初めての町外
今日もよろしくお願いいたします。
「おーい。ユウシー。」
「ショウ。遅かったな。」
戦士ギルドと魔法職ギルドに向かう道の間にある酒屋の前で、壁に体重を預けているユウシを見つけた。駆け寄って声を掛ける。
「まーな。色々言われた。人に向けて闇魔法はあまり使うなって感じらしい。」
「ふーん。戦闘はどうすんの?アレだろ?ダークボールとかダークアロー的な奴とか使えないと困るだろ。」
「闇魔法は一旦置いといて、降霊術を使ってく。ジョン……えーっと、俺のポルターガイストにお願いする予定。追々、憑代になる人形とかも用意しなきゃいけないから、 それまでは確実かな。」
「ポルターガイスト?そんなんいるの!?」
「おーいるいる。今も俺の後ろにいるぞ。まあ、普通じゃ見えないんだけどさ。」
チラリと後ろを見遣ると、ジョンが頷きながら全身鏡を要求してきた。
「鏡?どっかの服屋にでも入るか。」
さっき入ったのとは違う服屋に入り、服を物色するふりをしながら大きな鏡の前に立つ。その後ろにジョンが立って、ユウシが覗き込むと、大きく目を開いた。
「おっわー。隻腕の騎士様かよ。さっきの服屋にもいたんだろ?気付かなかったわ。……名前はなんていうの?」
「ジョンって付けた。チュートリアルで最初の降霊術をした時に来てくれて、普通の魂と違って、ポルターガイストが出来るらしい。」
ユウシに存在を紹介すると、ジョンは鏡の中で目線を合わせて軽く礼をした。それに合わせてユウシも目礼する。
「普通の魂?ポルターガイストって心霊現象で物が動いたりすることだろ?」
「あぁ。降霊術で呼べる普通の魂は、簡単に言うと特徴のそれぞれ違うSPの塊なんだ。それを魂の特徴に合った器……人形とか、骸骨とかに憑依させる事で、漸くHPとMPが付いて、戦いとかに使える。ジョンみたいな特殊な魂以外は、その方法じゃないと使い物にならない。ジョンはポルターガイストで物に干渉する事が出来るから、腰にある剣で戦う事が出来るらしい。原理はよく分からん。」
「だからか。ショウのスキルに裁縫とか細工があるの。完全に自給自足できちまうな……料理出来るし近接はジョンが出来るし、空も飛べるし。」
「それでも、俺はユウシと比べるとゲーム初心者だし、一応親友だ。ユウシに付いて行くさ。」
苦い顔をしたユウシに、こちらも苦笑で返す。それを見て少しは安心したようで、表情が柔らかくなった。確か前に、パーティだかチームだかの誰かに裏切られて、手持ちのゲーム内通貨と物品根刮ぎ持ってかれたんだったか。そいつもソロが出来るくらいには満遍なくスキルを持っていたらしくて、気にしているのかちょくちょく誘った俺のステータスを偏った編成にしてペアを組ませようとしてくんだよなぁ。こだわり無いし別に良いんだけど。他にはこういうちょっとめんどくさいやつは漏らして無いらしいから、親友として甘んじて受け入れている。
「さて、そんじゃあ今からちょっと戦闘しとくか?リアルの時間もあるしな。」
「それもそうだな。じゃあ行くか。」
このゲームに初めて入った時以来の門だ。門番さんに外へ行く旨を伝えて、門を潜る。初めての外にちょっとドキドキしながら辺りを見回すと、膝丈くらいまで伸びた雑草が遠くまで続く場所だった。……このゲームのデータ量すごいな。普通ならイネ科っぽい草が単一で広がってるだろうに、本当になんか色々生えてる。あれはネズミムギ、イヌタデ、あの辺りはヨモギっぽいし、あれは猫じゃらし、あっちは西洋タンポポもある。名前は現実と一緒かは分からないけど、リアリティ求めすぎ。
奥の方には森らしき緑のモサモサした影も少し見える。
「広いな。」
「そうだなぁ。ほとんど草原で、少しの森のあと次の街に続いてるらしいから、かなりの広さだな。ここには、ネズミとバッタがいるらしい。バッタは硬めだから、初めてはネズミを探す。」
「了解、リーダー。」
ユウシの指示に従ってその辺りをウロウロしていると、少し雑草のハゲた場所に2ひきのネズミを発見。しゃがみ込んで草むらに身体を隠しながらこっそりユウシに報告して、打ち合わせをする。
「俺は右のネズミの目元を槍で突くから、ジョンさんには左をお願いしてくれ。多分、斬りつけるだけで良い。」
「分かった。」
ジョンに目を向けると、今の会話を聞いていたのか頷かれた。ユウシが走り出すと、ネズミも気づいたのか逃げ出そうと方向を変える。モンスターなのに逃げるのか。と物珍しく思っていたら、それを上回る速度でユウシが追い付いて鋭い掛け声と共に槍で目の近くを刺した。反対側では、ジョンがネズミを既に倒している。キラキラした光のエフェクトが舞って、ネズミの身体がキューブ状のキラキラになって消えた。
"ラットを眷属のジョンが倒した。経験値と鼠の毛皮×1を手に入れた。"
リザルト画面が目の前にポップアップする。いきなりでっかく現れて驚くので、案内通りちょっと設定で小さく視界の端に出る様にしておこう。
「うわっ!?ウィンドウ!?何!?!?」
リザルトにビビったユウシが、数回空中に槍を振り回してから慌てて設定画面らしき空中をタップしている。さらに耳がビビッと立ち上がって辺りの音を拾っている。
「初めの戦闘だからじゃないか?初心者だと視界の端っこに出てきても気付かないだろうし。ちゃんと画面の端に注意書きで直すように書いてあるから分かりやすいだろ。」
