これは夢か、死後の世界か?
目が覚めたら知らない場所とか、異世界転生テンプレですよね
一体ここはどこなの?
今日は久方ぶりの休みで、それなのにタイミング悪く朝から体調が悪かった。最初は悪寒だけだったのに、夕方には熱が上がり頭痛がするなんて…。明日もまだ熱が下がらないようならば、休日診療をしている病院に行かなければならないなぁ、なんて思いながら早めにベッドに入り目を閉じたはずの私は、気が付くと、見たこともない建物の回廊に佇んでいた。
いや待って、本当にここはどこなのだろう。
夢…にしては行った記憶も見た記憶もない建物でどこにいるのか不安になる。いっそのこと、もっとアニメのように摩訶不思議な建物や生き物が出てくれれば、楽しめるのに。
その場に立ち止まっていても、何も起こらない。夢にしては穏やかすぎる夢。ならば少しくらい羽目を外してこの建物の中を探ってみても罰は当たらないだろう。幸い、眠る前の不調は感じられない。起きたらすぐにこの美しい異国風な建物の詳細をメモに書き起こして、自分の次の小説の題材にするのだ。
そうと決まれば、夢の時間は有限だ。早くこの建物の詳細を調べなければ。
外観はどちらかというと中国の歴史ドラマに出てくるような宮殿のようだが、誰かが居るように感じない静謐とした…例えるならば神社の中のような空気感を持つ建物だ。窓枠には美しく飾りが施されているが、ガラスは填まっていない。うーん、夢、にしてはやっぱり変な感じ。
しばらくあちこちを探っていると、ようやくナニカが居るような感覚を感じる。目線を上げた先には、回廊の先に立つ動物のようなナニカ。この不思議な空間に御誂え向きの逆光でシルエットしか見えないナニカというのは、夢の中にしても出来過ぎのような気がする。ナニカは馬のように見えるが、額から角、背中に羽が生えている。日本、いや地球上でも見たことがない動物。
その、ナニカは私が自分を見つけたことを確認するように頷くと、まるで此方に着いてくるように首をしゃくる。動物に自分が導かれるとはまるで神話の世界の中みたい!なんてワクワクしながらついていこうと一歩踏み出すと、不意に空気が変わったように感じた。
いや、感じただけではない。確実に世界が変わった。
目の前にはそびえ立つような大きな扉。それ以外にはあたりには何もない。先ほどまで探検していた建物も、遠くに見えた庭園も、雲一つなかった青空も、もっと言うなら先ほど見つけた動物らしきナニカも。ただただ白い空間と、目の前の扉。
きっとこの空間から出るには、この扉を開かなければいけない。
そんなことはわかっている。
でも、ここにきて急に怖くなる。さっきまで夢だと思っていたからこそ大胆に動けていたのだ。それなのにこの状況。小説で見たことがある。まるで異世界転生の狭間の世界のようじゃないか。
ならば私はあの体調不良で死んでしまったのか。
怖い…。
別の扉が出てきて、起きたら夢でした~ってならないのかなぁ。
ええぃ、このままこの白い空間に居てもどうにもならないのだから肚をくくって扉を開けよう。そう思った瞬間に音もたてずに目の前の扉が開いて…
って、あの扉は押さずとも開くのかよ!!
