再会?と遭遇1
はい、続きです。ていうか、本日2話目?
「ちょっと聞いてくれ!」
朝のホームルーム前、例の如く三郎が教室に駆け込み教卓をバンと叩き注目を集める。またくだらない噂の類だろう。そう思い俺は話半分に聞いていた。一応聞いてやるあたり俺も時間を持て余していたようだ。
「さっき職員室の前で聞こえたんだけどさ」という出だしに、「盗み聞きしてきたのかよ」という雅治のツッコミが飛ぶ。三郎は「まあまあ」と言って受け流し、続きを口にした。
「何でも、一年の女子が行方不明になったらしいんだよ。警察でも捜索してるんだってよ」
家出という線が濃いのだが、その子の友達、クラスメイト、知り合いに連絡を取っても来ていないという事らしい。となると、事故の線が浮上するのだが、事故があれば警察の方から先に連絡がきているはずだ。次に誘拐の線が濃くなるのだが、家の方にはそう言った電話は来ていないらしい。ただ単にまだ来ていないだけで、そのうち身代金の要求をしてくるかもしれない。しかし、問題はその子が女の子だという事だ。乱暴とかされていないとも限らない。あまり想像したくはないが、時間が経っているとなると……。
なんだか朝から気が滅入る話を聞いてしまった。
みんな心配そうにしていたが、三郎の話が終わると興味を失ったのか、各々別の話をしはじめていた。所詮は他人事、知り合いであればもっと心配もするだろうけれど、如何せん三郎の話にはその生徒の名前がなかった。だから、今一現実味に欠けるのだろう。現実なんだけどな。
「勇人君はどう思う?」
俺の事を勇人君と呼ぶのはこのクラスで一人だけだ。横を見ると、本城が心配そうな顔をして立っていた。つい先日、自分も命の危機に晒されたからだろう、その行方不明の生徒の事が心配なようだ。とはいえ、それを俺に訊かれても返答に困ってしまう。「ん~」と考えるふりをしつつ、言えることは先に考えていたことだけだった。もちろん本城相手に乱暴云々は言わないけれど。
「そうよねぇ、やっぱり誘拐かぁ」
本城は難しい顔でうんうん唸っている。本城が悩んでも仕方のない事なのだが、悩むのは本人の自由、好きにさせておこう。後は税金から給料をいただいている警察が市民の為に奔走してくれるだろう。
「よっ! お二人さん、今日も仲が良いねぇ」
一仕事終えた感のある三郎が意味不明な事を言ってきた。どう見ても普通にクラスメイト同士で会話をしている風にしか見えないだろう。他にも男女で話している者たちもいるってのに。
あの事件後、「勇人のことを『勇人君』って呼ぶ女子は本城さんだけだぞ。二人付き合ってんの?」と三郎が言ってきたことがあった。もちろん速攻で否定した。本城の名誉にも関わるからな。いや、別に俺と付き合うことが不名誉というわけではないんだけど、本城にも好きな奴がいたら悪いだろう? だから、そういう根も葉もない噂は流されたくはない。本城にしても、俺に命を救われたことで少し親しくしようというただそれだけのはずだ。俺もそれをたてに本城と親密になろうとは思っていない。
しかし、三郎はしつこく疑っているようだ。
本城は「え~普通だよ~」と軽く受け流している。ほらな?
三郎は「そう?」と首を傾げている。しつこいんだよ!
「二人、急に仲良くなったって噂になってるんだけど」
嘘だ。そんな噂は聞いたことがない。こいつがこれから広めようとしているに違いない。まあ、仲良くなったくらいの噂なら別に構わないが、尾ヒレが付きそう心配なんだよ。特にこいつの噂は。
伏し目がちに困った感じの本城を横目に、俺は三郎に言ってやった。
「変な噂流すなよ。このあいだの噂話だって、いろいろ混ざってただろ」
話しを逸らす意味でそう言うと、三郎は「このあいだ?」と首を傾げていた。が、すぐに思い到ったのか、「ああ」と言って納得した。
「ホームのほう子さんの話か」
そう、あの話は法子さんと犯人の男の話がごっちゃになっていた。あれでは法子さんが可哀想だろう。おまけに被害者である法子さんが悪霊呼ばわりされるなんて我慢ならない。
「そりゃ噂だからな。噂なんて、広まれば広まるだけ脚色されていくもんだろ? 元ネタからずいぶん変わってることなんてざらだって」
確かにそうだけど、だからといって納得も出来ない。でも、法子さんの名誉を護る方法が見当たらず、俺は口を噤んでしまった。あの事件では法子さんの存在は知られていないからどうしようもない。
俺がもどかしい思いをしていると、三郎はお構いなしに話を続けていた。
「それ系の噂なら他にもあるぞ。『人食い試着室』とか『無限トンネル』、『不帰の家』、『桜の木の下の死体』、『悪霊の棲むホテル』、他にも……」
どこかで聞いたことのあるようなものから聞き慣れないものまで、適当に聞き流していたが一体いくつ噂があるんだ? 全く呆れてしまう。誰がこんな噂を流しているんだか……こいつか!?
