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【Dark Order】 - 断罪のレストラン-  作者: のりしお
やたらと問題の多いレストラン 編
4/6

第3話 変態は主にカウンター席に座る

 


 パテンド平原から見る夜の王都は月が顔を出すのと同時に、地上の星空のような街明かりがその全てを彩っていた。


 そんな中でも2番街の商店街は『眠らない街』と呼ばれるにふさわしく、レストラン『ベール』は満員御礼。その窓からはワイワイガヤガヤ。時折、幾人もの大きな笑い声が響き渡り、外の野良犬が苦情を訴えるかのように遠吠えをする。


 そこには任務帰りだろうか。鎧を着たままケルト調の楽し気な音楽に身体を揺らし、飲み食いをする40人以上の王都の兵士達。


 ガツガツと飯を喰らう者、頬を赤らめ持参のバイオリンを奏でる者、一方で自分の武勇伝を語る者とそれに目を輝かせる新兵。男同士の腕相撲に湧くギャラリー。


 他にも商店街の老人達。若いカップル、カウンター席には一人でしっぽりと飲みに来ている常連客。今日も大繁盛のベール。ご自慢の鹿の角のシャンデリアには、ワインの香りと煙草の煙が入り混じり楽し気に舞い上がっていた。


 そして()()()とでもいうのか、この日最高潮の熱気を魅せていたベールの店内。そこには汗を滝のように流し今にも死にそうな表情で客席を駆けずり回る従業員がいた。


「おーい!兄ちゃん、こっちにもビールだ!3つな!」


「……は、はい!!ありがとうございます!ただいま!!」


「こっちもビール忘れてねーよな!5つ!さっき頼んだんだから早くしてくれ!」


「は、はい!順番にお持ちいたしますので…うわあ…!」


 何故か飛んでくる皿を回避し、兵士の山を潜り抜けたユーインはサロンのポケットから慌てて出した伝票に殴ったように注文を書きとる。


 そして息を切らしゴールさながらにその伝票をカウンターへ力無く叩きつけた。


「クロノさん……ビール……8つお願いします」


 カウンター席の向こう側。壁一面に色んな酒瓶が並ぶ中『へーい』とやる気の無い声、そして咥え煙草のままドリンクを作るクロノ。


 だがその手つきは千手観音の如く次から次へと注文された品を作っていく。


「クロノさん、もう無理です…!限界です…!!」


「その台詞、今日何回目だよ。やれてるじゃねぇか」


 クロノは一瞬でワインのコルクを開け香りを確認しグラスへ注ぐ。


「ほら。先にこのワインを3番テーブルへ持ってけ。帰ってきた頃にはビール出しとくから」


「あ、はい。わかりました…!じゃなくて!なんですかこのレストラン!なんで皿が飛んで来るんですか!これじゃあ暴動が起きてるのと変わりませんよ…!」


 弱音と不満を一気に爆発させるユーイン。だが客席の中心から妖精の叱咤が飛んで来る。


「ユーイン何をやってんのッ!?4番テーブルと6番テーブルのオーダーは!?ここは戦場よッ!立ち止まる事は許されないわッ!」


 騒ぐ兵士達で賑わう戦場のど真ん中。


 酔い潰れ床で眠る兵士達の亡骸(なきがら)に足を掛けるティアは、その身体に抱き着こうとする別の兵士のアゴをお盆で叩き上げる。その姿はまさに酒場を制したジャンヌダルクといったところか。


 もはやそこはレストランというより『無法地帯の荒れ狂った酒場』と言った方がいいだろう。


「す、すみません……!!」


「朽ち果てるのなら構わないッ!でも生き残った者こそ栄光を掴み取れる唯一の勝者だという事を忘れないでッ!」


 鬼の形相で鼓舞(こぶ)するティアに逆らう事が出来ず再び戦場へと向かっていくユーイン。その脳裏にはここに至るまで引っ掛かっていたいくつもの事象が繋がっていた。


 まず難易度の低すぎる面接。恐らくこんな労働環境では新人は初日で辞めていくに決まっているだろう。巨体のアテナが言っていた『逃げられない』というのは、誰でも採用されるという事よりも、ここで働いている人間のほとんどが『ここでしか働けない』ような連中ばかりだからだ。


