ローテーションと試合の行方
個人フットサルゲーム、赤チーム対青チームの試合は前半が終了しコートチェンジとなった。同時にキーパーも交代となる。
赤チームの超高校級プレイヤー牧野はローテーションで後半ゴールキーパーのポジションとなり、青チームのメンバーは安堵の表情を浮かべた。
赤チームでゴールキーパーをしていた中島さんはハーフタイムタイムに剛のもとにくると
「味方に鬼がいたよ、強すぎる」
と笑った。
同様に青チームのゴールキーパーも交代になった。長髪で茶髪、端正な顔立ちでいわゆるジャニーズ系の小柄の彼がフィールドに入った。身長は160センチ程だろうか。
「ピーーー」
中田さんの笛で後半がスタートする。
ジャニーズ顔の新顔は最終ラインにポジションを取り守備に徹している。
牧野がキーパーに移ったことで後半は得点の動かない拮抗した展開となった。
剛はジャニーズ顔の若い彼のプレーをしばらく見つめていた。
(あいつ・・・巧い・・・ディフェンスが本職じゃなさそうなのに・・・)
剛は自分よりも若いであろう彼の、その1つ1つのプレーに圧倒的な技術の高さを感じとっていた。
要所要所もきっちり抑えながらも、度々フリーの味方に決定的なパスを供給していく。
試合はそのまま時間が経過していったが、試合終了間近に赤チームがコーナーキックを獲得した。
そこで
剛は驚くべきプレーを目にすることになるのである。
コーナーキック、赤チームが早いボールをゴール中央に入れた。
赤チームの中島さんがシュートを放つも青チームの選手にあたってボールがこぼれる。
このこぼれたボールの先に丁度赤チームの選手がポジショニングしていた。
個人フットサルで剛もよく見かける、シュート力のある社会人だった。
このボールを大柄の彼はダイレクトで勢いよく蹴りこんだ。
低くて早いシュートが赤チームのゴールを捉える。
シュートコースが空いている状況みて剛がつぶやいた。
「これは入る・・・」
次の瞬間、ボールとゴールの軌道上にジャニーズ顔の彼が飛び込んでいく。
ジャンプした丁度膝元あたりにボールが飛んでくると、その僅か二メートルの距離で打たれたシュートを見事に腿でトラップをした。
「な・・・」
ボールの中心を腿の中心でしっかりと捉え、ボールが触れたと同時に僅かに腿を引くことで勢いを殺して完璧にボールをコントール下においた。
それを空中での不十分な体勢でシュートボールに対して行うことは生半可な技術ではない。
剛の目の前で見事なトラップを見せた彼は、
更に着地した瞬間にすぐ様ドリブルを開始、シュートした社会人を抜き去るとゴールへ突進する。
ゴールキーパーの牧野は脇腹に手をあてながらこのコーナーキックを見ていたが、ジャニーズ顔がカウンターを仕掛ける動きをみるとすぐさまゴールを飛び出していた。
相手とキーパーの間に味方ディフェンスはいないとはいえ、相手選手にボールを完全にコントロールされた状況での飛び出しは総じてリスクが高い。
間合いをとりながら前にでることはあるが、流石の牧野もキーパーは本業ではないのでこの判断は微妙なところではあった。
だが、中学時代らDFとして埼玉県で準優勝をした程の牧野は、その守備力も一級品であった。
帝王牧野、と呼ばれる所以である。その全てのプレーにおいて牧野は卓越した能力を有しているのだ。
(取る!!)
牧野はドリブルでつっこんでる彼を止めに入った。
抜かれるとは微塵も思っていなかった。
牧野の実力と見た目からの明らかな年齢差からすれば、ボールを奪えて当然という思いもあったであろう。
その牧野に対して距離を詰まった瞬間、若い彼が仕掛ける。
右足のインからアウトと素早くボールを動かし、小刻みにボールをタッチしながらタイミングを図る。
牧野も迂闊には飛び込まず、ボールをみながら仕掛けどころを探った。
直後、牧野の前で相手の左足が右前のボールの上をまたぐような動きがはいる。
(これはフェイントで・・・左足アウトで俺の右サイド抜きが本命。仮に仕掛けてこなければ後ろの味方と挟み込んで取れる)
左足がボールをまたいだ瞬間、牧野が右足で鋭いタックルに入った。
しかし
ボールは牧野の股を抜けている。
(!!!)
牧野は一体何が起こったのか理解できなかったが振り返った視線の先にゴールへ向かう背中を見つめて抜かれた事実だけを認識する。
(どうして抜かれた・・・)
そしてそれは外でこのプレーを見ていた剛も同様だった。
「どうやったんだ・・・」
牧野を抜き、無人のゴールにシュートが決まったところで試合終了を告げる笛が鳴った。
赤チーム 3ー 1 青チームで第一試合終了。