チュートリアル
よろしくお願いいたします。
"ようこそ。夢の世界へ。只今からチュートリアルを開始します。不要の方は目の前のウィンドウで"受けない"にタッチし、始まりの街"オフトゥン"へ進んでください。なお、今回チュートリアルを受けなかった場合、始まりの街を拠点にしている期間のみ、1度だけチュートリアルを受けることが出来ます。"
しばらくして、アナウンスの声で青い空にどこまでも広がる草原の様な場所に立っている事に気付く。目の前に文字が浮かび上がり、さらにその下に小さな四角い板の様なものも。そこには、受ける、受けないの2つの選択肢。受けるをタッチ。
"チュートリアルを開始します。まずは真っ直ぐ前へ歩いてみましょう。いつも通りで大丈夫です。"
……いつも通りで大丈夫?よくわからないけれど、とにかく歩こう。
"脳波接続に問題ありません。では、その場でクルリと一周。"
"ジャンプ、しゃがむ、立ち上がる。右腕をあげる。左腕をあげる。グー、チョキ、パー。最後に少し走りましょう。"
"脳波接続に問題ありません。種族特性:飛行のチュートリアルを開始します。まずは、翼を大きく広げましょう。"
目の前の文字とアナウンスに順調に従っていたが、ここで躓いた。背中に何かある感覚は持っていたが、動かし方がさっぱり分からない。ピタリと止まった身体に、プログラムはエラーを感知した様子だった。
"脳波接続に多少のエラーあり。腕の感覚機関と短時間リンク。右腕と左腕を大きく動かしてください。"
言われた通りに下に下ろしていた腕を広げる様に上げると、背中の筋肉が一緒に動き、翼を広げる感覚があった。何度か鳥の羽ばたく動きに似せて腕を動かすと、翼だけを動かす事が出来る様になる。この動きで特に問題ないのが驚きだ。見様見真似でバサバサしただけだぞ。
"脳波接続問題解決。腕の感覚機関のリンクを解除。その場で少し助走をつけて羽ばたき、宙に浮いてみましょう。"
言われた通りに翼を広げながら駆け足をすると、翼の下に空気の抵抗を感じた。思っていたよりも広くて大きい翼が強い浮力を生み、身体が一気に浮く。その勢いに少しビビってると、あっという間に草原が薄青く見えてくる。
"顔を上げて前を見てみてください。空中エリアには空気の渦があります。種族特性により可視化されていますので、上手く翼に当て、5分間、滞空しましょう。"
その文字に周りを見回すと、小さな透明の渦が彼方此方に散らばっている。それを翼の内側に当てると少し浮き上がり、外側…背中側に当たると少し下に沈む。延々と繰り返しながら小さな円を描く様に浮いていると、次の指示が来た。
"大きな渦や流れる風は気流です。乗る事が出来れば素早く移動する事が出来、逆らえば前に進めません。小さな渦も使いながら体勢を保ち、5kmほど正面の北に移動してみましょう。"
読み終わると弱い風が吹き始め、視界の端に方位磁石の様なものが現れた。北を表す4に似た線と、顔を向けている方向に赤い針を回すひし形。これも種族特性なのかも?