 家を追い出された者、元帝国軍の老兵、素行が悪く行く当てのない者。


 もちろんユーインは自分自身が『帝国難民』でありどこも門前払いであることは自覚していた。


 何よりも『商店街の妖精』はユーインの聞き間違えで『商店街の傭兵』だったという新事実を先ほどナジャフから聞かされた時は絶望と納得が同時にやってきたのも無理はない。


「お料理の注文が入りました…!お願いします…!」


 だがユーインは喰らい付いていた。自分もここで()()()()()()()()()()のだ。ティアが最初の忙しい時間帯でユーインが挫けそうになる度に『限界を乗り越えられない者に新しい明日は来ない』と軍曹なさがらに言っていたのだ。


 料理の注文を厨房の台に歯を食いしばって叩きつけたユーイン。自分の足元を見れば膝が笑っているではないか。3時間も障害物競走を続けていれば不思議な事ではなかった。


 そんな目線の先、厨房の向こう側で乱舞するシャド爺。


 ―――――??


 ユーインは彼に対し『老体に鞭を打ってまでも…』と思ったが彼は実に楽しそうに、少年のような表情で肉にフランベをしているではないか。そんな中、再びティアの指揮命令が店内を飛び交う。


「ナジャフ…!!デザートの準備ッ!敵の胃袋を一網打尽にするわ!まずはサプライズケーキからッ!!目にモノを見せつけるわよ!明かりを消して!」


「了解しましたぞ!ティア殿!!この独裁者トライの親愛なる教徒ナジャフ!涙腺のダムを決壊させてみせましょう!」


 コック帽が脱げ落ちそうになりながらも必死の形相でケーキの蝋燭に火を灯すナジャフ。その瓶底メガネの向こう側には炎以外のモノも燃えているように見て取れる。


「3、2、1…!今ッ!」


 ティアの掛け声と共に店内の照明が消えた瞬間、辺りは蝕台(しょくだい)の光だけで包まれ幻想的なものになる。


 そして厨房から出てきたのは『これから一緒に頑張ろう』とチョコで書かれたプレートが刺さったホールケーキ。


 さらにそのケーキをすかさず咥え煙草のクロノが受け取り、ひらりひらりと荒ぶる兵士達をすり抜け、片手で中央の客席へと運ばれた瞬間、王国守備隊が歓喜の渦に包まれる。


「あ、ありがとうござびます……!皆さん…!こんな…うぐッ…」


 歓迎会の主役の新兵は涙を流し、その姿に笑い転げる王国守備隊の熟練兵士達。そんな風景を少し冷めた表情で見つめながらも一応まばらな拍手を送る王国騎士団の貴族達。


 ――――そして…


「……う、う、頑張ってね…!」


 と何故かさっきまで修羅の如く走り回っていたティアが号泣している始末。未だ暗い店内。厨房の受け渡し口にいたユーインはその不思議な光景に少しだけ口元が緩み、その瞳にも蝋燭の光が優しく灯る。


「やっとるのー」


 そんな彼の元に厨房の向こう側からシャド爺が歩み寄ってくるのだった。


「このベールはのぉ、創業当時からヒトを選ばんのじゃ」


 昔から『身分や生まれ』で客や働き手を選ぶ風潮が消えない王都の人々。近年、その風潮も崩れつつあるがまだまだ残っているのが現状だという。


 武装禁止や、騒ぐこと事体を禁止しているレストランも多く、すぐに出入り禁止などは当たり前。当然だろう。面倒はどこの時代も御免一方だ。ましてや今日の『元帝国民』と『貴族』の予約を同時に受け付けるような店は王都に2つは無いという。


 乱闘は日常茶飯事。むしろベールの名物と言ってもいい。誰もが楽しみ、誰もが汗を流し、誰もが騒ぎ、誰もが笑うのが当たり前。生まれや人種も関係ない。騒ぎたいだけ騒ぐ。それがベールなのだとシャド爺は語った。


