トイレに行く時はコンロの火を消さないといけない
トイレから出ると目の前におじさんがいた。
「おい! コンロの火がつけっぱなしじゃねえか」
「び、びっくりした……」
「びっくりしたのはこっちだ! 火をつけっぱなしでそばを離れるなんて。梨沙、お前不注意にもほどがあるぞ」
「いや、不注意というか消し忘れじゃないしそもそもあんた……」
「言い訳するんじゃない! コンロの火をつけたままトイレに行くなんて危ないだろうが」
「でも弱火だしトイレからすぐ戻れば大丈夫かなって」
「何が大丈夫なんだ? あ? 言ってみろ」
「えっと……短時間でずっと放置するわけじゃないし……」
「黙れ! 誰が話していいって言った? あ?」
「いや、今あんたが質問してきたくせに」
「黙れ! おれが話している時は黙ってろ!」
「なにそれ……」
「お前な、タバコだって線香だって火事の原因になるんだぞ。お前は火を甘く見過ぎだ」
「そうかな……」
「それから、お前なんだこの水の量は? あ? 何に使う気だ?」
「…………」
「黙ってないで答えろ!」
「……おやつにカップラーメンを食べようと思って」
「出た。おやつってそんなんだからそんなみっともない体型になるんだよ」
「きも、それセクハラ」
「黙れ! 知るかそんなもん。それにお前カップラーメン作るのになんで水がやかんに満タン入ってるんだよ。何個ラーメンを作る気だ?」
「……一つ」
「水が多すぎるだろ! もしかしてあれか? ペタマックスか? あの大きなやつを食べるのか?」
「いや、普通のサイズのを。てかペタマックスは焼きそばだし……」
「黙れ! 細かいことはどうでもいいんだよ」
「なにそれ……」
「残りのお湯はどうするつもりだったんだ?」
「あとで使うかなって……」
「ぬるくなるだろうが! ぬるま湯じゃ何もできないだろうが!」
「いや、もう一度沸騰させて紅茶を飲もうかなと」
「無駄! それもう無駄でしかないから! そもそも必要な分の水にしておけばトイレの後に火をかけてもすぐに沸騰するだろうが! 無駄なことばかりしやがって」
「いや、たまたまだし」
「嘘つけ。昨日もカフェオレ一杯飲むのにやかんを満タンにしてお湯を沸かしてただろ。その前もそうだ」
「…………」
「あーもういいわ。今度また無駄に水沸騰させてたら床に全部ぶちまけるからな」
「は? 意味わかんないだけど。なにそれ」
「おれずっと見てるからすぐわかるからな」
「は? どういうこと?」
「もう火をつけっぱなしにするなよ。じゃあおれ行くから」
「え、もうまじで意味わかんないんだけど」
「なんだよ、帰るんだよ。おれが帰るのが寂しいのか?」
「きもい。そんな訳ないじゃん。帰るって言うけど窓を開けるから意味不明なの」
「窓から出ちゃだめなのか? いちいちくだらないことで呼び止めるなよ」
「いや、ここ四階だから、死ぬって……あ…………」
数秒後、柔らかい肉が地面に叩きつけられたような鈍い音が外に響いた。
「まじでやりやがった……え? あれ、消えた?」
窓から下を覗くと地面にはなにもなかった。ゴミが落ちてることもなく、綺麗なアスファルトが見えた。
「今の音なんだったの? てかあのおっさんマジで誰? いつも見てるってどういうこと? そもそもどこから入った? 女子寮におっさん? え? もう本当に意味わかんなすぎて泣きたい……」