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【Dark Order】 - 断罪のレストラン-  作者: のりしお
やたらと問題の多いレストラン 編
6/6

第5話 仲間は互いの利害を探り合う


 ポツリポツリと街明かりが消えていき静まり返りつつある2番街。満月が大きく照らし出すその街並みには神々しささえ感じられる。


 そんな中、レストラン『ベール』の屋根の上で王都を見渡し静かに佇む人影。


「…………。」


 クロノは光をいつしか失ったその黒い瞳に、遥か先にある王宮を映し煙草を吹かす。


「まったく。ワシの寿命も縮まるとこじゃったわい」


 屋根裏部屋の小窓からワインボトルを傾けるシャドは『うまいなコレ』と言いながら屋根上にいるクロノにそう声を掛けた。


 ティアは1時間ほど前にレウスとユーインによって救出され、2階にある彼女の部屋でぐっすりと眠っている。


「まだ起きてたのかシャド爺。老体に障るんだから早く寝たらどうだ」


 クロノはそういって煙草の灰を屋根に落とし軽口を叩いた。するとシャドはワインボトルをまた一口飲み『ふうー』とお気楽な吐息を夜の風に乗せる。


「生きる時間がもったいないからこうして夜を更かしとるんじゃよ。しかしまあ……なんの因果かのぉ。お前さんを裏のゴミ捨て場で拾ってから三年。もうあの子に本当の事を話したらどうじゃ?」


 そんなシャド爺の言葉にクロノは充血した目を動かさずにそのままに答えた。


「俺もアンタも()()()()()だろ。余計な世話をやくんじゃねーよ」


「お前は過去に囚われすぎじゃ。もうええじゃろ、そろそろ自分の生き方を……」


「いいんだよこれで。ほっとけ」


 最初から何かを諦めているかのように突っぱねるクロノ。


「お前さんというヤツは。年寄りの忠告は聞くもんじゃ。時代が違ってよかったの。現役のワシならお前さんなんて一捻りじゃというのにッ」


 屋根裏の小窓から乗り出してボトルを突きあげるホロ酔い気味のシャド。クロノは『わかったわかった』と諭しながらもシャドの真意はそこにないと悟った。


「暇なんだろ?話し相手くらいにはなってやるよ」


「喰えないやつじゃの……まあよい。終戦して5年、王国は平和への一途を着実に辿っているようにみえるが、時代は悪い方に大きく動いておる、とワシは思うんじゃ」


「時代が動く?おいおい――――」


 『政治家気取り』『未来の見える長老的な立ち位置』はやめろと言わんばかりのクロノの表情にシャドは間髪入れずに続ける。


「まあ聞け。神蝕と言ったか。あんな事はワシが現役の頃なんて見た事も聞いた事もなかった。帝国を傘下にいれたレグリティア……何か邪悪なものまで抱え込んだような、ワシは不吉な予感しかしないのじゃ」


