失笑と本気の一言
さいたま市立さいたま北高等学校はその名の通り埼玉県にあり、つい三年前までは女子校であった。
しかし二年前に男女共学として新たなスタートを切った。
市立高校の為市内生が多く自由な校風が特徴であったが、男子共学となってから二年、まだまだ男子生徒の人数は少なく三年生は50人、二年生も60人程しかおらず女子生徒が大半を占めていた。
しかし共学となって三年目になり、今年の新入生は男子も110人を数えた為、どの運動部も新入生の獲得に躍起になっていたのである。
中村剛はサッカー部であった。
しかし部員数は二年生含めてもわずかに六人、部活としては当然認められておらず名ばかりのサッカー部といってよかった。
サッカー部として公式戦に出場し勝つ為には、五人以上の新入生入部が必須であることは言うまでもなく、剛はこの二週間にかけていたのである。
入学式の翌日、各部活によるオリエンテーションが体育館で行われた。
勿論サッカー部も新入生全員の前で勧誘を行うのだが剛はその場に過度な期待はしていなかった。
そもそも学校案内にもサッカー部の名前はなく、逆に男子バスケットボール部は創部から二年で県内ベスト8進出の快挙を成し遂げたこともあり、バスケットボール部目当ての新入生が多いのである。
そのため剛は地道な勧誘活動に標準を絞っていたのだが、サッカー部紹介の場で彼は一言、新入生に宣言をしたのだった。
「今年は冬の選手権に出場し、優勝することがサッカー部の目標です」
まだ六人しかいないチームにもなっていないサッカー部の全国制覇発言、体育館には失笑とも取れる声で騒ついたのだが、剛は心底真剣だったのである。