新感覚☆美少女育成RPG「モロロ・ガールズ」!
頑なにガラケーにこだわり続け「生きた化石」と罵られていた俺だが、機種の故障をきっかけにスマートフォンへ乗り換えることになった。
慣れというのは怖いものだ。あんなに「スマホなんて!」 と斜に構えていた自分が今では四六時中スマホをいじっている。
中でも俺の気を引いたのがソーシャルゲーム、いわゆる「ソシャゲ」の存在だった。「基本無料」で遊べるゲームがこんなにあるなんて、ここは天国だ! と、元々ゲーマーの俺は思っていた。
……あのゲームに出会うまでは。
***
いつものように掲示板まとめサイトを巡回している時、バナーに女の子の絵が描かれた広告を見つけた。気になったゲームは取り敢えずやってみるスタンスだった俺は、何も考えず広告をタップし、アプリをダウンロードする。
ソシャゲの名前は「モロロ・ガールズ」
いわゆる美少女育成RPGで、選んだ少女を育ててクエストに出かけたり、好感度を上げて少女と触れ合うことが出来るらしい。
最初に選べる少女は2人。俺が選んだのは
・眼鏡をかけた大人しい少女「ユキ」
・活発なボーイッシュガール「フンバフファンヴァゴ」
……フンバフファンヴァゴという名前はまるで寄生虫に脳みそを侵されながらも最後の力を振り絞った両親に名付けられた感があるが、見た目は可愛い女の子だから問題ない。
女の子を選んだら今度はチュートリアルだ。
「司令官、私たちを選んでくれてありがとう! 一緒に協力して『モロロ』を倒そうね!」
大人しい眼鏡っ娘のユキがクネクネした動きで俺に話しかけてくる。
やっぱ3Dは良いな。女の子の動きが自然だし、胸も揺れるしグヘヘ。
チュートリアルを一通りやって分かったのは、このゲームでプレイヤーの目的は地球防衛軍司令長官となり、戦闘員である女の子と共に「モロロ」という宇宙生物を倒すことのようだ。
「早速ミッションへ行ってみよう!」
元気の良いフンバフファンヴァゴの声に誘われて左下の【ミッション】アイコンをタップする。
ミッション1
【街に現れたモロロを殺戮しよう!】
ん? 殺戮? い、いや何かの聞き間違いだよな。
【モロロLv1が現れた!】
画面上にはモコモコとした羊のように可愛らしい生き物が映し出される。どうやらこのモコモコした生き物がモロロのようだ。
「よーし、グチャグチャにするぞー!」
俺はフンバフファンヴァゴの声に耳を疑った。
この可愛い生き物をグチャグチャ? ま、まぁ相手は侵略的宇宙生物だしな。
と思っているとフンバフファンヴァゴが何のためらいもなくガトリング銃を乱射しはじめた。たぶん世紀末のならず者でもあと2秒くらいは撃つのを躊躇ったはずだ。
【殺戮完了】
「やったねマスター! モロロは蜂の巣になったよ!」
おっかねぇよ!
もういい、俺がこのアプリをダウンロードしたのは宇宙人を殺戮するためじゃない。女の子と触れ合うためだ。
俺は素早く【ふれあい】のアイコンをタップして画面を切り替える。
【女の子を選択してください】
うーん、どっちにしようかなぁ。さっきの戦いを見た後だと若干フンバフファンヴァゴとは距離を置きたい気分だし、よし、眼鏡っ娘のユキにしよう。
ユキをタップすると画面上にユキの全身が映し出される。ピッチリした地球防衛軍のユニフォームがとてもエロい。
俺は下心で引き攣った笑みを浮かべながらユキの胸をタップした。
「キャッ! やめてください司令官!」
ユキは胸を押さえて顔を赤くする。
ウヘヘ、なんて初々しい反応なんだ。そんな反応をされるとオジサンもっと触りたくなっちゃうよ。
俺は調子に乗ってユキの身体中をタップし続けた。
汚いオッサンのタップ攻撃を受けて画面上で様々な仕草をしながら嫌がるユキ。
「ちょ、やめ、やめ、やめ❤」
「やめろつってんだろクソハゲ」
!?