 シャド爺の時折見せる真面目な声色に少しばかり真剣に耳を傾けるクロノ。彼にも思うところがあるのか小さく頷く。


「邪悪を内包していた帝国か……元帝国兵のくせによく言うな。帝国全盛期の()()()()()ともあろうお方が」


「ふん、今はレグリティアの民、ベールの凄腕料理長じゃ!自由の国、レグリティアに乾杯ッ!」


「そりゃ幸せなこった」


 クロノが『まったくこのジジイは』と溜め息混じりに笑いを漏らすと同時にシャド爺がクロノに向かい手の平を出す。


「……ん。」


 それに対しクロノは差し出された手の平を何の躊躇いもなく掴むとシャド爺は色めきだった声を発した。


「あ……違うわいっ!気色悪いのぉ!ワシにそんな趣味はない!アレじゃよアレ!」


「なんだよアレって」 


「返せ!お前が持っとると何かと都合が悪いじゃろ」


 その言葉に何か思うところがあったのか、クロノはバツが悪そうな表情で頭を掻きむしる。


「無くした」


「は?」


 ポカンと口を開いたまま体を乗り出しクロノを見つめるシャド爺は再び『すまん無くした』という言葉を聞いた瞬間、その表情はみるみる怒りに満ち溢れた。


「無くしたって……アレは2万7千バリスもしたんじゃぞ!?婆さま達とのホームパーチ―を2回も欠席してまで――――!!」


 シャド爺がそこまで言い掛けた時、外のハシゴから誰かが上がってくる音が響く。それに対し何かを悟ったのか、


「お前のそういう所が面倒な事を引き起こすからのぉ!」


 そう言って親指で自分の喉元を横に引き『報いあれ!』と言わんばかりの表情で窓を閉めた。


「ファンキーなジジイだな……ったく」


 多少の反省はあったのか申し訳なさそうな表情をほんの数ミリ単位で見せたクロノは背後から現れる人影に横目で反応する。


「面倒ねぇ……」


 そんな戯言を呟いたクロノの脳裏には『ほれ見た事か!』とシャド爺。


「ここに居たんですね。クロノさん」


 そこには屋根上に上がってきたユーイン、そしてレウスの姿があった。だがその表情はどこか真剣な表情にも見て取れる。


「ここだったら煙草吸っても誰かさんにとやかく言われないからな」


 顔を少しだけ向けるクロノはポケットから二人に勧めるように煙草のケースを差し出した。だがユーインとレウスは間合いを取ったまま距離を縮めてこない。


「いや遠慮しとくよ。クロノ、君に聞きたいことがある」


「なんだ、またティアの……「答えてくれ」


 クロノの言葉を遮るようにレウス。その様子にクロノは目を面倒臭そうに閉じた。


「クロノ、友人として聞くよ。君は僕とユーインがティアちゃんを探している間、どこにいたんだ」


 ユーインとレウスがティアを抱えベールに戻ってきた時、クロノはすでにベールにいたのだ。


「お前には関係ないだろ。友達でもない」


「答える気はない、か。じゃあ質問の仕方を変えよう。内部密偵局として問う―――――」


 レウスは大きな溜息を吐き出すと、


「ここで何をしている、断罪者、赤山羊」


「…………。」


 その言葉に屋根上の空気は時が止まったかのように静寂に包まれ、変わらずに黙り込むクロノ。


「これ……」


 そしてユーインは懐から『銀の筒』を取り出した。


「これ……クロノさんのですよね。クロノさんがこれをシャド爺に渡されてるの見てたからわかります。そしてこれが現場にあったんです」


 クロノがそれを横目で確認するとユーインは震えながら銀の筒の側部にあるスイッチを押し、鉄の擦れる音と同時にスピアへと瞬時に変形させる。


そしてレウスはユーインの手から槍を取り上げるとそれを筒状に戻してクロノに投げ渡した。


「君ので間違いないだろう。驚いたよ。遠距離からの投擲で戦神を消滅させるなんて所業……それがたとえどんな有能な巫女でもできない。ある断罪者を除いてね。そう――――」


 帝国の敗戦時、王国は審判機関の解体の際、断罪者と呼ばれる隠密集団の処刑も行った。だが、十四名いた断罪者のうちその場から数名が逃亡。王国の処刑人達も殺害された。そのうちの『赤山羊』は一二名の処刑人達を惨殺し逃走したのだとか。


 だが王国はその事件を公表しなかった。何故ならば帝国民達が『王国』の断罪を願って希望を抱く事を何よりも恐れたのだ。そうして断罪者は時代の闇に葬られた。


「僕も聞いた事があります。でも噂程度だったんです。断罪者という組織自体……」


「その断罪者の中でも異質と呼ばれていたのが赤山羊だ。戦神喰らいと呼ばれ、その名の通り戦神に直接干渉できる能力を持っているとされていた。だがまるで信憑性の無い情報だったんだ……今日まではね。()()()()()甲斐があったよ」


 その言葉にクロノは銀の筒を握ったままレウスの方に目をやる。


「なるほど。だから内部密偵局のバカはわざわざ神蝕事件の話……機密情報を俺に教えたってわけか。泳がせる為に」


「断罪者が王国への復讐を望むのであれば王都の民に紛れ込んでくるはず。そこで三年前、運良くいつも行っているベールで君に出会えた訳さ」


 当時、ユーインと同じようにベールで働き始める事になった新人のクロノ。


 ボサボサの髪、抜けきらない血の香り。発見時の状況。何よりも光を失った黒い瞳は幾人もの死線を抜けてきた者の眼。レウスはすぐに『この男には何かある』とこの三年間、アーガイル同様マークしてきた人物のひとりだった。


