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大広間の光景はみるみる薄くなっていき消えると元いた小部屋の壁だけが見えた。

老婆が見せた過去の記憶が終わったのだ。

横たわるシャーロットが目を開けて僕を見つめた。

「ごめんなさい、パトリス。私、とても眠いの」

そう言うと彼女は目を閉じて動かなくなった。呼吸もしていないようだ。

大丈夫、さっき見たあの光景が事実なら彼女は死なない。100年の眠りにつくだけだ。


100年。

それは途方もなく長い時間だ。

シャーロットが目覚めた時、彼女の側に僕はいない。僕はシャーロットを見つめた。

「おやすみ、シャーロット。目覚めた時は元気になっていてくれ」

そう言った途端に城の外がザワザワとし始めた。窓から外を見ると城壁が緑に覆われている。その緑はどんどん城を覆い始めた。

すると一瞬眩暈のような浮遊感覚が起きて目の前が真っ暗になった。目が見えるようになると、僕は王宮の外にいた。王宮のあった所は植物で覆われている。よく見るとそれは茨だ。茨が城全体を覆っている。

「一体何が起こったんだ? さっきまで王宮の庭園にいたのに、どうして俺はここにいるんだ?」

庭師なのだろう。片手に鋏を持った男が驚いている

「何なの? 掃除していただけなのに、何でここにいるの? ここはどこ? この巨大な緑の塊は何?」

箒を持ったメイド姿の娘が半ばパニックになっている。

僕と同じように城から飛ばされた者も多くいるようだ。皆不安そうにあたりをキョロキョロしている。


すでに城は全く見えずに茨の塊だけがそこにはあった。

僕は剣で茨を切り城に戻ろうとした。だが、切っても切っても茨は再生してしまい、一向に進めない。まるで茨が城を守っているようだ。


間もなく王弟の命により調査隊が編成された。王とその継承者のシャーロットがいない今、この国のトップは王弟であるアルフレッドだ。

だが、何をしても王宮に近付くことは出来なかった。もう一週間以上経つ。中に残された人が心配だ。賢人をはじめ国中の魔法使いや識者が集められたが何も出来ないでいた。ただ、賢人たちが術を使い城の中を見る事が出来た。城の中はまるで時間が止まっているかの状態だそうだ。炎はメラメラとしたまま時間が止まっているし、城の中に流れている小川も水の流れが止まっている。

くしゃみをしかけたまま変な顔で時間が止まった者もいるそうだ。

100年の眠りというのは、つまり100年時間が止まったままになるという事なのだろうか。


シャーロットが城の中で寝ているのはわかっているが、他の人はどうなったのだろう。

僕と同じように城から飛ばされた人の中には王も王妃もいなかった。飛ばされた人と中にいる人との違いは何だろう。

茨の中に閉じ込められた貴族達の名が発表された。見ると皆国王派と呼ばれている王の政策を支持する者たちばかりだった。

逆にほとんど含まれていなかったのは王弟派と呼ばれる王弟を時期国王に押す貴族達だった。これは単なる偶然なのだろうか。


王宮が茨に包まれてから10日がたった。いつまでも国王不在のままでは良くないと摂政が置かれる事となった。摂政に選ばれたのは最有力貴族であり王弟派のフラナガン公爵だった。

離宮として使われていた宮殿が臨時の王宮となり摂政とともに王弟が国事を行う事になった。

この10日間、まるで初めから予定されていたかのように事が順調に進んでいる。王宮に閉じ込められた人はもう死んだものと見做されていて要職がどんどん王弟派の貴族に塗り変わっていく。


王宮から弾き出されて以来、僕は城下町の宿屋に滞在している。その部屋の窓から王宮がよく見えるのだ。王宮が閉ざされてすぐに父王からの指示が届いた。王宮が茨に覆われてしまった謎を調査することと、この先起こる出来事の監視をするようにとのことだ。まあ指示がなくても調査はするつもりだった。寝たままのシャーロットがどのような状態か気になってとてもじゃないが帰国などする気になれなかったのだ。

シャーロットが眠りについた時、僕は彼女が目覚めるまでずっと側にいるつもりだった。だがそれも叶わなかった。あのままシャーロットの側にいられたら100年後に彼女が目覚めた時に、僕は側にいられたんじゃなかろうかと考えてしまう。その時シャーロットはもう王女ではないかもしれないが、そんな事はどうでも良い。きっと僕も王子ではないだろうし。身分も地位も財産も全て無くなってもシャーロットがシャーロットである限りずっと側にいたい。


翌日、王弟アルフレッドより使者が遣わされた。僕に「明日王宮に来るように」との事だった。王弟はまだ王にはなっていないが、自分のいる宮殿を王宮と呼んでいる。10日も経たない内に「アルフレッド王」体制が出来上がっているのだ。ありえない事だ。おそらく何年も前から計画されていた事だろう。兄王を弑虐するつもりだったのか。だとしたら今回のことはアルフレッドにとっては好都合だった。王殺しの汚名を受けることもない。また兄王の側近も皆王宮を去り、思い通りに国を動かせる。いいことづくめじゃないか。


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