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売れないラノベ作家が作品に入って無双する  作者: 急性アルコール中毒
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EP1『白ノ世界』

私は絶対にブクマ37以上とってやる

 ここは“白ノ世界”。ケイキサキという神が創りし世界である。

 ケイキサキを漢字に表すと“慧妃”、ケイが小説を書く時に使ってたペンネームである。

 そして“白ノ世界”とはケイの小説の中に登場する世界の名前のことである。

 つまりは自分の書いた小説の世界へケイは異世界召喚された…というのがケイの推測で、それはほぼ間違いないと感じていた。


 現に足元に生えている草花は作中で登場したもののイメージそのまま、周りの景色から考えても心当たりがあるものが多いのだ。

 つまりケイはこの世界の創造主。

 この世界の真理、原則、背景、裏技を全て把握した所謂チートプレイヤーと化すことが出来る筈なのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 そんな世界の創造主は自身が創造(想像)したモンスターである雲喰蟲(スカイモス)の幼虫に追われていた。


 雲喰蟲(スカイモス)は幼虫の頃に空に糸を伸ばし雲を捕食する虫である。

 蜘蛛が虫を捕食するのが一般的であるのを虫が雲を捕食するという意表をついた我ながら面白い発想だと思っていたのだが特に作品の評価は上がらなかったらしい。

 幼虫は雲を主食として食べるがおやつ代わりに縄張りに入ってきた動物などを喰らう。

 ついでに成虫になると虹色の羽を持ち飛翔した軌跡に虹をかけるのだ。

 ということを今思い出した。

 なんせこのモンスターが登場したのは2年以上前のことであるからだ。

 自分が考えたとは言え長い月日も経てば忘れることもあるだろう。


「弱点が分かってもそれを攻撃する武器がないっつうの」


 硬い外骨格に囲まれた芋虫状をした巨体が突進してくる。

 大きさは大型トラック程であるが速度はあまりない。

 このようなタイプのモンスターは外側が丈夫であるため防御力が弱い腹側を攻撃するべきなのである。

 しかし腹側を見せつけながら突進してくるわけでないので爆発系トラップで撃退したいのだがそんなものは今はない。

 逃げるのは容易であるが逃げ切るのには難があった。


 ここの草原は雲喰蟲(スカイモス)が獲物を捕まえやすくするために森林に空けられた空間(ギャップ)である。

 障害物がなく見晴らしが良いために視界から逃れられないのだ。

 しかも雲を糸で捕獲するという常軌を逸したモンスター、糸の扱いはとても長けている。

 下手な策はやめておいた方がいいというのがケイの判断だった。


 策がないことが問題なのだが。


「はぁ……はぁ……」


 久しぶりの運動であるため息が切れる。

 突進してくる巨体を躱しながら森の入口へとやってきた。

 森のような視界の悪い場所なら木々を利用して逃げ切ることが出来るだろう。


 森へ差し掛かると同時に木の陰に隠れながら雲喰蟲(スカイモス)との距離を取り始める。

 焦ってはいけない。ケイは我慢ができる男だ。この3年間が実証してる。


 きたっ!!


