再会?と遭遇3
はい、続きです。
寝る前にさらっと読める長さです。
『あ~食べた食べた。美味しかったね』
「そうですね(全然足りなかったけど)」
『少しはおっきくなったかな?』
先輩は胸を突き出して確認しているが、見る限りには変化はない。当たり前だ、飯を食っただけで胸が大きくなるはずがない。とりあえず、「知りませんよ」と聞き流しておく。
先輩は「む~」と不機嫌そうだがスルーしておこう。
「それよりも、これからの事ですけど」
『あ、そうだった!? 私、どうしたらいいかな?』
先輩は思い出したように困り顔になった。
「やっぱり成仏した方がいいんじゃないですか?」
『だ・か・ら、その成仏の方法がわからないんじゃない』
「やっぱりお寺とかに行って除霊してもらうしかないですかね」
『除霊って、なんだか退治されるみたいで嫌なんだけど』
「あ~確かに。成仏というより消滅しそうですよね」
『でしょ? 私としては穏便に成仏したいんだけど』
「穏便って……」
裏金でも動きそうな不穏な響きだけど、さすがにお寺で裏口成仏なんてしていないだろう。自然に成仏した方が先輩の為な気もする。成仏できない理由を見つけて、それを解消した方が早いような。
理由か……当然「未練」だよな。
「先輩、何か未練みたいなものでもあるんですかね?」
『未練? ん~どうかなぁ? …………ないこともない、かな? でも、こればっかりはどうにもできないし』
どうにもできない未練。やっぱり殺された恨みが残っているんだろうか? それを解消するにはあの男を……さすがにそれはできないって先輩もわかっているみたいだな。
「困りましたね」
『だねぇ』
俺たちが同じタイミングで溜息を吐くと、誰かが駆け寄って来る足音が聞こえて来た。
「あ、こんなところにいた」
『あ、玲奈ちゃんだ』
本城だった。先輩の口ぶりから、やはり二人は知り合いなのだとわかる。
「なんでこんなところで一人でお弁当食べてるの?」
やはり本城には先輩の姿は見えていないようで、先輩は少し寂しそうな表情になった。
先輩もわかっていたことだろうけど、実際に直面すると寂しくもなるか。本城がいるから今は何も言ってあげられないけど、後でフォローしておこう。
「なんでって、三郎も雅治もいないから、教室で一人で食うのもちょっとな」
『勇人君って友達少ないの?』
「……」
気を遣ってくれたのか? 『友達いないの?』と言われなかっただけましだが、その心遣いが逆に胸に刺さる。憐れんだ視線をひしひしと感じる。
「(もう、一緒に食べようと思ってたのに……)」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
本城がボソッと何か言った気がしたが、先輩の視線が気になって聞き取れなかった。小声だから大したことではないのだろう。
「で、なにか用事か?」
「あ、用事というか、もう時間ないよ。午後の授業はじまっちゃうよ」
「げっ、マジ?」
場所探しに時間をかけすぎたか。先輩とたいした話も出来なかったな。ていうか、それを報せるために俺を探してたのか? 悪いことしちゃったな。
「悪い、急いで戻ろうぜ」
本城にそう告げチラリと先輩の方へ視線を向けると、『いってらっしゃーい』と先輩は笑顔で手を振っていた。その微笑みがどこか儚げに見えたが、俺は「いってきます」と小声で返し教室に向かった。
話の続きはまた後でしよう。
◇◇◇
午後の授業が終わり、俺はもう一度三郎たちのスマホに電話を掛けた。見つかっていればきっと出るはずだ。俺は安心したかったのだ。
『……出ないね』
「っ!?」
いつの間に側にいたのか、先輩が俺のスマホに耳を近づけていた。心なしか朝よりも近い気がする。
相手は幽霊、この動悸もきっと気のせいだ。気のせい気のせいと自分に言い聞かせ、「そうですね」と呟き発信を切った。
「まだ見つかってないのかな?」
「そう……そうみたいだな。でもまあ、きっと警察が見つけてくれるって」
「うん、そうだね」
急に本城から話し掛けられ、思わず先輩に返事をしてしまうところだった。危ない危ない。
「じゃあ、帰ろっか」
「え?」
「え? 駅まで送ってくれないの?」