三郎は「ん?」というアホっぽい顔をしている。
「トンネルと言えば」と、話を聞きつけた雅治が話しに入って来た。
「今朝Oロード付近に住んでるヤツが言ってたんだけど、あのトンネルあたりを警官がウロウロしてたんだってよ」
警官相手にウロウロという表現はいかがなものかと思うけれど、その付近で何か事件でも……あ、例の行方不明の女の子か。彼女の捜索をしていたという事だろうか? 夜になるとあの辺りは特に暗くなる。女の子の一人歩きは危ないだろう。警官が捜索しているのなら、あのトンネル付近で行方をくらました可能性が高いのかもしれない。
「無現トンネルか」
三郎がボソリと呟いた。
「はぁ?」と怪訝な視線をぶつけてやると、三郎は「まあ、聞けって」と、いつもの調子で語り出した。
「無限トンネル。無限に続くトンネルは、いくら進んでも出口に辿り着くことができない。人を惑わす妖怪か、はたまた宇宙人の仕業か、それは誰にもわからない。一度足を踏み入れると二度と抜け出すことは叶わず、死して出ることも叶わない。死体は未来永劫トンネルの中で眠り続ける」
三郎はおどろおどろしい感じに締めくくった。
そこへ、
バシッ
「あいたっ!?」
三郎は頭を叩かれ、頭を押さえながら後ろを振り返った。
「いつまで喋ってるつもりだ! ホームルームはじめるぞ! 席に着け!」
と、クラス担任の山田先生が仁王立ちしていた。
他の生徒はちゃっかり席に着いており、本城と雅治は慌てて自分の席に戻る。三郎はペコペコ頭を下げながら席に戻って行った。俺は元々自分の席にいたから、すました顔で座っていた。
担任からは、三郎の話を裏付けるように生徒が行方不明になった旨が話され、気を付けるようにと注意喚起された。
その日の放課後、三郎が「Oロードに行って見ようぜ」と言い出した。雅治も乗り気なようで、「いいぜ」と二つ返事でOKしていた。「無限トンネル」の真相を掴む為か、行方不明の女の子を捜そうというのか、どちらにしてもただの好奇心にしか見えない。ゴールデンウィーク前だから妙なテンションになっているに違いない。
学校からOロードまでさほど遠くない。自転車ならすぐに着く距離にある。三郎と雅治は家が近いからすぐに自転車を取りに行ける。幸い俺も今日は自転車で来ていた。予定がなければすぐにでも行けるだろう。しかし、俺にはこれから用事がある。二人に付き合う暇はないのだ。
「悪い。俺これからバイトだから無理だ。それにこの後雨降るらしいからお前等もやめた方がいいんじゃないか?」
俺の言葉に二人は窓の外を覗き見た。
空は朝から曇り模様、夕方から夜にかけて雨だと天気予報では言っていた。当てになるかはわからないが、決めるのは二人だ。
「げ、マジか」、「どうする? やめる?」と二人は相談しはじめ、結局止めることになった。
すると、これからの予定が無くなり「今からどうする?」と二人で相談しはじめた。断った俺の事は眼中にないらしい。
少し寂しい気分にもなったが、時間が差し迫っていることに気付き二人に声を掛け教室を飛び出した。時間的にギリギリ、自転車で来ていなければ遅刻確定だった。
俺は駐輪場へ向かうと、自転車を駆り全速力でバイトへ向かった。
次話、遂にあの人が……って誰?