「いや、でもやりすぎですけどね……」


「それはワシも同感じゃ。血圧が上がって仕方ないわい。どうじゃ。やっていけそうか?」


 そんな問いに対しユーインは、


「自信を持って言えませんが…続けようと思います。今の僕にはココしかないので」


 と額から流れる汗を光らせながら微笑んだ。彼にとってその汗はこの王都に来てから初めて、少しだけ、気持ちの良い汗だった事は間違いない。


 シャド爺は『良い心掛けじゃ』と言葉を残し厨房に戻っていく。そしてゆっくりと明るくなった店内。それに呼応するかのように再びギャーギャーと騒ぎ始める酔っぱらい兵士達。そんな彼らを背に最後の料理を手に取り客席に向かって力強く踏み出すユーインだった。


 それから2番街のお祭り騒ぎはしばらく続き、深夜23時を回った頃。


「これが最後のオーダーです。お願いします。あとは残っているお酒でいいそうです。お水は出しておきました」


 クロノがいるカウンターに最後の伝票を置いたユーインは明らかに成長していた。というよりも叩き上げられていた。そんな姿を見たクロノは普段半開きの目を7割見開いて驚く。


「なんだ、もう弱音は吐かないのか」


 そう言ってユーインに氷の入った冷たい水を差しだすクロノ。


「クロノさん!ありがとうございます!…あれから弱音を吐く暇なんてなかった、というのが本音ですかね…頂きます!」


 言葉とは裏腹なクロノなりの優しさに感動するユーインは両手で持ったグラスを一気に持ち上げ、乾いた喉に一気に流し込む。


「っぷはぁあ…!こんなに水をおいしいと思った事はありませんよ!」


 そんな初々しい従業員を見てカウンターに座る1人の客が話しかける。


「ユーインと呼ばれていたか、君は新人さんかい?」


 1人で来ている客だろうか、カウンターに肩肘をつき目線を向ける男。フードを深く被っておりその腰には鞘に入った二本の短剣を携えている。


「は、はい。あなたは…」


 そうユーインが聞き返そうとした瞬間、カウンターでグラスを拭くクロノが話を遮るように口を挟む。


「もう何も頼まねーなら帰れ。邪魔だ」


「…待ってくれ…僕は常連客だよ!…オレンジジュースをひとつ!」


 何故かそのフードの男はコソコソと小声でやり取りしている事から訳ありなのか。そして男はフードの一部を上げユーインにこっそりと顔を見せた。


「僕はレウス。ここの常連客さッ」


 赤髪に赤い瞳。笑った時に見える白い歯が印象的な爽やかな青年。歳はクロノに近いくらいで肌は少し焼けており体育会系の健康的な感じが伺えた。


「はじめまして。ユーインです。常連って事はよくこのお店に?」


「ああそうさ。大体週4回は「コイツはただの変態だ。構うな」


 再び話を遮ったクロノは面倒感丸出しでオレンジジュースをレウスの前に置いて続ける。


「まずその病気みたいな趣味をどうにかしろ。迷惑だ。営業妨害で軍に突き出すぞ」


「…僕は軍人だよ!合法なんだから自由だろ!自由の国、それが王都レグリティアさ!」


 『病的に色白なクロノ』と『病気の疑いがある小麦肌レウス』のそんなやり取り。一向に話の見えてこないユーインが事情を尋ねたところ、レウスの言い分はこうだ。


 彼は1番街の王国軍の詰め所で勤務している。ティアとは同じ2番街の教会に通っていた同級生で、当時から今も変わらず彼女に思いを寄せているのだとか。街中で会った時は『あ、レウスー!それじゃあね!』くらいの仲らしい。


 彼女と面識があるのにも関わらずこうして隠れているのは『陰から彼女を見つめる』事に意味があり、無防備なありのままの彼女を見る事が好き、本職だと彼は語る。


 思いを伝えた事はなく『伝えてしまっては今の関係が崩れる』のが一番怖いという。崩れてもどうでも良いレベルの関係だが、断じてそうではないらしい。ちなみに教会に通っていた幼少期、彼女のリコーダーが自身のファーストキスだと豪語している様子からそこに背徳心はない。つまり病気だ。


「レウスさんは変態なんですね…」


 完全に見る目が変わったユーインとカウンター越しに深く頷くクロノにレウスは反論する。


「勘違いしないでくれ、彼女への思いは本物だ。両親のいない彼女を守ってやれるのは僕だけだからね。ほら見てごらん。あんな国宝級の美少女の一面を隠れ見る……これ以上の肴がどこにあるんだい…!」