急にドスの効いた声になった!?
ま、まぁアレだな。触りすぎると女の子を怒らせちゃうみたいだな。反省しよう。
バツが悪くなった俺は逃げるように【ガチャ】のアイコンをタップした。
このゲームのガチャで出てくるのは、女の子を着飾ったり、強化する時に使う「デコレーション」だ。
ガチャといえば重課金者なら月に何万円、いや、何十万円と注ぎ込むらしいが、俺はそこまでリッチじゃない。
幸い、初心者応援キャンペーンということで2回無料で引けるようだ。
早速【1回ガチャを引く】ボタンをタップしてみる。
すると画面が夜空に切り替わり、そこを一つ光を引いて銀色の玉が落ちてきた。
なるほど、宇宙をテーマにしているから流れ星の演出なのか。
銀色の玉から出てきたのは
【☆☆ 黒いワンピース】
だった。
ほうほう、これを女の子に着せればパワーアップするわけだな。今のユニフォームも良いけど、ワンピースなら下からパンツ覗けるなグヘヘ。
俺は邪な妄想をしながらもう一度無料の【1回ガチャを引く】ボタンをタップする。
すると再び画面が夜空に切り替わり、今度は虹色の光を引いて金色の玉が流れ落ちてきた。
おお、金色! という事はさっきのワンピースよりレア度が上なのか!?
玉が開いて現れたのは、ブヨブヨでピンク色をした筒状の物体だった。
何やら臓器の一部のような気がしないでもないが、いやまさか。
【☆☆☆☆ 十二指腸】ゲット!
いらねぇよ! 何このゲーム、臓器移植要素でもあるのか?
いや、でも☆4つだから最高レアのハズなんだよな。試しにフンバフファンヴァゴに装備してみよう。
俺は装備変更のアイコンからフンバフファンヴァゴを選び、【☆☆☆☆ 十二指腸】の装備を試みた。
するとフンバフファンヴァゴの顔がみるみるフンバフファンヴァゴっぽくなってくる。
「長官なに持ってるの? 何それ? いや! 来ないで! いやああ!!! 司令官の変態ボケカスクソ腐ったタマネギよりも不要なゴミ!」
言い過ぎだろ!
まさかここまでガチで拒否されるとは……。
これは使えないな。だけど、このままじゃ女の子たちに嫌われる一方だし……。
よし、課金して10連ガチャを引こう。10連を回せば一つオマケで付いてくるみたいだしな。
俺は素早くゲーム内通貨を買い、ガチャ画面に移った。
そしてドキドキしながら【10回ガチャを回す】ボタンをタップする。
よし、いくぞ!
一つ目!
【☆☆☆☆ 十二指腸】
またか! ええい次だ!
【☆☆☆☆ 大腸】
【☆☆☆☆ 心臓】
【☆☆☆☆ 眼球】
【☆☆☆☆ 膀胱】
【☆☆☆☆ 腎臓】
【☆☆☆☆ 肝臓】
【☆☆☆☆ ランゲルハンス島】
【☆☆☆☆ 肺】
【☆☆☆☆ 肋骨】
【☆☆☆☆ 食道】
人体錬成か!
5400円も使ったのに何だよ! もう二度と課金なんかしねぇぞ!
俺は怒りを収めるために女の子たちとお話することにした。
そう、このゲームでは女の子たちの身体を触ってグへへな事も出来るが(さっきマジギレされたけど)、ほかにも簡単な選択肢を使って女の子たちと会話をすることも出来るのだ。
ということで再び
【ふれあい】アイコン→【おはなし】アイコン→【フンバフファンヴァゴ】アイコン
の順にタップしていく。
よぅし、フンバフファンヴァゴとお話して好感度を元に戻すぞ!
しかし画面上にフンバフファンヴァゴの姿はない。
かわりに身体をゴツゴツした鱗に覆われ、口は画面からはみ出るほど大きく、サメのように鋭い歯を持ったモンスターがそこにはいた。
【おめでとう! フンバフファンヴァゴはフンバフファンヴァゴゴゴに進化した!】
もどして。
「十二指腸ヲ……、十二指腸ヲ喰ワセロ……」
十二指腸ここで使うのかよ!