今の高さだと風の流れはゆっくりだ。少しずつ東に流されている。上を見上げると、此処よりも数段は早く流れているし、小さな渦の量も多い。早く移動するなら上の気流に乗らないといけないみたいだ。辺りを見回して、少し南に北へと向かう気流とくっつく上昇気流を発見し、その流れに乗った。
荒い流れに上手く乗るのは難しく、何度も錐揉み回転をしながらバランスを取る練習をして、5kmに到着する頃には髪も服もグシャグシャのボロボロ。目的地には、強風でも吹き飛ばされない不思議な風船が浮いていて、まるで角度強めの滑り台を滑り降りる勢いのままその紐を掴んだ。その瞬間風船は俺の背丈ほどもある長い木の杖に変わり、重さが急激に変わって落としそうになるのを間一髪阻止。しっかりと両手で持ち直す。実際に身体を動かした訳じゃないのになんだこの疲労感は。しばらくすると周りの空気の渦が減っていき、ゆっくりと再び草原に立った。
"種族特性:飛行のチュートリアルを完了しました。次は戦闘スキルのチュートリアルを開始します。生産職を目指す方も、より技術の進歩している土地へ移動する為にある程度の戦闘スキルが必要になります。自身の持つスキルの簡単な使い方だけは覚えておきましょう。"
ここにもまたウィンドウが出現。ちょい疲れてきたが、まだ時間はありそうだから受けるをタッチ。
"貴方の戦闘スキルは、降霊術、憑依、闇魔法です。基礎となる闇魔法からチュートリアルを開始します。"
はいはい。
"闇魔法とは、主に魂に対して効果を発揮する魔法です。闇魔法、降霊術、憑依は、自身の魂の強度であるSPと魔力量であるMPを使用して発動します。闇魔法の攻撃を受けると、体の強度であるHP と共にSPが減ります。SPが減ると、呪いやステータスダウン、状態異常系の魔法にかかりやすくなったり、魔物に襲われ易くなります。SPが0になると、HP の有無に関わらず死亡扱いとなり、自然回復するまで復活できません。"
ん……?た、魂…?急にスピリチュアルな話題になったな?確かに見慣れないポイントがHPとMPの下にあったな。良く分からないけれども、魂?のHP がSPと…うん。
"SPはHP やMPの様にレベルアップで増加せず、特殊なイベントでのみ増加します。また、ゲーム内時間の1日に1しか回復しません。闇の魔法を扱えるのは、そのMAXSP値が通常より高い数値を表しているからです。計画的に魔法を使いましょう。では、実際に使ってみましょう。初めに覚える『ダークボール』は、SPの減りが少なくHP を削る事を目的としています。攻撃の中心となる魔法です。名称を口にするだけで発動します。消費SPは1、MPは3です。"
「ダークボール」
名前を口に出すと身体から何かが減った感覚があり、目の前に直径50cm位の黒いボールが現れた。ふわふわと目の前で浮かんでいるそれは、何かが渦巻いている様にも見える。
"前方5mに的を用意しました。速度などを想像しながら、的の中心に当ててください。難しい場合はこちらが自動でアシストいたします。"
一瞬で的らしき円形のものが遠くに現れたので、"車が走る位の速度"を思いながら発射する。ビュン!と効果音が付きながら、かなり勢い良く進んで行き的の中心に当たって消えた。
"魔法はイメージが大切です。今回の魔法の大きさ、密度、質感は、全て名前から連想される、無意識のイメージにより作られました。これらは意識する事によって変えることが出来ます。様々なイメージを試してみましょう。"
"続いて、降霊術のチュートリアルを始めます。降霊術は、魂に対する理解を深めたスキルです。SPを消費して、世界に散る魂のカケラに力を貸して貰う為の術として利用します。魂の種類は選ぶことができませんが、ある程度の方向性を示すことは可能ですので、この後試してみてください。基本的に、魂にはSPしか備わっていません。HPやMPを設定するには、魂を何か器などに入れる事により、漸く戦闘や生活に活用する事が出来ます。また、召喚時に使用したSPが召喚した魂から無くなる、器のHP、またはMPが0になる、召喚したあなた自身のHPが0(瀕死状態)になると自動的に魂を手放します。"
降霊術だけでは何も出来ないって事だな。次に習う予定の憑依スキルがこれで必要になって来るわけか。なるほど。難しい事を考えるもんだなぁ。すごい。あと、自分が倒されたりどれかのパラメータが0になったらいなくなっちゃうやつ。
"……脳波測定の結果多くのSPがあることが判明したので、今回は特殊な降霊術を提案いたします。この降霊術は、使用したSPを永久に失う代わりに貴方が死亡するまで1つの魂の協力を得られるものです。分かりやすく言うと、貴方専用の従者、または護衛です。こちらは、瀕死状態で解除される事はありません。行う場合はSPの消費量を決めてください。"
文字の下に空白のウィンドウが開かれ、そこをタッチすると"やらない"、と数字が記入できるようになっているスペースがある。うーん……HPとかMPとかと見比べる限り、SPはめちゃくちゃあるんだよな。さっきのダークボールでも1しか消費してないし、負けてもいなくならない、思い切って多めに使っても良いか。やらない後悔よりやる後悔だ。
「100を入れよう。200は余るしな。」
"SPを100消費して、特殊降霊術を行います。足元に召喚する為の魔法陣が開かれ、大量のSPが消費されます。身体から力が抜けますのでご注意ください。"
アナウンスの後、足元に半径10m程のでっかい円が現れて、ズラズラとよく分からない記号がその中に流れ出した。円の中が記号で埋まるとビカー!と出てきた青白い光で目が潰れそうになり、慌てて目を瞑る。次に膝からいきなり力が抜けて、そのままバランスが取れずに尻餅をついた。
「召喚に応じ参上致しました。名のない剣士ですが、主人の為、精一杯努めさせていただきます。」
暫くしてから大人の男の声が聞こえて目を開けるともう青白い光は無く、代わりに青白い肌の目付きの悪い白シャツスラックス男がひざまづいていた。筋肉質で、西洋系のほりが深い顔立ちをしている。……腕が片方ないな?
