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6話 夕食


「そろそろご飯よー。お片付けしなさーい」


 夕食の準備を終えたユラサが子供たちに呼びかける。




「……ん? あれ、ママだ。何でここにいんの?」


「ママって……あんたのママ?」


 遊びに夢中になっていたマースとナミカは気付いていなかったようだ。




「初めまして、ナミカちゃん。マースのママのユラサです」


「……は、初めまして。ナミカです」


 ナミカが緊張した様子で挨拶を返す。マース君と馴染むのが特段早かっただけで、対人関係の経験の少ないナミカはどちらかというと人見知り寄りだ。




「なに猫被ってんだよー」


「う、うっさい」


「ふふっ、元気なのはいいけど言ったとおりご飯の時間よ。手伝わない子はご飯抜きだからね。……あ、そうだ。ファルさん、食器なんですけどどれを使えば……」


「そういえば言ってなかったですね」


 四人は協力して食卓の準備を進めていく。




 そして。


「「「「いただきます」」」」


 手を合わせて食べ始める。


「おいしい!」

「へへーん、すごいだろママの料理は!」

「あんたが誇ることじゃないでしょ」


 言い合いながらも食べる手が止まらない。遊んでお腹も空いていたのだろう。


「本当に美味しいですね。俺も料理をしますけど到底及ばない出来です」

「お口に合ったようで何よりです」


 ナミカを育てるようになって最初こそ料理に悪戦苦闘していたが、5年も経ってまあまあ腕も自信も付いてきてた。しかしユラサさんの料理はそれを遙かに上回っている。




「今日は鬼ごっこして、おやつ食べて、ボール遊びして、お昼寝して、つみ木高くして」

「うんうん、いっぱい遊んだのね。ナミカちゃんも楽しかった?」

「ま、まあ、楽しかったわよ」

「ありがとうね、マースと遊んでくれて」

「それほどでもないわね」

「はあ!? ちっげぇし! 俺が遊んでやったんだし!!」


 だんだんとナミカの緊張も解れてきたようだ、打ち解けた会話をしている。




「ん、これおいしい」

「ナミカちゃん、その緑色の何だか分かる?」

「え?」

「それピーマンなのよ」

「……うそ、これがピーマンなの? こんなにおいしいのに?」


 ピーマンが苦手なナミカが気付かずに美味しく食べていたなんて。


「俺がどんなに工夫しても食べなかったのに……すごいですね」

「苦みと青臭さを取る工夫があるのよ。興味があるなら教えますよ」

「是非お願いします」


 ファルが頭を下げる。






「そうだ、ナミカ。おまえも日曜学校に来いよ。みんなともっと色々なことで遊ぼうぜ!」

「……日曜学校」

「あー、すまない、マース君。ナミカは日曜学校に通ってないんだ」


 無邪気な誘いを大人の理由で無粋に断ってしまう。


「えー!? なんでだよ!」

「無駄よ。お父さんこのことになるといつも何も言わないもの」

「……すまない」


 魔王の因子を持っていることはナミカ自身も自覚していない。悪の感情により覚醒して、魔王の力を手にして初めて認識できる。

 もう5年も経って影響こそ風化したものの、人類を脅かした魔王という存在は畏怖の象徴、軽々しく口にするわけにはいかない。

 ただただ頭を下げるしかないファル。




「ふーん……ま、いっか。別に日曜学校じゃなくても遊べるしな。また遊びに来るぜ」

「え……また来てくれるの?」

「もちろんだろ! まだ勝負の決着も付いてないからな!」

「へ、へえ……そう。来たいなら来れば良いんじゃない?」


 素っ気なさそうにしているが嬉しさを隠しきれないナミカの言葉。今日一日で随分と仲良くなったみたいだ。




「ありがとう、マース君。今後もナミカと仲良くしてくれると嬉しい」

「へっ、おっさん。任せとけって!」

「お父さん! 変なこと言わないで!!」


 無神経なことを言って娘を怒らせる、よくある親子のやりとりがそこにあった。

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