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負け組夫婦の僻地ライフは意外にも快適です  作者: ゆあん
第一章 初めましての負け組夫婦編
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第6話 オラリオの本音

オラリオに話がしたいと言われるエーリン。

彼が話始めたのは……?

 話をする、というからには、それが重要なことなのは明白だった。私は手にしていたグラスをそっと置き、姿勢を正した。


 オラリオは私が聞く体制を整えるのを待ってから、私の顔をじっとみて、机の上で手を組んだ。


「――昨晩、いろいろなことを考えていた」


 オラリオは深く呼吸をすると、視線を落とし、そして自嘲するように吐露した。


「私は元来、つまらない人間だ」


 突然の自白に私は慌てふためいた。


「そんな――」


 しかし私の言葉は、彼の手によって静止される。構わないから、黙って聞けということだろう。


「仕事に明け暮れ、俗世に(うと)い私が、それでもいつか(めと)る妻に、いったい何を与えることができるのかと、自問自答を繰り返してきた。幸い金には困っていなかったし、せめて政治や軋轢(あつれき)のない、穏やかで何一つ不自由のない生活を。そう決めていたんだ。それが私にできる、唯一の幸せの形なのだと」


 思いがけず、彼の心情が語られる。仕事一筋の宰相補佐も、結婚生活を漠然と意識していたのだろう。彼のいう状況が実現すれば、それだけで多くの令嬢は幸せだというに違いない。


「しかし、現実はどうだ?」


 その言葉をきっかけに、オラリオは厳しい表情になる。


「いざ妻を迎えたというのに、衣食住すら満足に提供できない。私の妻は、望む相手との婚姻を断たれただけでなく、普通の幸せすら許されない環境に置かれている。私と結婚したばかりに。それを思うと、不甲斐なくてたまらなかった」


 彼は続けた。


「私は来る未来、どう状況を改善させるかを考えた。現状を整理し、策を巡らせ、己のできる最善を模索した。私の妻が再びまた貴族としての生活を送れるように、己が積極的に動き、使えるものはたとえ人の命であろうとも躊躇(ちゅうちょ)なく使い、実現させる。それがそれができる人間だと信じていたんだ。――貴方の行動を見るまでは」


 私の行動。それは、自分の肌着で掃除をしていたことだろう。


「私の妻は、だれよりも現実を見ていた。この生活を続けるために何が必要なのかを、貴方は理解していた。ここで生活をしていかなければならないと言いながらも、その実、覚悟ができていないのは私の方だったのだと、痛感したのだ」


 思いがけず彼の心情に触れ、困惑する。


「未熟な私は、それを受け入れるのに時間がかかってしまった。貴方は話をしようとしていたが、私はそんな貴方をもっともらしい理由をつけて、寝室に追いやった。逃げ出したのだ。よくもよき夫などと、聞いて呆れる」


 テーブルの上で握られた彼の掌は、腕に血管が浮き上がるほど強く握りしめられている。


「申し訳ない」


 オラリオは頭を下げた。いったい私はこの数時間で、幾度彼の頭を眼下に見たというのか。


「頭をお上げください」


 貴族社会において、男が女に頭を下げることなどほとんどない。まして、彼ほどの地位であればなおさらだ。実際のところ私が頭を下げさせている様なものだ。もっと早く彼の考えに気づいていれば、そうはならなかっただろうから。

 

 むしろ、その罪は私にある。


「私の方こそ、オラリオ様のお心遣いに気が付かず、申し訳ございませんでした」


 私も深く頭を下げた。

 

 ――どうして私たちはこうもすれ違ってしまうのだろう。


 そこで私は思い当たる。


 ――そもそも、私たちはお互いをまったく知らないのだという事に。


「一つ、提案があるのですが、よろしいでしょうか?」


 彼は頭を上げ、私を見つめた。


「聞こう」


「――話を、しませんか」


 私は彼を真正面から見つめ返して、言った。


「私たちは、お互いのことをあまりにも知りません。すれ違いは起こっても、致し方ないと思うのです」


 お互いのことを知らないということは、それは「はじめまして」の関係と大差ないということに他ならない。


「オラリオ様にお話頂かなければ、私はおっしゃっていることの真意を未だに理解することはできていなかったと思います。そのお考えをもっと早くに知っていれば、結果は違ったものになったかも知れません」


 彼が言った「受け入れられない」という言葉。私はあの時、自身を否定されたと思った。実際はこうも異なるというのに。


「ですから、話をするのです。生まれや家族、好きなものや趣味、なんでもいいのです。お互いのことをもっと知れば、それだけ親しくなれるはずです」


 相手の人となりがわかれば、考え方や受け止め方もある程度予想ができる。そうすれば、こちらから伝え方の工夫をしたり、気遣いをすることだってできるだろう。そうして、異なる人間との間に生まれる摩擦を減らすことで、初めて分かり合うための土俵が整うのだ。


「――そう、私たちは、知人から始めるべきだったのですわ!」


 気づけば、テーブルに両手を打ち付け、身を乗り出していた。

オラリオの真摯な気持ちに、より信用を強めたエーリン。

それに対してエーリンからも「話をしよう」と切り出すが、果たしてオラリオは……?



※お読みいただきありがとうございます。

文字数が多くなってしまったため一旦話を区切らせて頂きました。

あまり時間を空けずに続きを掲載いたしますので、お待ち頂けますと幸いです。

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