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この日がくる
剛と伊知郎が部室に着くと、佐渡谷が部室の前でスパイクを履こうとしているところだった。
「早くやろうぜ」
佐渡谷が視線を上げずに声をかける。
「トミーとガッキーは?」
剛の問いに
「トミーは部室、ガッキーはきてねーよ」
スパイクの紐を絞めながら佐渡谷。
剛は頷くと部室のドアノブを開けようとする。
その時
伊知郎が剛の肩を触った。
剛が振り返ると、伊知郎の背中越しに見慣れない緊張した面持ちの二人が目に入った。
「新入生の貞森 敦です、サッカー部入部希望です!」
元気な、そして緊張した声で日焼けとは思えない黒い肌の貞森が御辞儀をしながら叫んだ。
「1年の初野です。素人です。見学希望します」
声も背も小さいが、体型はガッチリとしている初野が頷きなが挨拶をする。
夢にまでみた光景のせいなのか、剛はしばし呆然としていたが、佐渡谷の「キャプテン何かいったら?」という声に我にかえった。
佐渡谷がニヤリと笑い、伊知郎は静かに頷いている。
新入生の不思議そうな表情をみて剛は慌てて空を見上げた。
(ついに…この日がきた…)
11人まで、あと、3人。