正体その壱
総勢十五名が赤、青、緑のビブスチームに分かれると、いよいよ試合が開始される。
第一試合は赤チーム対青チームに決まった。
剛は緑チームだった為にコートの外に移動する。
知り合いの中島さんは赤チームで、ビブスの匂いをクンクン嗅ぎながら「お、今日は臭くないぞ、当たりだ」と独り言を発して剛を笑わせた。
そして剛が気になった同世代の二人、剛と同じ位の年齢の新顔は赤ビブスチーム、もう一人は青ビブスチームに振り分けされている。
(赤チームのあいつ・・・どこかで見たことがあるな・・・)
身長は180センチ程、短髪に前髪をあげており全身ガッチリとしているが、照明せいもあり顔がはっきりとわからない。
少しするとスタッフの中田さんが笛を持ちながら声を上げた。
「キーパーは前後半で交代してください!ビブスの番号が若い方からお願いします!」
赤チームは中島さん、青チームは先ほどの若い彼がキーパーのポジションについた。
「ピーーー!!」
中田さんの笛が鳴り、青チームのキックオフで試合が始まった。
青チームがゆっくりとボールを回しながら赤チームのゴール前に迫っていく。
そしてトップの位置でボールを受けた1人がシュートを打つが赤チームの選手にあたると、新顔にボールがこぼれる。
彼はそのままドリブルを開始した。
(上手い・・・)
剛は一瞬で短髪の実力を感じとった。
ドリブルでハーフラインを超えると、短髪は躊躇なくシュートをはなった。
そのシュートは、剛がこのフットサル場で見たことのない程の鋭さでゴールへ向かった。
バチン!!!
バーに直撃したボールはゴール裏のネットに弾かれる。
その時、剛は短髪が誰であるかようやく思い出した。
(あいつは・・・浦和大和の牧野・・・)
牧野 昌博ーー
私立浦和大和高等学校サッカー部主将。
国体選抜に一年から選出されすでにプロでも注目を浴びている、埼玉県では知らない者はいない程の超実力者である。
その牧野を中心に浦和大和高校は昨年埼玉代表として冬の選手権大会に出場し、ベスト4の結果を納めていた。
その後も牧野の独壇場が続き、力強いドリブルと正確なパス、強烈なシュートで三点を追加して前半が終了したのだった。