「当たりを引くのが僕の得意分野だからね。さて、話を戻す。ここで何をしているんだい、赤山羊さん」


「お前には関係ないと言っただろう」


「関係なくないさ、王都の平和を乱す者に鉄槌を下すのが僕の仕事だからね。復讐?それともこのベールを選んだ理由……()()()()()()に何か関係が?」


 何か答えを知っているのか、どこか余裕の笑みで対峙するレウスにクロノは満月を背に新しい煙草に火をつけ振り返ると、その眼からは隠しきれない殺意が湧き出ているのが見て取れる。


「ティアに何かしようってんならテメェが十六戦神だろうが容赦はしない」


 彼女の名前を出された途端に銀の槍を変形させ、何の躊躇いもなくその矛先をレウスに向けるクロノ。


「僕の正体を知っていて尚、君はあの店にい続けた。やっぱりこの店に固執する理由があるってことだね……何故だい?」


 レウスは腰の双剣を抜きクロノと対峙する。もはやそこはさっきまでの穏やかな屋根の上ではない。


「ティアの身の安全を守る事、それが俺に与えられた最期の注文(ラストオーダー)だからだ」


「へえ。身の安全……ね。それが誰の依頼かは知らないけど。じゃあもし仮に僕がティアちゃんを殺すことが目的だと言ったら?」


「ここでお前を断罪する」


「良い答えだ」


 そして二人が同時に白い霧に包まれる。レウスの戦神である隼が翼を広げると同時にたまらずユーインは止めに入る。


「ふ、ふたりともやめてくださいよッ!ここで争っては!……クロノさんも……えっ……―――――!?」


だが、クロノの背後に模られた戦神は異形のものだった。


 山羊の戦神なのは間違いない。しかしその山羊は肉や毛を模る事はなく頭骨のみ。その奥に小さく、そして怪しく光る赤い眼。まるで悪魔を思わせる形を成す。


「山羊の頭骨……ますます興味深いね」


 そう言って対峙する二人にユーインは驚いていた。レウスは良いとしてもクロノは十六戦神相手と分かっていて刃を向けている事に。その物怖じしない態度に。むしろ彼に対する上からの殺意にさえ感じていた。だが、


「レウス、テメェも気に喰わねぇが……」


 そういってクロノはあろう事かユーインにその矛先を向けたのだ。そして同時にレウスも、


「同感だね」


 そういって双剣のもう片方をユーインへ向けた。


 まるで三つ巴のように対峙する三人。ユーインは両手を上げ驚きを隠せない。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……!!僕は……」


 慌てふためくユーインにクロノはギロリと睨みを利かせる。


「テメェは最初から臭うんだよ。洗っても取れねぇ血の匂いがな」


 そう、クロノはユーインに何処か違和感を覚えていた。最初にトイレですれ違った際に感じた血の匂い。そこでティアがベールでの揉め事に巻き込まれた際、クロノは試した。モップの柄を渡して彼がどんな動きをするのか。


「ティアに危害を加える気があったんならあんな風に守りはしねぇだろう。だがあの動きは咄嗟にできるようなもんじゃねぇ」


 そんなクロノの言葉を聞いたレウスもユーインに横目を向ける。


「ユーイン、君が使った戦神の個体化……あれは訓練さえすればできると言ったね。でも相当な苦行を積まなければあんな事はできない」


 ユーインはあの時、レウスを一般兵だと思い苦し紛れにそう説明した。だがレウスは十六戦神として様々な戦神使いの情報に精通する人物。個体化がどれほど難しいものか理解していたのだ。そしてレウスは更に続ける。


「だが僕の前で個体化を使えば正体がバレる可能性もあった。そんなリスクを冒してまで個体化使ったのはティアちゃんを助ける為以外にない。つまり君も彼女に死なれては困る……そうだろう?君は何者だ?」


