7話 親の資格
「んー……むにゃむにゃ……」
「すぅ……すぅ……」
夕飯も食べ終わり、お腹いっぱいになったのか寝始めたマースとナミカ。
「遊んで食べて寝る。子供の仕事ですね」
「あ、後片付けは俺がやりますから」
「いえいえ、そんな食べ散らかしなんて出来ませんって」
「ユラサさんは準備をしたじゃないですか」
「ですけど――」
「しかし――」
ユラサとファル、発生した譲り合いの結果、二人で一緒に後片付けをするという落とし所となる。
二人で流し台に立ち皿を洗いながらユラサが口を開いた。
「改めて、今日は本当に助かりました」
「いえいえ。日曜学校が臨時休校だなんて災難でしたね」
「そうなんですよ。しかも明日もどうなるか分からないって話で」
「本当ですか?」
「明日も仕事なので続いたら大変ですね。はぁ、やってくれたらいいんだけど」
「日曜学校は何が理由で休校してるんですか?」
「それがちょっと不明瞭で……噂だときな臭い騒動が起きているみたいなんですけど」
「ふーむ……」
ファルが顎に手を当てて思索に耽っていると、ユラサがおずおずと切り出す。
「その、聞いて良いか迷いますが……どうしてナミカちゃんを日曜学校に通わせてあげないんですか?」
「あー……それは……」
「経済的な事情では無いですよね、家を見る限りちゃんとした暮らしを出来ているみたいですし。何か子供には言いづらい理由が……」
「…………」
「……というわけでもなく私にも言えない感じですか」
「すいません、そういうことになりますね」
魔王関連の情報は王国の機密、トップシークレットだ。
「ナミカは日曜学校に通いたくて、同年代の子供達と一緒に遊びたくて……でも俺の事情で我慢を強いている……」
核心を突いた問いについファルは日頃からの悩みをこぼしてしまう。
「全然親らしいことをやれていない……いやそもそも俺が親なんて……」
そもそもの話。
ナミカの親を、魔王を殺したのは俺だ。
それなのに……どの面下げて親のマネなんかをしているのか。
「やっぱり俺に親の資格なんて無いんだろうな……」
どうしても堪えきれずに漏れた呟きを。
「分かります、親の資格ってみんなどこで買ってるんですかね?」
ユラサが拾う。
「買う……?」
「私も欲しいんですよ、親の資格。でも見つからなくてですね……」
「そんなのユラサさんには必要ないじゃないですか。ちゃんと親をやってますよ、マース君もあんなに慕っているじゃないですか」
明るくおどけたように言うユラサにファルは言い返して。
「その言葉そっくりそのまま返しますからね」
「っ……」
「ナミカちゃんだってファルさんを慕っているじゃないですか」
「それは……」
「言われてみれば私とファルさん境遇似てるんですね。シングル同士……そして本当の息子娘では無いところも」
ナミカが実の娘では無いことは言っていないが……いやあそこまで言えば言ったも同然か。そしてユラサさんとマース君も……。
「自信が無くなる日もありますよ。ただそれでも親をやっていくしかないんですから」
「……」
「どうしようも無いときは相談してください。こうして会ったのも奇妙な縁ですから」
「ありがとうございます」
「……あ、もちろんそっちも相談乗ってくださいよ。あと今日みたいに仕事忙しいときも助けてくださいね!」
「ははっ、俺で良ければいつでもいいですよ」
雰囲気が軽くなる。
「あとやっぱり気になるのでファルさんの事情とやらもいつか教えてください」
「それはまだ早いですね。もうちょっと親密度を稼いでからチャレンジしてください」
「安くないですねー」
「ユラサさんほど軽くないですよ。普通、初対面の自分に子供を預けますか?」
「初対面じゃありませーん。三ヶ月も隣で住んでれば何となく人となりくらい分かるでしょ!」
「うわ、そんなに俺のこと気にかけてくれたんですか」
「そりゃ気になりますよ、ファルさん無職でしょ」
「うぐっ……!」
「よし、クリティカル!」
「今ので親密度が500下がりましたからね」
後片付けの手も止め言い合う二人だった。