「……………。」
「……………主人?」
「………おれ?」
「はい。貴方が降霊術をしたのでしょう?」
「……………そうだった。デカいし強そう。」
「光栄でございます。自分は普通の魂達とは違い、魂のままでも物理的な事柄が解決されている魂です。物理的な攻撃や御手伝いが出来ますが、相手の物理的な攻撃は効きません。ポルターガイストと言えばなんとなくご理解いただけるでしょうか?」
「実際めっちゃ強かったな。それは心強い。俺は攻撃力も防御力も無いから、よろしく頼む。」
「はい。」
「ま、まぁ、その体勢は落ち着かないから、ひとまず立って。」
「了解致しました。」
ぽかんとアホのように口を開けてジロジロ見ていたら、軽い自己紹介のあと本当の騎士みたいな仕草で助け起こされ、自然と後ろに控えられた。……これ、本物の騎士の魂呼んじゃったんじゃない!?さすがSP100!どのくらいすごいか分からないけど。
"降霊術を発動出来ましたね。おめでとうございます。しかし、彼は憑依スキルが使えない魂の様です。残念ですが、もう一度、普通の降霊術を行います。SPを1消費し、小さな魂を呼びましょう。その後、憑依スキルのチュートリアルを行います。"
「降霊術、SPを1消費。」
足元ではなく目の前に10cmくらいの魔法陣?が展開し、犬らしきモヤモヤ?が出現した。
"犬の魂の様ですね。人形を用意しましたので、こちらに憑依させましょう。メニューを呼び出し、道具ボタンをタッチします。そこから人形を選ぶと手に乗りますので、憑依スキルを使ってください。"
「メニュー」
ウィンドウが視界の端に現れて、道具ボタンをタッチ。正面に広めのウィンドウが出現。その1番上にある『犬のぬいぐるみ』をタッチすると、手のひらサイズのぬいぐるみが手の上に出現。それを魂の前に翳して、中に吸い込む?様なイメージ。
「憑依。」
すぐに魂が吸い込まれ、ぬいぐるみがワン!と鳴いた。
"この状態で、漸く通常の魂は戦闘などが出来ます。耐久度などの各種ステータスは憑依させた物により異なります。魂に適した素材を使って作りましょう。魂は、消費SP×ゲーム内日数分力を借りる事が出来ます。残り時間を気にしながら、使いましょう。これで、戦闘スキルのチュートリアルを終了します。"
やっと終わった………まだ、生産スキルが残ってるんだよな……な、長い……
"次は生産スキルのチュートリアル…と行きたい所なのですが、生産スキルは説明だけで終わってしまいます。基本的には生産に必要な材料を集め、スキルアシストにてスキルを発動するだけで終了してしまうからです。もちろん、現実の様に工程を行う事が可能ですし、夢の世界の住人は作業にて作成を行います。スキルレベルが上がると、成功率が上昇したり、新しいものが作れる様になるでしょう。オリジナルで作るのも良いですし、探せばレシピなどもありますから、かなり応用範囲が広いのです。縛りなどございませんのでお好きに進めていただければと思います。"
"戦闘スキル含め、全てのスキルは新しく習得ができますし、使い続けるとレベルが上がります。向き不向きがあり、上がりにくいものもありますが、全ては貴方の自由です。この世界で、思う存分楽しんでください。貴方達プレイヤーは、夢の騎士という世界から危機を救うという存在の候補者で、神から遣わされた者達なのです。"
"最後に、簡単なヘルプなどをメニュー欄の中にご用意しておきました。困った時などは、ぜひ活用してください。"
ヘルプは大事だな。後で見ておこう。今回チュートリアルが無かったら空を飛ぶなんて出来なかったかもしれないし。
"あと10秒ではじまりの街『オフトゥン』へ転移します。この世界は、貴方を歓迎します。"
目の前がフワリと白くなって、何処かに引っ張られる様な感覚がした。