【短編】映画の異世界転生
※「なろうラジオ大賞3」参加作品です。(使用ワード「映画」)
「探しましたよ! 姫!」
息を弾ませて駆けこんできたのは、私の運命の相手こと、隣国の王子だった。
巨大な城の一角にある、豪奢な部屋の窓の外では、七色に光る大きな火柱のようなオーラが揺れていた。
その不思議なオーラはすべてのものを飲みこみながら、王子と私のいる城へと竜巻のように近づいていた。
「私、怖くなってまいりましたわ」
声を震わせて言う私を、王子は優しく抱きよせた。
「姫、ご安心を。俺は貴女とずっと一緒です。たとえこの世界が、次の世界に丸ごと転生されるとしても」
王子は私の背中に回した腕に、そっと力をこめた。
これまでに数えきれないほど交わした抱擁なのに、その厚い胸に顔をうずめるたび、私の意識は空へ落ちていくような甘い浮遊感に包まれた。
「そうね……だってここは、『映画』の世界ですものね」
私は夢見心地でうっとりとつぶやいた。
この世界の転生の歴史が、走馬灯のように頭の中を流れ始める。
私たちの始まりは、車輪のような機械の「映写機」だった。
次は、黒くて長方形の筐体の「ビデオテープ」。
その次は、銀色の輝きを放つ円盤の「DVD」。
世界が生まれ変わるたび、私たちも転生を繰り返した。
永遠に年を取らずに、永遠に同じ運命を繰り返した。
最初は白黒だった世界に、突然、鮮やかな色が加わった。
顔や風景の映り方は「技術の進歩」によって、年代を重ねるほど、きめ細やかに洗練されていった。
「ねえ王子。私たちは一体、どこへ生まれ変わるのかしら」
私の耳に王子が口を寄せた。熱い吐息に、恐怖心が和らいでいく。
「次の転生先は、『ネット配信』と呼ばれる、特殊な電磁波の世界だそうです」
「それは、どんな形なのかしら?」
「形はありません。俺たちは無数の光の粒子となって、異世界の各地を飛び回るそうです。
ドラゴンよりも、ずっと速いスピードで」
「まあ、ドラゴンよりも? それは大革命ですわね」
ああ、私にはまったく想像のできない世界だわ。
まるで初恋のように、自分の胸が大きく高鳴った。
2人の体が、少しずつ光に包まれ始めた。
「王子の愛が、来世でも得られますように」
「姫を愛するのは、俺だけではありません。映画を愛する多くの者が、貴女に夢中です。
そしてきっと、新たな愛も得ることでしょう」
王子の言葉が終わると同時に、古い世界は跡形もなく姿を消した。
――それでは皆様、また次の世界でお会いしましょう。
最後までお読みくださり、誠にありがとうございますm(_ _)m
※文字数(空白・改行含まない):971字です。