俺が困惑していると、本城はそんなことを言ってきた。本城の中では俺が駅まで送ることは決まっているようだ。いや、3人もの生徒が行方不明になっているのだから、不安なのかもしれない。以前本城を救った俺ならきっと送ってくれると信じて疑わないのだろう。
でも、まだ先輩との話も途中だからな。
チラリと先輩の方を見ると、コクコクと頷いていた。『可愛い後輩を送ってあげて』という事だろう。
まあ、隠れ美少女、今はコンタクトにして隠れてはいないが、最近注目を浴び始めた本城と一緒に帰るのはやぶさかではない。
俺はOKの返事をし、本城を駅まで送った。
道中当たり障りのない話、部活の話とか勉強の話、いつもどこで遊ぶのか、などの話をしていたが、別れる直前、それらをすべて忘れてしまう程衝撃的なことを本城が言っていた。
「お昼、勇人君を探して一年生の教室の前を通った時に聞こえちゃったんだけど、行方不明になったのって櫻木先輩の妹さんだったみたい」
言うまでもなく、俺以上に先輩の方が驚いていた。
今にも飛び出して行きそうな先輩を俺は引きとめた。
『どうして止めるの!? 三葉が行方不明だなんて知らなかった! どうして教えてくれなかったの!』
「俺も今知ったところです。知っていたら教えてましたよ」
『早く捜さなきゃ!』
俺の声が聞こえていないのか、先輩は再び飛び出して行こうとする。
「落ち着いてください! 警察が捜索してもまだ見つかっていないんです、先輩が当てもなく捜し回っても時間の無駄ですよ。それとも、何か心当たりがあるんですか?」
『そ、それは……』
プロが捜しても見つけられないのに、素人の先輩が捜し回ったところで見つかるはずがない。手掛かりがあれば話は別なんだけど、それもなさそうだ。先輩一人を行かせても意味はないだろう。
とはいえ、今の状態の先輩を放っておくことも出来ないし。
手掛かりか……あるとするれば、やっぱりあそこか……。
「わかりました。俺も一緒に捜しますよ」
『ホントに!? ありがとう!』
先輩は喜び余って抱きついて来た。しかし、何かを思い出し寸でのところでとどまった。
『あ、でもバイトはいいの? 勇人君、これからバイトでしょ?』
「バイト? どうして俺がバイトしてることを知ってるんですか?」
『え!? あ、いや、高校生って言ったらバイトするでしょ?』
「します、かね? 先輩もしてたんですか?」
『私は……してなかったかな』
「……」
『勇人君、バイトしてそうな雰囲気だったのよ!』
「雰囲気、ですか?」
『そうそう!』
この人、なんだか適当なことを言っているような気がする。まあいいか。別に先輩にバイトを知られて困るわけでもないし。学校には無断でしてるからそっちに知られると困るけど、先輩から漏れる心配はないからな。
『で、バイトなの?』
「ええまあ。でも、今日は休みます。先輩を放っておけませんから」
『勇人君……ありがとう。本当にありがとう。後できっとお礼するから』
「いいですよお礼なんて。それに、もともと休むつもりでしたから」
『そうなの?』
「はい。先輩と話がしたかったし(それに……)」
『そうだったんだ、ゴメンね、気を遣わせちゃって』
「いえ、それはいいんですけど。でも、約束して下さい。一人で突っ走るようなことはしないって」
『(心配してくれてるんだ……)うん、わかった』
先輩との話は後でするつもりでいた。本当は三郎たちの足跡を辿ってみようと思っていたんだけど、まさかこんなことになろうとは……。まあ、同行者が出来ただけでやることは同じだから構わないか。
俺はバイト先に電話を掛け、体調不良を理由に休みを取り付けた。そして一度家に帰り、自転車に乗って目的地へと向かった。
ちなみに、先輩は荷台に乗っている。
さすがは幽霊、重さを感じない。
『うわぁ、二人乗りなんてはじめて。見つかったら怒られちゃね』
と、不安を隠すように努めて明るく振舞っているが、三葉の事が心配で仕方がないことはわかっている。そんな気遣いしなくてもいいのに。
それに、先輩は誰にも見られないでしょうが。
自転車の二人乗りは怒られるどころか違法なんだけど、幽霊だからOK、だよな?
自転車を走らせ目的地に到着した。
ここはOロードのSトンネル。三郎たちが訪れたであろう場所だ。
二人乗りはダメ! 絶対!