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最初の思い出

僕はベッドに横たわりぼんやりと昔のことを思い出していた。


あれは初めてシャーロットと会った時の事だ。僕らはまだ5歳くらいで王になる事や結婚する事の意味などほとんど分かっていなかった。庭園のバラがきれいに咲いていたのをハッキリと覚えている。僕が両親とバラの鑑賞をしている時にシャーロットが両親と現れたのだ。

「パトリス、こちらはこの国の王女のシャーロット姫だ」

「初めまして。パトリス殿下。シャーロットでございます。お目にかかれて光栄です」

可愛らしいが完璧なカーテシーをした後ににっこりと微笑むシャーロットに僕は自分の顔が赤くなるのを感じた。

思えばあれが僕の初恋だったんだな。しみじみと頷く。


「さっきのご挨拶、すごくすごーく練習したのよ。上手く出来てたかしら?」

「はい。挨拶も上手でしたよ。カーテシーがきれいだった。あれ大変なんでしょ?」

「そうなのよ。最初は足や背中がプルプルして何日かは痛かったわ」

一通りの挨拶が終わった後、僕らは二人で遊ぶ事になったのだが、その時にシャーロットが舞台裏を教えてくれた。

頭を下げた時に美しい姿勢になるために毎日ほとんど筋肉の鍛錬のような事をしていたらしい。彼女はなかなか努力家だ。

「そんなに辛いのに頑張ったんだね。偉いなあ」

「パトリス殿下も綺麗なお辞儀だったわ。まるで騎士みたいで」

「騎士に見えたんだ。嬉しいな。僕は騎士になって王になる兄上を守るんだ。そして将来は近衛騎士団長になるんだ」

「凄いわね。パトリス殿下には騎士になる夢があるのね」

「シャーロット殿下は何になりたいか夢はあるの?」

「私? 今はまだわからないから、いっぱいいろんな事をしてみたい。それから決めるわ」

「シャーロット殿下は王になるんだよね?」

「おそらくはね。でもそれは夢じゃないのよ。決まった事だもの。なりたいからなるんじゃなくて、義務なんですって」

「あー、僕も言われた。王族の義務ってやつでしょ? 王家に生まれると守らなきゃいけない事がたくさんあるんだって」

「勉強するのもダンスを踊るのも王族の義務なんですって」

僕たちはそうそう!と言って他にもいろいろと例を挙げて盛り上がった。


二人ともすっかり打ち解けた頃にシャーロットは行った。

「ところで私のことはシャーロットと呼んでくださいな。私たち結婚して家族になるのでしょ? だったら殿下って呼ぶのは変よね?」

「そうだね、シャーロット。じゃあ僕の事もパトリスでいいよ」

「わかったわ。パトリス」


その時、シャーロットの背後から近付いてきたのはアルフレッド王弟だった。

「やあ、シャーロット、元気そうだね。これはパトリス殿下。シャーロットとはもう友達になれましたか?」

「なれたわよね、パトリス。さっきから楽しくおしゃべりしてるの」

シャーロットがにこやかに答える。だいぶ叔父に懐いているのが分かる。

「それはよかった。パトリス殿下、どうか仲良くしてやってください」

アルフレッドも笑顔で答える。だがすぐにその笑顔は歪んで目から光が消えた。

「シャーロットは16年しか生きられないからその分愛してやってくださいね」


ハッと僕はベッドの上で目を覚ました。

いつの間にか寝てしまっていたようだ。

今の夢は何なのだろう。あの時アルフレッドはそんな事は言っていなかった。

僕は本来の記憶を辿り寄せる。

確かアルフレッドは「仲良くしてやってください」と言った後に自分の娘と息子を紹介したのだ。

「この子達もお二人と同じくらいの歳です。きっと仲良くなれると思いますよ」

二人は双子の姉弟だった。姉はアビゲイル、弟はチェスターという。

この二人はシャーロットのいとこで血が繋がっているのだが、見た目も性格もシャーロットとは随分と異なっていた。

チェスターはあまり人目を気にせず自分がしたい事をやるタイプで感情にあまり左右されることなく理知的という言葉が似合う。一方アビゲイルは他人の目を気にして、どちらかというと感情に左右されるタイプだ。

そして二人ともシャーロットが大好きだった。ついでにシャーロットの側にいる僕の気持ちもよく分かっていてくれて、早くシャーロットに気付いてもらえるように応援してくれていた。


そう、シャーロットから見たら僕は単なる幼馴染であり男性として見られていない。悲しい事だがそれは分かっている。だから婚約したら、僕の事をちゃんと意識してもらおうと思っていたのにこの事態だ。


ふと明日の事を考える。

僕はまだシャーロットと正式に婚約はしていないのでこの国との関係は特にない。つまり僕とアルフレッドとは何の関係もない。加えて今の僕は私的にこの国に残っているだけなので、政治的な用件も無いわけだ。

わざわざ城に呼び寄せるなんてアルフレッドは僕に何の用があるのだろうか。



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