「アレがか?」


 クロノの言う通り、その国宝級の彼女はたった今、倒れている兵士を足で避け、割れている皿を冷静な表情でカウントしているのだが、一体そこの何処に美しさを感じているのか理解できないユーインとクロノ。


「テメェが飲んでるのはオレンジジュースだけどな。もう帰れよ邪魔だ」


 再び突き放すクロノに対し、レウスは少しだけ真面目な表情になる。


「まあティアちゃんを見に来ているのは第一目的だが、今日来てるのは()()()()がある。僕は今、王国軍の内部密偵局という組織にいて…」


「お前にぴったりじゃねぇか。ティアの私物でも盗みに来たのか」


「そうそう…この前履いてた黒タイツがたまらなく話を聞いてくれ、頼む」


 謎のノリ突っ込みを見せるレウスは続ける。


「王都で多発している事件があってな。神蝕(しんしょく)……戦神使いなら誰でも聞いた事あるだろう?」



 ―――――『神蝕(しんしょく)



 自らの戦神からその特性や能力強化を日常的に与えられるのが『加護』と呼ばれている。加護はこの文明を支えて来た力であり、戦神使いであれば業務資格のように日常的にそこにあるものだ。


 更にその加護を強化する為に、自らの肉体の一部を戦神に貸し、力の上限を解放をする事を神化(しんか)という。


 つまり神化時の人間の肉体は戦神との共有物になるのだ。神蝕とは簡単に言えば『戦神が人間の身体を乗っ取る、(むしば)む』といった意味がある。


 神蝕化が進む原因は大きく分けて3つある。『神化時間が長期に渡った場合』『自らの生命が危機に瀕した場合』『精神が不安定な場合』など自分自身を保てなくなった時に起こるのが神化する上での副作用。それが神蝕だ。


 本来であれば風邪に似た症状、最悪、衰弱死などが主な事例だったのだが――――


「なんでも神蝕化が進んで臨界点を突破すると、戦神使いが肉体共々『化け物』になるって事件が頻発しているんだ。それを当局では『闇堕(やみお)ち』と称している」


 そんな情報を聞いたクロノはボソリと『闇堕ちねぇ』と顔色一つ変えずワイングラスを拭き続けているが、興味を引いたのかユーインは更にレウスへ尋ねる。


「闇堕ちした戦神使いはどうなるんですか?」


「ある村では熊の戦神使いが闇堕ちして村人全員を襲ったそうだ。悲惨な事に村人達の柔らかい内臓だけが喰い散らかされてたらしくてな。昔聞いた野生の熊が人間を襲った事件を思い出したよ。闇堕ちした人間の対処がこれまた大変でね。今のところ神蝕状態の人間ごと殺すしかないんだ」


 苦虫を潰したような表情でオレンジジュースを飲み干すレウス。


「殺すしかない…ですか。戦神の特性を引き継ぐとは言いますけど…その凶暴性も影響されるんですね」


 ユーインは想像してゾッとしたのか身震いをしている。


 そう、ここ5年で『戦神使い』は増えた。帝国を傘下に入れた事で『神降ろし』という戦神使いになる為の儀式を行える巫女が王都に増えたからだ。


 戦神使いの人口増加に伴ってその闇堕ち事件も上昇。今月に入ってもう10件以上発生していると言う。


「そういや、クロノも戦神使いって話だよね?ユーインは?」


「ぼ、僕も一応使えますが……雑種(アザー)なので」


 主に雑種とは希少性が低い獣類群、家畜系の戦神の総称。それを聞いたレウスは肩をすくめ安心そうな表情を浮かべた。


「まあ、君達みたいな雑種が闇堕ちするケースは少ないと言われてるが、念には念をで気を付けるんあッぢィ……!!」


 吸っていた煙草をレウスの手の甲に押し付けるクロノは珍しく正論を述べる。


「で、その密偵局の機密情報を一般人に漏洩(ろうえい)するバカ野郎がなんでここにいる」


「それは僕と君の仲じゃないかクロノ。理由?そりゃ王国や元帝国の兵士が酔っぱらって暴れまわる、イレギュラーと言えばこの店だろう?」


「確かに」


「ティアちゃんを拝みがてらパトロールしてたわけだよ。でもまあ心配なさそうだ。それよりも僕はティアちゃんのあの太ももが―――――」


 ―――――!?


