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本城玲奈

はい、続きです。というか、本城サイドです。

 私の名前は本城玲奈(ほんじょうれいな)、高校二年の16歳。

 私は今、ある男の子が気になっている。それは数メートル先を歩くクラスメイト、神野勇人(じんのゆうと)君。別に好きとかそういう感情ではないんだけど、少し気になることがあるのよね。

 それは数日前の事、あの櫻木先輩が亡くなった日の出来事だった。



◇◇◇



 G駅、今朝この駅で櫻木先輩が事故で亡くなった。どういう事故なのか詳しい事はわからない。鈴木君の話では電車に轢かれたとしかわからなかった。自殺、という声も聞こえて来たけど、そんなことはない。

 先輩はとても綺麗で優しい人だった。問題を抱えているような人ではなかった。自殺なんてありえない。きっと過って落下してしまったに違いない。

 どちらにしても、悲しいことにかわりはないんだけど。


(あれ? あそこにいるのは、確か同じクラスの神野君?)


 どうしよう、今年同じクラスになったばかりで、まだ挨拶程度にしか話したことないのよね。声を掛けるべきかな? 無視するのも明日気まずくなりそうだし。でも、どうして駅にいるの? 彼電車通学じゃなかったはずよね? 駅に何か用事でもあるのかな?

 神野君はじっと駅を見上げていた。そして、おもむろに財布を取り出すと、中身を見て溜息を吐いている。

 どこかに行きたいけどお金が足りない、とか? お金が足りないところって、よっぽど遠くなのね。どこに行こうとしてるのかな? ん~気になる。

 折角だから声を掛けてみよう。クラスメイトだし構わないわよね。


「あれ? 神野君? こんなところで何してるの?」


 ちょっとわざとらしかったかな? でもずっと観察してたなんて言えないし、こんなものよね。


「ん?」


 神野君がこちらに振り返った。夕日に照らされてその顔がはっきり見える。

 私が言うのもなんだけど、よく見ると平凡な顔だった。可もなく不可もない、目立たない感じね。


「だれ?」


 は? 今何と?

 私の聞き間違い、じゃないわよね? 「だれ?」って言ったわよね? どういうこと? クラスメイトの顔も覚えていないって言うの? クラス委員長になって少しは目立っているはずなのに。それとも地味な私なんて覚える価値はないってこと? なんて失礼なの!

 ううん、ダメ、ダメよ私。落ち着いて。折角同じクラスになったんだから、仲良くしなきゃ。


「誰って、失礼ね。クラスメイトでしょ!」

「え?」


 私! 全然落ち着いてないわよ! 声の端々に怒りが含まれてたわよ!

 あれ? 彼は手で何かを遮り、覗き込むように私を見て来た。

 彼の顔に手の影が覆いかぶさっている。

 ああ、夕日が逆光になっていたから、見えなかったのね。


「本城……」


 よかったぁ、名前覚えててくれた。それだけの事なのにこんなに嬉しいなんて、きっと振り幅の所為ね。落して上げる、なかなかやるわね神野君。

 でも、どうしたんだろ? 私の顔をじっと見てる。どこかおかしいのかな? ……ひょっとしてこれかな?

 私はポニーテールに束ねた髪を持ち上げて見せる。


「ああ、これ? ほら、今日の最後の授業体育だったから」


 体育で髪をおろしてると邪魔なのよね。

 あれ? 神野君、私をジロジロ見てる。これ似合ってないのかな? なんだか自信がなくなってきた。


「へ、変かな?」

「……」


 そこで黙らないでよ! 黙るってことはそうだってこと? 似合わな過ぎて絶句しちゃってるの? そうなの?


「神野君?」


 私は彼の顔を覗き込んだ。

 違うと言ってください。お願いします!


「え? い、いや、似合ってるからいいんじゃないか。まあ、見慣れないから少し違和感はあるけど」

「そ、そう?」


 彼は身体をのけ反らせながらそう言った。

 何ものけ反らなくてもいいじゃない。まあ、確かに少し近かったけど。

 でもよかったぁ、変って言われなくて。


「一度結っちゃうと跡が付くから解けないのよ。梳いても直らないし、この根元とか、先のクルンってなってるところとか、本当に直らないのよね」


 ってあれ? 反応がない。私の話には興味ないってこと? その割に、じっと私の顔を見て考え込んでるみたいだけど……何? そんなに見られると、居心地悪いんですけど。それとも、私に一目惚れしちゃったとか? ……あはは~そんなわけないわよね。