なんて思っている間に、人一人は簡単に通れるほどの幅まで扉が開いていた。まぶしい光があふれてきている事もない。
おそるおそる、扉を乗り越えると一面真っ白な空間である。歩くと上質な絨毯ってこれくらい沈むのかしらというふわふわした床だ、雲の中といってもいいのかもしれないし、アニメで見る異世界転生での転生の間の空間にも似ている。
「さっきの屋敷といい、この空間といい、夢の中にしてはちょっと豪華すぎない⁇」
感嘆でつい誰に聞かせるわけでもない言葉をつぶやく。
「貴女にとっては夢のほうがいいかもしれないけれど、ここは現実だよ、朝比奈紗良」
「そうよ、吾らはここで創造されたのだから勝手に夢の中にされたら困るわ、朝比奈紗良」
と、予想外に後方から声がかかる。
…え、数歩しか進んでいないのだから後ろにはまだ扉があって、人はいなかったはず。驚きのあまり、勢いよく振り向くと、そこには小学校低学年くらいの大きさの人形のように美しい少年と少女が立っていた。
「………」
お互い、まじまじと見つめ合ってしまう。少年少女の恰好は、学生時代に教科書で見たような昔の中国の衣装、確か漢服といった名前で呼ばれていたような服装に似ている。
少年のほうは青っぽい武官のような衣装で、豪華な剣を佩刀している。もう一方の少女は、赤のグラデーション衣装でひらひらとした装いで、手には小さく瀟洒な団扇を持っている。それにしても眺めていて飽きない美しさを持つ二人だ。少なくとも地球上には存在しない。美しい白銀の髪に日の光をはめ込んだような瞳の少年と、艶やかな牡丹のような赤い髪に柘榴石のような輝きを持つ瞳の少女。神様が具現化するとしたら、このような感じなのかもしれない。
「その通りだよ、ここは地球ではない星の天上界だよ、朝比奈紗良」
「吾らは、まだ出来たばかりのこの星をどのように導くかを託された、いわゆる神というものなの、朝比奈紗良」
…口に出していないのに、返答された。異世界転生のテンプレかよ!!やっぱり神様だったし、地球じゃない星ってどこなんだよ。それで、ついでになんでずっと私はフルネームで呼ばれているんだ。
「テンプレ?かどうかはわからないけれど、この空間ではまだまだ弱い力の僕らでも十全の力が引き出されるようになっているから、思考を読むことは難しいことじゃないんだ、朝比奈紗良」
「朝比奈紗良を朝比奈紗良と呼んでいるのは、貴女をこの場に固定して認識するために必要なことだったからよ、朝比奈紗良。準備は済んだわ、貴女はなんと呼ばれたい、朝比奈紗良?」
もはや自分の名前が体言止めのように使われ続けているが、止めてもらえるらしい。
「えっと、それなら紗良と…」
「わかった、紗良」
「今度からはそう呼びましょう、紗良」
いや、フルネームを止めてもらっても、結局体言止めのようになるんかい。
「わざとだよ。この星の種を作った一人と会えたのが思いのほか嬉しかったから揶揄ったんだ」
「ごめんなさいなの。無口無表情なのに、脳内ではすさまじい勢いで喋っているのを感じて、面白くなってしまったの。あと、美しいと言ってくれてうれしかったから、ついつい構ってほしくなってしまったのよ」
くすくすと笑みをこぼしながら、謝られる。全然悪いとは思っていないようだが、見目が小さく美しい子たちに言われてしまうと、可愛いから良いかな、と思ってしまう私はきっとちょろいのだろう。
それにしても
「星の種…?とはいったい何ですか」
おそらく、いや、絶対これを聞かない限り話が先に進まないのだろう。そう思いながら質問をすると、二人はにーっこりと笑う。
「とっても長い話になるけれど」
「この話が前提になったうえで、貴女に協力してもらわなければいけないから頑張って聞いてね」
…あ、これ逃げられないヤツ。
初投稿作品です。
なるべく早く続きを書きたいものですが、のんびり更新をお待ちください。
主人公の朝比奈紗良は28歳ですが、恋愛にオクテで、社会経験も浅い人物であるように書いていますので、とても世間からずれた発想やありえない夢見がちなことを言ったりするかもしれません。
2話では、そんな夢見がちな紗良が、さらに夢見がちな神様二人に挟まれて苦労するかも?しれないです。
豆腐メンタルですので、誤字脱字の報告は有り難いですが、文章がおかしいなどの意見はお控えください。