お伽話
これは今から何年も前の出来事です。
この国にはそれはそれは賢くて勇敢な王がいました。王妃も優しく賢い方で、王と二人で平和に国を治めていました。二人はとても仲が良くそれを見ていると周りの者たちも幸せになる程でした。
しかし二人の間にはなかなか子供ができませんでした。二人が結婚して10年経った時、王は決意しました。王は王妃以外の女性との子供は望んでいなかったので、子供がいない王の後継者はこのままでは実の弟になります。しかし王は弟に国を任せるのを躊躇っていたのです。「確かに能力はあるが、弟は自分の事しか考えていない。このままでは民の心が王室から離れていく」そう心配していたのです。王は血縁の者を養子にする事を考えました。そんな時です。
「陛下! 王妃殿下がご懐妊なさいました」
王と王妃の喜びはどれほどだったでしょう。家臣一同も喜びました。
そうして王妃は無事に女の子を産みました。
国中が喜びに沸き、国を挙げての盛大な誕生祭が行われることになりました。
この国では新たに王族が生まれるとその未来を予言してもらう風習がありました。予言の力を持つ賢人と呼ばれる魔法使いに未来を占ってもらうのです。賢人は魔法使いの中でも特に力があると認められた者に送られる称号です。賢人は国に何人かいますが、大きな宴が開かれると招かれて未来を占うのです。賢人はあまり具体的なことは言いません。それはその人の人生がその言葉に縛られてしまうからといわれています。ですから賢人たちは当たり障りの無い事を告げるのが普通なのです。
王女の宴に賢人を呼ぶ事になりました。今賢人は全部で8人いるのですが、そのなかの一人とは音信が取れずにいました。ずいぶん前に人との付き合いを避けて遠い森の中に籠ってしまったのです。あまりに姿を見せないのでもう生きてはいないのではないかと噂されていました。家臣たちの話し合いの結果、この賢人は招かない事にしました。ちょうど賢人に使うお皿の枚数も7枚だったのでそれでよしとされました。賢人に使うお皿は特別な物で周りに宝石が散りばめられているのです。足らないからといっておいそれとは手配出来ないのです。
「生きていたとしても、あの賢人は田舎に籠ってるのだから、王女様が産まれた事すら知らないかもしれない」そう思う者も多くいました。
多くの人が時間を費やして立派な宴が開催されました。国王の挨拶の後、外国の大使からの祝辞が終わり、賢人たちの予言の贈り物の時間になりました。誕生を祝う宴では賢人の予言は誕生日の贈り物とされるのです。
厳かに7人が入ってきます。力の強い賢人から次々に予言の贈り物が告げられていきます。
「王女殿下はすくすくと健やかにお育ちになります」
「王女殿下はとても美しくお成りになります」
「王女殿下はとても賢くお成りになります」
「王女殿下は王族として立派な素質をお持ちになります」
「王女殿下は素晴らしい音楽の才能をお持ちになります」
「王女殿下はダンスが上手に踊れます」
6人目の賢人がそう言った途端、バタンと大きな音を立てて後方のドアが開きました。あまりの大きさに会場にいた者は一斉にそちらを向きました。
見ると美しい女性が立っていました。何やら恐ろしい妖気を纏い歪な笑顔を浮かべながら。
「あれは森に籠っていた賢人だ!」誰かがそう言いました。
「あんなに若かったか?10年以上姿を見てなかったが以前よりも若く見えるぞ」
確かに、と思う者も多くいました。賢人は二十歳そこそこにしか見えません。偽物だと誰もが思いました。しかし賢人達は「あんな妖気を感じさせる魔法使いなんてそうはいない。あの妖気が出せるのは本物の賢人だ」と思いました。
謎の賢人が動き出すと人々は思わず道を開けます。護衛騎士達が女の動きを止めるため賢人の前に立ちますが、賢人は歩みを止めず王族の席の近くまで来てしまいました。護衛騎士はとうとう賢人を取り押さえました。すると賢人は何やらモゴモゴと呪文のようものを呟きました。それからいきなり大声になりました。
「よくも私を無視してくれたわね。お礼にとっておきの贈り物をしてあげるわ。その王女は……」