桜の花びらを見て思う
部活動紹介オリエンテーションはバスケットボール部の紹介が最後だった。
壇上ではバスケ部の主将がこれまでの実績をPRしながら熱心に新入生を勧誘していた。
剛とバスケ部の主将は一年の頃からのクラスメートで仲も良く、主将が最後に「別にバスケット部じゃなくても何か部活には入ってください!そして一生付き合える仲間を作ってください!!」と言うのを聞いて、三年生の剛でさえぐっとくるものがあった。
こうしてオリエンテーションは最後大いに盛り上がって終了したのである。
オリエンテーションは五・六限目だったので今日の授業はこれで終わりだった。
剛が教室に戻ると、佐渡谷は先に部室に向かったのか教室にはいなかったが、クラスでもう一人のサッカー部である秋元 伊知郎はいつもの様に席に座りながら携帯で音楽を聴いているが見える。
剛は荷物を持って伊知郎の席に近づくと声をかけた。
「伊知郎、いよいよ今日からだぞ、やるぞ!」
その言葉に伊知郎は特に表情を変えることはなかったが、剛の顔を見るとゆっくりとイヤホンを外した。
黒い縁のメガネに色白の肌、身長は175センチ、いわゆる秀才という言葉がぴったりの伊知郎は、剛と1年の頃からのクラスメートだ。
「今日は何かするの?」
伊知郎は特に興味も無さそうにボソッと呟いた。
伊知郎は授業でも普段でもボソボソ話し、これまで剛も伊知郎が長く話すのを聞いたことがない。
「練習と勧誘だろ、一年生が今日から来るかも知れないから早くいこうぜ」
「こないかもしれないよ」
伊知郎がまた呟く。
(伊知郎にとったら新入生は入っても入らなくても良いのかもしれないなぁ)
剛は苦笑する。
伊知郎の性格は良く知っているので、決してその発言に嫌味がないことは剛にはわかっていた。
部室に向かって歩きながら剛が伊知郎の肩を叩いた。
「とにかくもう少し付き合ってくれよ」
剛の言葉に伊知郎は窓の外に視線を向けた。
桜は先週の雨で大方散ってしまっていたが、まだ僅かに花びらも残っている。
そしてその桜の時期を剛がどれだけ待ち望んでいたか伊知郎にもわかっていた。
剛が伊知郎の顔を見ると、伊知郎はふぅと息を吐いて呟いた。
「約束だし、できるところまではやるから安心して」
そんな伊知郎の言葉が、剛にはとても嬉しかった。