 雲喰蟲(スカイモス)の突進の隙、ブレーキと方向転換のロスタイムで森の中へと駆け出した。


 いくら糸を巧みに扱うとしても森の中では制御は難しい。

 5分程駆けた場所でケイは足を止めた。


 目の前には森林の中で一際大きな樹が林冠を突き抜けてそびえ立っている。

 俯瞰すれば少々目立つ場所であるが雲喰蟲(スカイモス)の幼虫は空を飛ぶことはない為問題は無いだろう。

 もし飛べたとしても葉に隠れて見えない筈だ。

 縄張りからもだいぶ離れたためケイは大樹の根元に近づき腰をかけた。


「さて……どうするか」


 残念ながらケイには異世界召喚による異能力の獲得などは無かったようだ。

 身体能力の上昇なども逃げている時に感じられなかった。

 当たり前のことであるがこの世界にはモンスターが蔓延っているため、留まっているのはかなり危険である。

 しかし、この世界のことを知っていても武器もなければ力もない。

 具体的な解決策をかんがえなければならなかった。


「あ、そう言えばステータス」


 この世界はゲームの中ではなく異世界という設定であるが自身のレベルなどを把握するツールが市販されている。

 いわゆるステータスを見ることが出来るのだ。

 普通なら購入しないと表示などされないのだが今は藁をも掴む状況なのである。

 ダメ元でも試してみる価値はあるだろう。


 自分が作中で設定した通りに手を下から上へスライドさせるように動かす。


「うわ、でた。……けどこれはステータスとは少し違うな。しかも、なんだこれ」


 意に反してスライドさせたことでヴォンという効果音が似合いそうな具合で近未来的な宙を浮くキーボードとモニターが表示、またそれと同時に1冊の本が地面に落ちた。

 本の題名には『誰でも出来るプログラミング入門』と書かれている。


 入門書の方はともかくキーボードとモニターの方は凄そうだ。

 電源などは入れる必要がなく既に画面は表示されている。

 マウスはついていないがスクリーンがタッチパネルになっているようだ。

 画面を見ると『実行中』と書かれたフォルダがあった。

 タップして中身を表示すると『白ノ世界』と書かれたフォルダが現れた。

 思わず中身を表示する。

 ファイルの中には『1話』『2話』とそれに対応するサブタイトルが入ったテキストファイル。適当にフォルダを1つ開く。

 表示されていたのはケイが書いてた小説の全文であった。


「うぉぉぉ、え……無事だったのか!!」


 消えてたと思ってた自分の作品が目の前に現れたのだ。

 感動が抑えられず、ケイは涙目になっていた。


 小説の表示のされ方は見慣れたレイアウトだった。

 しかし少し細かい所が増設されてたり、知らない項目が追加されていたりしていた。今は関係ないことだ。

 キーボードを弄ってみると文章が打ち込めることから現在も編集が可能なようである。

 試しに表示した『2話』の最後の文に“あ”と打ち込んで保存してみようとした。

 しかし、忠告音が鳴り響き文字が表示される。


「『世界の秩序の瓦解が可能性が懸念されますが、実行しますか?』か……なるほど」


 プログラミングの入門書、自分の作品、世界、秩序、どうやらケイはこの世界を自由に編集できるようになったらしい。

 プログラミング入門書はきっと編集という行為がプログラミングに類似する点があるからだろう。

 仮に編集してエラーだらけにしたら世界が崩壊したりするのだろうか?

