わかりやすい人
新入生の部活動見学期間も一週間が過ぎようとしていた。
初日から二名、入部希望者と見学者がきたので剛はこれなら案外簡単に目標の達成ができるかと思ってしまったところもあったが、現実は甘くなかった。
翌日もその翌日もサッカー部にくる新入生はいなかった。
学校のスケジュールでは二週間の見学期間で入部可否を判断のすることになっているのだが、最初の一週間でほとんどの新入生が入部先を決めるのが実情だ。
「剛、なかなか一年生来ないねぇ」
富野 洋平、通称トミーが部活の帰り道で剛に話しかけた。
富野はくせ毛でひょろっとした体格、目が小さく優しい顔をしている。以前はとみ、と呼ばれていたが、ある日佐渡谷がトミー!と叫んでからいつのまにかトミーが定着してしまったのだった。
「バスケ部には四十人も仮入部者きていてボールが足りないらしいよ」
のんびりとした口調の富野に剛が早口で返す。
「大丈夫だって、最低あと三人だし明日はきっと・・・」
そう言って剛は無理に笑った。
しかし、翌日も誰もこないまま夕方になった。
練習が終わり、剛、佐渡谷、伊知郎、富野と一年生二人で部室に戻ると、部室の向かいの体育館から人がぞろぞろと出てきたところだった。
バスケ部の新入生である。
佐渡谷がその様子を恨めしそうに見ながら声を出す。
「一人くらいサッカー部に移籍しろってんだよなぁ」
同じ1年生の貞森と初野もバスケ部の新入生を眺めていると、最後にでてきた一人が初野の顔を見るなり駆け寄ってきた。
「はつ?はつだよね?」
初野はその顔をみて、あぁ、という表情になった。
「えーじ、同じ学校だったのか」
「同中か?」と佐渡谷。
「いえ、同じ小学校だったんですけど中学は別々で」
初野が佐渡谷に説明する。
「はつこそなんでこの学校なの?つーか何でサッカー部?あれ、中学でバスケやってなかったっけ?」
サッカーユニフォーム姿の初野にえーじは驚いた顔をしたが、後ろの佐渡谷の姿を見て肩をすくませた。
「バスケは中学で卒業した。で、どうなのバスケ部は?えーじこそ陸上部じゃなかった?」
「つーか俺も陸上部は中学で卒業した」
「真似すんな」
えーじが笑う。
「スラムダンクみてバスケいーなーと思ったんだけどさ、人数多すぎ、つーか初心者いなすぎ!」
つーか、つーかを連呼するえーじは人懐っこい笑顔で初野に質問する。
「サッカー部楽しい?オリエンテーション聞いてたけど人数足りてないんでしょ?」
「楽しいよ、サッカー。まぁまだ全然わかんないけど、先輩色々と教えてくれるし」
「そして上手いし優しいし、挙げ句の果てにカッコいい」
佐渡谷が勝手に初野の言葉に付け加える。
プッとえーじは吹き出すと、急に真面目な顔になってブツブツ呟いた。
「待てよ、人数足りないならすぐレギュラーってことか・・・そしたら女の子に・・・もしくはマネージャーって可能性も・・・うんうん・・・よし決めた!!」
全員に筒抜けの独り言を発したえーじは、今度は初野ではなく、佐渡谷の前に駆け寄った。
そして
「先輩、今日からサッカー部に入ります!!西 栄治っていいます!よろしくおなしゃっす!」
こうして三人目の新入生が入部した。
佐渡谷が笑顔でえーじの頭を触りながら頷く。
「移籍第一号だ、えーじ君!君はとてもわかりやすい!」
えへへ、とえーじも笑う。
だが、十一人にはまだ足りない。仮入部期間はあと残り五日を残すのみであった。