 そんなレウスの推理に対し、ユーインは思い口を開いた。


「ええ。レウスさんの言う通り、身分を隠していました……僕は元帝国の傭兵です」


「所属は。ティアに近づいたテメェの目的はなんだ」


 クロノの質問にユーインは小さく首を振る。


「すみません、今は言えません。ただ、僕はこの王都で()()()()を探しているだけです。その為にここで生活していかなきゃいけない」


「テメェそんな理由で――――」


クロノが声を荒げようとした時、ユーインはクロノに向かい真っ直ぐな眼差しを向けた。


「目的も言えず自分勝手なのも分かってます。ティアさんがどんな境遇に立たされているかは知りません。でも僕はティアさんに危害を加えるような事は絶対にしません。約束します。ティアさんの身に危険が及ぶ事があれば全力で守る事を。お願いします。信じてください」


 そういって深々と頭を下げるユーイン。その表情に偽りが無い事は十二分にレウスとクロノに伝わっていた。ユーインが自分の目的を果たす為、ベールで生活の基盤を作っていかなければならない事を。その為には店主であるティアが必要な事も。


「……やっと……やっと見つけた居場所なんです」


 震える声でそう呟いたユーイン。その言葉に彼の本音の全ては詰まっていた。帝国から難民としてこの街にやってきて初めて自分を快く受け入れてくれたのがティアだった事。久しぶりに自分の汗を流して得られた達成感が気持ちの良いものだった事。


「ユーイン、お前……」


 同時に思うところがあったのか、クロノにもユーインの口から出た『自分の居場所』という言葉が不思議と胸に刺さっていた。


その時だった。


「ちょっとー、天井がバタバタして寝れないんですけど。って、そこで何やってるの?……ん……白い霧?」


―――――!!


 突然、屋根裏部屋の小窓が開きそこから顔を出したのは、額に手を当てて気怠そうなティアだった。その瞬間にレウスとクロノは慌てて離神する。彼女は寝ぼけているのか、目を擦って白い霧が無い事を確認している。


「ティ、ティアちゃん!?い、いま僕たち3人で明日の予定を話し合っていた所さッ!体は大丈夫なのかい?」


 焦りを隠せないレウスはそう言ってクロノの肩に手を掛ける。


「うーん、頭がガンガンするくらいかな。明日の予定って……明日は店の修繕があるんだからクロノとユーインはちゃんと空けておいてよね。っていうかアンタたちってそんな仲良かったっけ」


「と、当然さ!僕とクロノは親友だからねッ。ほーら、ユーインだって仲良しだッ!ね、ユーイン!」


 さらにもう片方の手でユーインをも抱き寄せるレウス。


「は、はい……」


 そんな三人の姿を見たティアは『気持ちわる。早く寝なさいよね』といって小窓の窓を閉め去っていった。


―――――危なかった。



 そう3人が同時に心の中で安堵の溜息をついた時、再び小窓から顔を出すティアにまたしてもビクッと身体を反応させる男達。


「忘れてた……三人とも、ありがとう。私を助けてくれて」


 小さく首を傾け、この夜に溶けてしまいそうなほどの微笑みを向けるティアは『おやすみ』と言ってそっと小窓を占めたのだった。


―――――……。


 その後、しばしの静寂が流れ、一番最初に口を開いたのは自分に掛けられた手を払いのけるクロノだった。


「どういうつもりだ、レウス」


 そう言って再び槍を出し、その矛先をレウスの喉元に突きつける。ここで事件を解決するのであればティアを含め一連の全てを洗いざらい整理したほうが得策だったはず。


「いや、待て待てクロノ。君は勘違いをしているよ」


「勘違いって何がだ」


「僕がさっき君を挑発したのは君の目的を探る為だ。その経緯がどうあれ純粋にティアちゃんの身を守る事が君の使命ならなんの問題もない。ユーインも同じだ。そうだろう?」


 そしてレウスは槍の矛先から二歩下がり続ける。


「言っておくが、僕のティアちゃんに対する気持ちも本物だ。この獅子の紋章に誓うよ。クロノは誰かの命令でティアちゃんの身に降りかかる危険を排除したい。ユーインも自分の目的の為にティアちゃんを守りたい。僕だってそうだ。ほら利害が一致しているじゃないか」


 確かにレウスの言っている事は正しかった。ここにいる全員がティアを守る事で利害が一致していた。


「だから今はこれで良しとしないか?ここにいる3人全員が争いを望んじゃいない」


「いいや、テメェはそれが目的じゃねぇだろ、レウス」


 再び矛先を向けられたレウスは『す、鋭いね』と小言を挟みながらも一度呼吸を整える。


「……ここは内部密偵局として依頼するよ。断罪者、赤山羊。僕に力を貸してほしい」


―――――!?


