与えられるのは姫教育と言う名の体罰。
この世界の常識を私に教え込むという言い訳の下続けられ鞭を振るわれ、
食事を抜かれ苦しいドレスを着せられ続けた結末が…
隣国へ人質として嫁げなんていうふざけた命令だった。
私を私を日本に返して!
そう叫びたい衝動に駆られる。
けれどそれは叶わない。
この世界と私の住んでいた世界の位置関係とやらが、
関係しているらしく少ない自由になる時間を使って、
帰る方法を必死に調べた。
結果解った事は元の世界は天より高い所に存在する事。
そして異世界転移とはその上位世界の足下に穴を開けて、
その場にいる人間を引きずり落とす儀式って事だった。
魔法陣を解析すればするほど解ってくる事だった。
姫様を魔法陣の中に立たせる。
そして容姿が近い人を魔法陣が探し、
その近い容姿をもった人の足下に穴を開けこの世界に叩き落とす。
それが異世界召喚魔法の全てだった。
問題なのは落とすのは簡単だけれど、
登る魔法はないという事だった。
召喚とは名ばかりの落とし穴魔法の発展型が異世界召喚魔法の全てだった事は、
ショックだった。
私は下り専用エレベータに無理矢理乗せられてここまで落とされた訳だ。
なら自分で登りのエレベータを作れば良い。
そう考えても周りは許してくれなかった。
一にも二にも姫の淑女教育。
私が一日でも早く姫様の代わりとなる教育が急がれ、
もちろん自由時間なんて影武者として働けるようになるまで、
一切与えられなかった。
ドレスを着せられ踊る予定のないダンスを仕込まれ、
そして挨拶の仕方を叩き込まれる。
言葉こそ通じるが私の意見を聞いてく人は誰一人としていない。
皆、口をそろえて「これで姫様が幸せになれる」としか言わなかったのだ。
その姫様とあったのも数回だけ。
やせ細りボロボロだった姫様には確かに同情してしまった。
けど影武者になると私は一言も言わなかった。
けれど周りは誰一人として私の意見を聞かない。
もともと召喚された目的は「姫の代わりの影武者になる事」であり、
私に断るという行為は許されていなかったのである。
私はそれから一年間と言う短くも長い時間の中を、
重傷を負いながらも生き延びた。
刺され切り付けられながらも何とか生き延びた。
そして姫がこの国からいなくなるなら…
敵国へと嫁ぐのであればそれで姫はこの国からいなくなる。
私はこの危険な影武者生活から解放されても良いはずだった。
そうしたら一人でも良い。
なんとか生活基盤を作って日本に…
恋焦がれた故郷に帰る。
それだけを希望にいつまで続くか解らない影武者生活を耐えたのだ。
耐えて。
苦しい神殿の儀式も生き延びて…
なし崩し的に始まった影武者生活の最後が…
その「本物の姫に変わって敵国に嫁げ」である。
国王陛下からの温かい死刑宣告にも聞こえる言葉が、
私の最後の希望を塗りつぶす。
駆け落ちしてしまった「姫」の代わりに帝国に嫁ぐこと。
それはバレればそのまま死刑になる事は明白でありバレない筈がない。
忌み嫌われる黒を持つ世間知らずの「姫」として。
私は命を狙われながらも「何も解らない姫」を演じ続けたのだ。
それは自分の命を守る為でもあったが。
偽物と本物の齟齬がなるべく分からない様にする為でもあった。
「幼少の頃何度かお会いになれられて名前を憶えて戴いていた」
と言われれば言葉に詰まる事になる。
そんな事は絶対に許されない。
貴族社会において、対人関係は生命線でその生命線を、
うまく利用できない事にはただでさえ厳しい立ち位置が、
更に厳しくなる事だけは解り切っていた。
綱渡りだった一年をこれからもやり続けるのなんて無理だった。
帝国に行ってこの王国の姫として生活する。
それはこの国に対して意見を求められる事にもなるだろう。
けれど覚えた貴族の名前の数など数えるほど。
そして国の深い内情を理解できていないなら、
それは最悪の結果となる事は目に見えていた。
「姫」という立場なのに答えられなければ不振に思われ、
そこを嘘を付いて逃れたとしても裏を取られればバレる事になる。
不信は核心と変わり、
偽物とバレた時もちろん身分を偽ったとして私は殺される。
殺されるのだ。
帝国に嫁ぐわけにはいかない。
嫁いだ先には死しかないのだ。
「陛下。
陛下は私の存在を正しく理解して頂いていると思うのですが…
それでも嫁げと言うのですが本当に?」
私はもう一度聞き返す。
私が偽物であることを思い出して貰う為に。
けれどその回答は変更される事はなかった。
「くどいぞ。そなた以外に「黒薔薇姫」はいない。
私の可愛い一輪の薔薇は私が信頼する者と幸せになる為に旅立ったのだ。
何もしてあげられなかった私だがあの子は皆に愛され自分で幸せを掴んだ。
自由を得てこれからも幸せな未来を歩むだろう。
私もそれを願っている。
そして、帝国からの要請も断るつもりはない。
断る理由もないからな。
残りの責務を果たせる「黒薔薇姫」は、そなた以外に誰がいるというのだ!
大人しく私の「黒薔薇姫」として帝国へ嫁ぐが良い。
それが「黒薔薇姫」を名乗ったそなたの罪。
その罪を告発しない代わりだ」
ふざけんな!
勝手に召喚して代わりを務めさせて、
そして最後は本物の為に異国に行って死ねって…
それの何処が罪なんだ!
けれど私がココで叫んだ所で状況は変わらない。
この国では今目の前にいる国王陛下が黒と言えば黒になり、
白と言えば白になる。
そういった国なのだ。
だから何を私が言ってももう説得はできない。
そしてその国王陛下の目に映るのは、愛しい娘の輝かしい未来だけだ。
もちろんその娘とは逃げ出した「姫」の事で私の事じゃない。
周りにいる、王太子・王太子妃に続き、第2王子と第3王子まで、
皆、口をそろえて良い未来を期待すると逃げた姫を応援していた。
姫は愛されていた。
愛されていたから逃がされた。
その事に気付いた時この顔合わせが単なる茶番で、
ただ伝達するだけの場であると私は理解させられたのだ。
なんなの?なんなのよ!
私はあの「姫」の為の生贄でしかないとでも言いたいの?
だったらもう私だって我慢しない。
私だって逃げてやる。
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