何が美少女育成RPGだよ、モンスターに臓器提供するひたすら気味の悪いゲームじゃねぇか!
こうなったらユキとお話だ!
さっきクソハゲとか言われたけど、モンスターが臓器を食べる様子を眺めるよりは精神衛生上いい。
そう思って【ユキ】のアイコンをタップしたところ、残念なことにユキの様子もおかしかった。
笑顔なのだが目が据わっている。一点を見つめて一切動かない。
なんだ、アプリがフリーズしたのか……?
そう不審に思って再び画面をタップした時だった。
「司令官! 今、幸せ?」
……なんだ急に。
【選択肢】
不幸
大殺界
おい選ばせろよ!
どっちに転んでも幸せになれねぇじゃねぇか!
しかし会話は進めたかった俺はひとまず【不幸】をタップした。
「やっぱり? 私も司令官の顔から出てくる不幸オーラが耐えられなかったの!」
おい。
「でも大丈夫だよ! 神様にお布施をすれば全て良くなる、司令官もゴミクソみたいな人生から解放されるし幸せになれるんだよ! お布施しないから不幸なんだよ! お布施しないと神罰が下るんだよ! さあ!!!」
完全にカルトじゃねぇか!
しかし間髪入れずに選択肢が表示される。
【いくらお布施しますか?】
1080円
5400円
10800円
しねぇよ! 【お布施しない】選ばせろよ!
どこに課金要素ねじ込んできてんだこのゲーム!
俺は激しい憤りを感じながらゲーム画面をタスクキルし、気持ちを落ち着かせるため深呼吸してから再び「モロロ・ガールズ」を起動してみた。
今度は試しにフンバフファンヴァゴと触れ合ってみよう。
宗教の勧誘を受けるくらいだったら化け物が十二指腸を食べている場面を見ていた方がマシである。
「あっ! 司令官来てくれたんだ!」
俺を待っていたのは意外にも「人間の姿」のフンバフファンヴァゴだった。
よかった、タスクキルをしたからリセットされたのかな。
「マスターって癖っ毛? 直毛?」
【選択肢】
癖っ毛
直毛
癖っ毛をタップする。
「そうなんだ! ちょうどよかった、私いいシャンプー知ってるんだ!」
ん?
「この『ハイパーウルトラモイスチャーシャンプー』なんだけど、癖っ毛を一瞬で直してくれるシャンプーなの! ノンシリコンだし中間流通が無いから安いの! 絶対買った方が良いと思うの!」
今度はマルチ商法かよ!
「違うよ! これはMLMっていう立派な流通形態の一種で」
なんで普通に返答して来てんだよ!?
「絶対お得だよ! この魅力的な商品群を1ヶ月にたった二百万円分流通させることが出来たらエメラルドアンバサダーっていうのになれて権利収入がっ!!!!」
怖い怖い怖い!
【選択肢】
シャンプーを買う(¥5400)
ウェイウェイ会員になる(¥2000000)
桁がおかしいだろ、買い込みさせる気満々じゃねぇか!
「私がなんでウェイウェイをやろうと思ったかっていうとね!」
聞いてねぇよ!
「ヤベエさっき喰った十二指腸出てきた」
本気で恐怖を感じた俺は震える手でタスクキルをした。
しかし何故だろうか、今度は何が起こるのかと少し気になった俺は再びゲームを起動させていた。
すると「プレゼントボックス」に何かが届いていることに気付く。
ミッションクリア報酬だろうか、と軽い気持ちでプレゼントボックスのアイコンをクリックする。
【訴状】
原告 ユキ
被告 クソハゲ
事件名 セクハラによる慰謝料請求事件
請求の趣旨
被告は原告に対し、金1000万円の金員を支払え。
何だこれは!?
もう一回言う、何だこれは!!?
タッチさせておいて、慰謝料に課金要素を設定するって……、狂ってんのか!!
二度とこんなゲームなてやらねぇ!!!
その1週間後、モロロ・ガールズは突然サービス終了した。
俺はというとこの一件がトラウマになり、再びガラケーに乗り換えたのだった。
おわり
お読みいただきありがとうございました!