「あー……ビビり過ぎたわ……目の前に新しく変なエネミーポップしたかと思った。」
「レベル1だからな。まぁ許されるだろ。チュートリアル的なやつ飛ばした人も多いと思うし、必要な処理なのかもな。ここらはユウシには弱いっぽいけど、もう少し先のフィールド行くか?」
少し落ち着いたのか、尻尾を少し上げながら近付いてくるユウシに、言葉多めに声をかける。こういった一人称視点のゲームでは、視界がいきなり遮られるのは大きな隙になる。まだレベルも低いから、かなり慎重にプレイしていたんだろう。近距離戦では更に重要だしな。……それにしても、これに対して俺たちより前に戦闘していた集団は特になにも思わなかったのだろうか?それとも、意見したが変わらなかったのか?あれから小さなアプデはちょっとずつ入っているから、そういう事なんだろうな。
「そうだな……ここはバッタとネズミしか出ないらしいから、もう少し先に行って森の入り口入るか。そこら辺だとウルフとか出てくるらしいし。」
「レベル上げるのに経験値欲しいしな。連携とかしてくるかも。ウルフ系で群れ作り始めたら気をつけないと。」
「俺一応狼の獣人らしいけど、普通に敵対MOBなんかね?」
「犬っぽい獣人もスタートの時には見たから、大丈夫だろ。流石に序盤からは無さそう。」
わいわいと話をしながら森の方へと進む。途中で見つけたバッタも倒しながら、初めて戦った感想を聞いた。
「思ってたより初期設定の槍を突き刺した感じがリアルだ。多分ラットだったからそのまま横から突き刺せたけど、もう少し大きい相手だと骨とかに邪魔される。弱点を探しながら攻撃するのが得策だな。生き物系は目をねらう。」
「わかった。そう言う感触系怖いとか無いな?それならこっちもそれを意識してやる。あと、俺は爪がドロップしてユウシは皮がドロップしたんだろ?肉系がもし出たら、持って帰って宿の厨房を借りられたら借りよう。焼くくらいなら出来るからさ。」
「ショウー!ありがとう!感触系は他のゲームでもここまでとは行かないけどあるから慣れてるし、問題ない。今度のログインまでに、この辺りのドロップ確認しておくからな!!普通の霊の媒体は何で作れるんだ!??皮か?骨か??」
「骨は欲しいな。骨だけでも作れるから。皮は無くてもいい。あとは街中で綿買えばいいし。ユウシは皮いらないのか?」
「俺は師匠の所で革+金属の装備作らせてもらったから、もう少し先までいらないっぽい。次の次位までは手入れとグレードアップで使い続けられるって言われた。」
「初期装備に金掛からないのは良いな。次の所に行ったら一回手入れ出来る所を探さないといけないけど。」
「それな。調理の方は、遠出の事も考えるとキャンプ用具みたいなやつを揃えれば外でも作れんのかね?」
「出来るとは思うけど、匂いとか音とかで獣は寄ってくるかも。このゲームちゃんと五感接続されてるっぽいし。町でどんな対処すれば良いか聞いてみようぜ。」
どんどん話が転がって、いつのまにか森の手前まで来ていた。ここからは相当視界が悪くなるだろうし、気をつけて行かなくては。
「おー、暗いなぁ。」
「思ってたより鬱蒼とした森だな。戦闘は控えめで、採取した方が効率良いかも。」
「ショウこれ見えんのか?鳥目だろ。」
「正直キツい。気をつけて10メートルってとこだな。ユウシは?」
「俺は平気。ショウはなんか対策考えないとな。」
一応ジョンに周りを見てて貰いながら、草むらをかき分けて草を採る。ペーターさんに食べれる草を見て覚えさせられたし、身体に良い(民間的な薬効のある)草もある程度扱える。ユウシは周りの小物をチマチマ倒しているみたいだ。少しだけおこぼれで貰える経験値が増えている。暫くそれを続けていると、ユウシに呼ばれて振り向く。
「ショウ!デカいイモ虫倒したらなんか糸っぽいのドロップしたんだけど、これ欲しいか?」
「糸⁉︎説明はなんて書いてある?」
「あー……"イモ虫が吐き出す糸。蛹になる際に使用するもので、丈夫である程度の伸縮性がある。"だって!ベタベタはしてない。ちょい違和感感じるわ。」
「欲しい。粘着性ないならめっちゃ欲しい。」
「んじゃあイモ虫狩りするかー。虫系の定番なら麻痺耐性とか毒耐性とか取れるかもだし。」
「助かる!縫うのにもそういう糸使うのかも知れないし、たくさん集めれば布になるかも。」
「布か。伸縮性のある布とかテンション上がるな。できたらこっちの装備にも使ってみたい。」
「OK。町に戻ったら色々調べないとな。糸紡ぎとか、機織りとかまで手を出すか……?」
「流石に紡ぐとこまでは無いだろ。……いや、紡いだ方が長持ちするみたいなやつはありそうだな。」
「そうなんだよな。……あ!草集めはある程度纏まったから、俺もイモ虫狩りするか?」
「そうだなー。ここなら闇魔法使っても見られにくいだろ。練度上げに使えー。糸を10個目安で町に戻るかな。」
この後探索してたら、大きめの木にイモ虫がまとめて生息いる所に遭遇した。親の蝶か蛾は辺りに居なかったので、ジョンも一緒になって群れに突撃して糸を大量にゲットできた。ノーマルドロップが糸だ。レアドロップはおそらく粘液。説明的に、体内で糸を作り、吐き出すときに粘液でコーティングする事によってベタベタした糸を作っているらしい。……すごい設定がしっかりしている。