「な、何?」

「え? いや、なんでもない」


 なんでもないことはないでしょう? ずっと見てたじゃない。今はなんだか気まずそうにしてるけど、それでもまだ見てるのよねぇ。


「もう何なのよ。さっきから人の顔をじろじろ見て」

「あ、ごめん」


 彼はようやく視線を逸らした。


「別にいいけど」


 まったくなんなのかしら。私の事を好きって感じじゃないのはわかるけど……意味もなくジロジロ見られるのはいい気はしないわね。

 とにかく、話を戻しましょう。


「コホン。それで、神野君はこんなところで何してるの? 神野君電車通学じゃないわよね?」


 さあ、どこに行こうとしていたのか言いなさい。若さにかまけて如何わしい所へ行こうとしてたんでしょ? あ、如何わしいと言ってもゲームセンターとかそういう場所の事よ。あんな不良の溜まり場みたいなところで遊ぶなんて、絶対にダメよ! 学生の本分は勉強なんだから!

 さあ、言っちゃいなさい。さあさあさあ!


「用があるからここに来たんだよ」


 そりゃそうでしょ。私はその用とやらを聞いているのです。


「ふ~ん、用事ねぇ?」


 神野君は、「何を疑ってるんだよ」と言いたげな表情で見返してくる。怪しい、怪しすぎる。なにを隠そうとしているの?


「本城は今から帰るのか?」


 何それ、当たり前じゃない。あからさまに話を逸らしたわね。


「ええ、そうよ。そうじゃなかったら駅には来ないわよ」

「だよな」


 はい、そうですよ。……彼は一体何が言いたいの? 邪魔だから早く帰れって言いたいの? それ、なんだか腹立つわね。私と話すより如何わしい所に行きたいってことでしょ? わかったわよ、帰ればいいんでしょ、帰れば。話し掛けなきゃよかった。

 ……私は何をムキになってるんだろう? ただのクラスメイトを相手に、不思議だ。

 私が歩き出そうとすると、彼は妙なことを言い出した。


「よし、見送ってやろう」

「は? なんで?」


 意味がわからないんですけど。何を考えてるの? 怖いんですけど。


「まあまあ、俺もホームに用事があるんだよ」


 彼はそう言うと、券売機へと向かった。

 絶対嘘だ。私をさっさと追い返して、自分は如何わしい所へ遊びに行くんだわ。そうに決まってる。彼も不良に憧れる年頃なのね。あんな裏切り者放っておいてさっさと行こ。……ん? 裏切り者って何? 地味な者同士何か感じるモノがあったのかしら?

 私は首を傾げつつ、彼を放置してホームへ向かった。

 私の家は駅二つ先のO町にある。自転車でも通える距離だけど、遅くなると危ないからって理由で電車通学をしている。うちの親は心配性だ。私を狙う物好きなんているわけ……いないのかな? それはそれで、女としてどうなのかな? 少し落ち込む。

 私は上り方面2番線のいつもの場所、いつもの柱の側の乗車位置に立つ。最寄り駅で下りた時に改札が近いのよね。みんなそうしてるでしょ?

 ホームはいつも通りの風景だった。今朝人身事故があったとは思えない。乗客は何事もなかったかのようにホームに並んでいる。駅員からは多少緊張が見られるけど、それ以外は通常通りね。

 すると裏切り者が現れた。

 神野君が私の隣に立った。私に構わず用を優先すればいいのに。如何わしい所に行っても、もう私は関知しないから。

 私は彼を放置し、独り言をつぶやいた。


「さすがにもう運行してるみたいね」


 事故は今朝起こった。遺体がバラバラにならない限りは、現場検証なども長くはならない。

 櫻木先輩の体がバラバラになるところなんて想像もしたくない。もし自分がって考えると、背筋が凍る思いだわ。

 そんなことを考えていると、神野君が声を掛けて来た。


「ちょっと用事済ませてくる」

「え?」


 用事って、本当にここだったの?

 私は彼の背中を目で追っていた。彼は駅員と会釈をすると、柱の前で足を止めた。視線は下を向いている。その視線の先、柱の根元に花が手向けられていた。

 ひょっとしてあそこで? あの線路で櫻木先輩が?

 彼は瞳を閉じ手を合わせている。すごく真剣な表情だ。櫻木先輩と知り合いだったのかな? もしかして好きだった、とか?