「どういう事だ」


「君の力が必要なんだ。戦神を消滅させられる力が。『闇堕ち』する人間を救うにはその力が必要なんだよ」


 レウスはクロノとユーインに事の経緯を説明した。


 王都で多発する『闇堕ち』事件。


 ここ数年で原因不明はおろかその頻度は増える一方だという。しかもその事件の裏側には王国の人間が関わっているのではないか、とレウスは睨んでいるそうだ。


 そしてそれがティアという帝国と王国の間に生まれた一人の女が少なからず関係している事も。レウスは幼馴染として彼女にいずれ迫る危険も懸念していた。


 だが何の証拠もないまま捜査含め王国軍を動かす事はできないという。できたとしても『闇堕ち』した人間を殺す、つまり甚大な被害が出た後しか動かす事はできないらしい。何よりもそう簡単に王国自体に疑いを向ける事が難しいのだという。


 そこで目を付けたのが『戦神に直接干渉できる能力』を持つ赤山羊というわけだった。


「今回の事件とティアが関係あるってーのはどういう事だ」


「それは機密情報だ。すまない。だが、彼女に危険が迫っているからこそ僕はこの事件を一刻も早く解決したい。彼女の生い立ちを知っているだろう?彼女が幸せに暮らせる平和な王都を作る為だ。その為なら僕はなんだってする」


 そんなレウスの言葉に嘘や偽りはなかった。


「ちなみに今回の件は僕の上司である四神『白虎』の意向でもある。君の素性も外部に漏らす事はしない。君が元断罪者であることを疑っていたのも白虎と僕だけだからね。というわけで正式に依頼するよ―――――」




「断罪者クロノ。君の力で王都の闇を断罪してほしい」




「断ったら?」


「君は賢い。絶対に断らない。()()()()()()()()()()()んだろ」


 絶対的な自信を持つレウス。彼のいう通りだった。ここで条件を飲まなければティアの傍にいることすらままならないのは明らか。


「勝手にしろ」


 それを『YES』と捉えたレウスは嬉しそうに『やりましたよ白虎さん!』と小さくガッツポーズを決める。


「ユーインも同じだ。君の目的は知らないがティアちゃんを守る協力者はひとりでも多い方がいい。君の素性を荒らされたくなければクロノと僕に力を貸してくれ」


「わ、わかりました。お力になれるかわかりませんが……」


「じゃあ、交渉成立だね。よろしく頼むよッ!ただ、君らが王国への不利益な行動、ティアちゃんに危害を加えそうになったり、怪しい行動を取ったらその時は―――――」


 左手を差し出したレウスは眼の色を変える。その赤い眼は十六戦神の眼。


「―――――斬るよ」


 そう言って再び、いつもの優しいレウスの顔に戻ったのだった。そしてクロノの耳元で『コックのおじいさんにもよろしくね』と呟く。


「お前は一体どこまで……」


「まあまあ、これから宜しく頼むよ!クロノ、ユーイン!」


―――――そうして……


『ティアに思いを寄せ、王国の闇堕ち事件を解決したいレウス』

『探しモノをみつける為、ティアを守る事を約束したユーイン』

『ティアの身の安全。それが何者かの最期の注文(ラストオーダー)であるクロノ』


 まだ互いに抱える謎は多いまま。しかし、それぞれの利害の一致からひとまず手を組むことになった三人。


 何も知らないティアを中心に動き始めた王国、そしてその陰で何か大きな思惑を抱える闇。


 平和なレグリティア王国の時代はゆっくりと、大きく動き始めたのだった。

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