 まぁ、時間が無い現段階では考えるだけ無駄であろう。

 とりあえず慣れるまでは好き勝手編集するのはやめておくことにする。

 ケイは画面をスクロールをしてなにか役にたちそうな物を探した。

 下までいくと『プロフィール』と書かれたフォルダがあった。

 タップして表示する。


 中にあったのは小説投稿サイトでのケイの情報であった。

 小説投稿サイトよりも項目は増えており空白部分が目立つが重複している分はそのまま引き継いだようだ。


「職業、ランク、称号……これはステータスと同じだな。あとは……」


 流し見をしていく中で気になったのはビジュアルと書かれた一際大きな項目だ。

 ほかの項目が1本のバーのような欄になっているのにこれだけは縦横比5対1のような形である。

 試しにタップしてみるとスクリーンの横にペンタブレットが出現した。


「察するに好きに姿まで変えることが出来るんだな。まじで神みたいじゃないか」


 しかし、描けと言われてもケイは絵はそれほど上手くない。

 自分の姿をモデルするほどの能力は持ち合わせてないのだ。

 ただ、それは今までのケイだ。

 今は何でも実現してくれる(はずな)モニターとキーボードがある。

 備考と書かれた項目の中に“神絵師並みの画力”と記入し保存する。

 こっちも忠告音がなり文字が表示されたが、『世界の秩序』のような大袈裟なものではなく、『能力が大きく変更されます。よろしいですか?』だった。

 もちろん『はい』の方をタップする。


 身体が少し光ったかと思うと直ぐに収まった。

 新しい能力が付与されたのだろう。

 さぁ、お待ちかねビジュアルのデザイン。

 ペンを持って自分の理想な姿をスクリーンへと反映させていく。


「おぉ…描ける。描けるぞぉ」


 某セリフを真似したかのような率直な感想が口に出た。

自分のイメージ通りにペンが進む。楽しい。



 5分もしないうちに下描きが終わり、15分経つ頃には大まかな部分が完成していた。

 画力が神絵師並になったと言っても絵についての知識は素人なので線画に色を付けて陰をつけて出来上がりという具合だ。

 よく見ると声とかの細かい設定も出来るらしいが『おまかせ』にチェックが入っていたため自動でやってくれるみたいだ。


「よし」


 一旦完成したデザインを眺め問題ないことを確認する。

 『完成』と保存と書かれたボタンをタップして反映させようとした。

 同じく『外見が大きく変更されます。実行しますか?』とでる。躊躇いもなく『はい』と選択する。


「うぉぉぉ……」


 『はい』を選択した瞬間にさっきよりも強い光にケイは包まれる。

 その強い光は直射するのが難しい程で目が開けられなくなった。

 そして……


「ぃた……いだだだだだ……」


 突然全身に激痛が走った。

 実はケイは軽い気持ちで外見を変更したのだが、外見の変更というのは体つきを大きく改造するということなのだ。

 身長を小さくしたなら骨を削るような、肉付きを変えたなら細胞の破壊と再生が繰り返される苦痛が生じる。

 魔法のように一瞬で変化すればいいが現実はそうはいかないことが多い。

 全身を突き刺し焼かれるような痛みに耐えているケイにそのようなことを考える余裕などなかった。

 痛みは徐々に増していき、最後には果てる。


「あ゛……かッ……」


 光が収まるとケイはその場で倒れた。

 さっきまでの痛みはひくことなく余韻が残っていて立ち上がることは出来ない。

 辛うじて視線を動かして今の状況を確認するくらいだ。


「あ……は…………ぁはぁはぁは」


 自分の身体をみて、力ない声で笑う。

 さっきまでのケイの男の声なら今の笑い声は気持ち悪かっただろう、だが今は違った。


「やった……上手くいった……はぁはぁ」


 そう倒れている少女、ケイは呟いた。

 眼は赤く、白を基調としたワンピース、黒いリボンで銀色に輝く長い髪にはピンク色にメッシュが入っている。

 ケイが行ったビジュアルの変更とは自身の少女化である。

 少女に生まれ変わるというのは、もしも自分が異世界転生などを果たしたら起こって欲しいイベントの上位間違いなしの事案だ。

 その夢に囚われた愚かなオタクがそこにいた。

 別にケイは中二病とかではないのだが同じ願望を持っている同士が多いとは思っている。


「予想外だったのはさっきの激痛だったが、まぁ何とかなりそうだな」


 夢のためならどんな苦痛も厭わない。

 それどころか早速自身の神の能力の万能性は示されたようなのだ。

 感覚的にこの痛みは物理的なダメージによるものなので策を巡らせば最小限の被害に抑えられるだろう。

 悲鳴をあげる右手を動かしてスクリーンを画面を切り替える。

 予想通りにステータス画面が存在したためそれを表示し確認をする。

 体力は5%程まで減少していた。


「巨人族とかにビジュアルを変更したらショック死しそうだな」


 少年(?)から少女へ変更するだけで体力がギリギリなのだ、妖精になりたいみたいな更に思い切ったことをしなくて良かったと思う。


「しかし、このまま動けないのは危険だな…出来るだけ物陰に……痛っ」


 身体を這わせることも出来ないほどの苦痛。

 せめて先にステータスを弄っておくべきであったと後悔する。

 このままでは何も抵抗が出来ないままモンスターの餌食だ。

 ケイは慎重な性格であるため、このような事態は大誤算である。

 嫌な予感がした。心做しか遠くの方から木がなぎ倒されるような音が……


「いや、気のせいじゃない。こっちに近づいてくる」


 視覚では確認できないが確実に音の主は近づいてくる。

 痛みを堪えながら木陰に向かおうとするがほとんど移動出来ていない。

 速まる鼓動が痛みと焦りを掻き立てる。


 十分な移動も叶わず音の主は姿を現した。


「お前は……」


 木々をなぎ倒して現れたのはさっきまいたはずの雲喰蟲(スカイモス)だった。

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