 その時だった。


 突如、大きな『ガシャーン!!』という大きな音を聞いたレウス、ユーイン、クロノの3人が客席に目を向けると、一人の酔っぱらった兵士が丸テーブルを派手にひっくり返したようだ。


「ああ!?いま何て言った!?」


「帝国出身は品性が無いと言ったのだよ!」


 どうやら貴族である王国騎士団と元帝国民の王国守備隊が『身分の事』から言い争っているようだ。腐っても王都。平和とは言え誰しもその腹に抱えている者はある。つまり火種はいつも日常に潜んでいるという事だ。そしてその二人を中心に互いのグループが殺気立っている。


「だから言わんこっちゃない」


 クロノのいう通りいつもの事っちゃいつもの事。だが今日は少し様子が変だった。


 酔っぱらっているとは言え、先頭で対峙する当事者2人は勿論、数名の兵士たちが武器を取り始めた事にレウスはたまらず椅子から立ち上がる。


「当たってほしくない予感はこうも簡単に当たるわけだね」


 守備隊のひとりの身体に白い霧が纏わりついている。つまり神化の予兆だ。


「貴様!ここで神化する気か!」


 激怒する騎士団の面々が剣を向けると同時に、まんまとその間に割って入った人間に対し『あのバカ』とクロノ。レウスにおいては冷や汗が止まらない。


「ちょっと止めなさいよッ!剣を抜くのは見過ごせないわッ!!」


 その場を治めようとするティアは神化をする兵士、剣を抜く騎士団、その両方に睨みを利かす。いつもならそれで治まっていたのだが今日は違った。その時クロノは神化する兵士を見て『(ボア)か』と呟いて煙草をジリリと吹かす。


「ヒック……貴族がなんぼのもんじゃ……てぃ、帝国の恨みをここで晴らしてやるわぁあア!!」


 そう言って泥酔した守備兵が勢い余ってデタラメに振り回した剣。その剣先の向かった先が悪かった。


「えッ……」


 突如ティア目掛けて振り下ろされた剣。殺める太刀筋ではないものの振り下ろされた重みだけでも危険なのは明らか。誰もが息をのんだ刹那、


―――――!!


 間一髪。金属音を響かせ鉄製のモップの柄を横にして剣を受け止めたユーイン。


「け、剣を下げてください……!!」


 状況を察したのかクロノがどこからともなく出したモップの柄。突然渡されていたユーインの身体は勝手に動いていた。


「悪酔いもそこまでだ。今だったらまだ間に合う。離神するんだ」


 レウスは三日月状の二本の短剣、その片方の切っ先を神化する兵士に向ける。


「レウス…!?」


 床に座り込んだティアがレウスの存在に驚く中、周りにいた貴族達、さらには守備隊の面々まで『やりすぎ』だと判断したのかそこにいた全員が神化する兵士に向かって武器を向けていた。


「な、なんだよ……ヒック……なんだよなんだよ……!!俺だけが悪者かヨォお!!畜生!!また王国に負けるのかよおおおおお…!!」


 そして次の瞬間、叫びまわっていた兵士を包む白い霧が濁り始めると同時に、


「何すんのよッ……!?」


―――――!?


 気が狂ったのかその兵士はティアを担ぎ上げ窓ガラスに肩から突撃。耳を割くような音と共にガラスは大破し神化した兵士はティアを連れ逃走する。


「……おい待てッ!!」


 ティアの目の前で兵士を切り捨てる事に躊躇してしまったレウス。その一瞬の隙を突かれ逃走を許してしまったのだった。そして両サイドの兵士は騒然、誰も状況を飲み込めていない。


「ティアちゃん……!!」


 そう言って兵士の後を追い割れた窓から店を飛び出していくレウス。


「ほれクロノ。もってけッ!」


 そしてシャド爺が水筒のような銀色の筒状をした()()を投げ渡し、それを無言で受け取るクロノ。ユーインはそれが何か分からなかったが、


「行きましょう!クロノさん!!」


 今は連れ去られたティアを助ける事が第一。すかさず飛び出して行ったレウスの後を追って、ユーインとクロノもベールを後にしたのだった。

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