 私の足は、知らず知らずの内に彼に向いていた。


「神野君、櫻木先輩と知り合いだったの?」


 私が声を掛けると、彼はビクッと肩を震わせた。私が近づいていたことに気付いていなかったみたいね。それだけ真剣に祈っていたのね。


「いや、今朝、ぶつかりそうになっただけ」

「え? それだけ?」


 それだけにしては、随分と熱心に祈っていたようだったけど。やっぱり好きだったことは隠したいのかな? 私と特別仲が良いわけでもないし、本当の事は教えてくれないよね。それとも、同じ学校に通っていた後輩として、先輩のご冥福を祈りたかっただけなのかな。


「まあ、少し話をしたから」


 それだけであんなに真剣に祈るとは思えないんだけど。


「へ~……じゃあ私も」


 彼のことはともかくとして、私は先輩には部活で随分お世話になった。尊敬する先輩だった。そんな先輩がこんなにも早く亡くなってしまうなんて……。

 私は瞳を閉じ手を合わせた。


「っ!?」


 ん? 神野君の息を飲む声が聞こえた。

 人が祈っている間は静かにしててもらいたいわね。

 ……。

 祈りを終え、私は彼に視線を向けた。さっきのは何だったのよ。

 神野君は凄い表情で私の顔を見ていた。驚き、驚愕? この世ならざる者に遭遇したかのような、青ざめた表情をしていた。


「な、何よ。そんな幽霊でも見るような顔して、失礼じゃない?」

「あ、ごめん」


 彼はそう謝ると、俯いてしまった。

 まったく何なのよ。私の顔がそんなに不気味だったの? 本当に失礼しちゃうわね。

 

「……」


 彼は黙り込んだまま、喋らなくなってしまった。

 少し言い過ぎたかしら? そんなに落ち込まなくてもいいのに。私だってそこまで怒ってるわけじゃないし。


「どうしたの? 大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。本城は俺が護ってやる」

「え?」


 神野君は真剣な面持ちでそう言ってきた。

 護るってなに? 何から? どういうこと? 落ち込んでたんじゃないの? それとも、私を傷つけたと思って責任を取ろうと? 責任って何? そう言う事なの?

 私の思考は混乱の中にあった。

 いやいや、落ち着くのよ私。そんなはずないじゃない。うん、ないない。

 彼は護るって言っただけじゃない。意味はわからないけど、きっと意味なんてないわよ。モテない女の勘違いなんて恥ずかしいだけよ。うん、ないない。

 私はブツブツ言いながら元の乗車位置に戻って行った。

 彼も私の隣に立つ。

 なんだろう、そわそわして居心地が悪い。

 チラリと神野君の顔を窺うと、真剣な表情で周囲を見ていた。

 何? その真剣な表情。凛々しく見えなくもない。

 ……っ!?

 目が合いそうになり、私はサッと視線を逸らした。

 この息苦しさは何? 本当に居心地が悪い。早く帰りたい。早く電車来ないかな。

 電車の到着を心待ちにしていると、


プルルルルルルル……


 と、電車の到着を報せるベルが鳴り響いた。そして「線の内側までお下がりください」というアナウンスが流れた。

 線路のはるか遠くに小さく電車が見えた。もうすぐ電車が入って来る。

 この居心地の悪さからもうすぐ解放されるのね。そう思うとなんだかホッとした。

 乗客が増え始め、電車がすぐそこまで入って来る。

 早く、早く、早く。

 早くコールを心の中で呟いていると、ガシッと腕を掴まれた。

 見ると、神野君が私の腕を掴んでいた。

 な、何? すごく真剣な表情をしてる。神野君の力強い手、このまま私をどこかに連れて行こうというの? どこかってどこ? ちょっと待って、まだ心の準備が……って、あれ?

 急に神野君の動きが止まった。どうしたんだろう? 表情も引き攣っているような……。

 そんな事を気にしていると、


ドスッ

「え?」


 気付くと私は、ホームから線路に落下していた。

 何が起こったのかわからない。

 ただ、すぐそこに電車が迫ってきていた。


「キャァァァァァァッ!?」


 死を目前にした私は、その恐怖に悲鳴を上げ……気を失った。



◇◇◇



 なんだろう? ドッドッドッって音が聞こえる。太鼓の音? それにしては音が小さいし籠って聞こえる気もする。


「ん……」


 なんだか少し温かくて気持ちいい。


「……城! ……夫か?」

「う……ん……」


 誰かに呼ばれた気がする。

 うるさいなぁ、折角気持ち良く寝てるのにもう少し寝かせてよ。

 私は寝心地のよさそうなポイントに寝返りを打った。

 ……あれ? うちに抱き枕なんてあったかな? まあいいか……。

 ……

 ……

 ……ん? 私、寝てるの?


「大丈夫か―――?」


 どこか遠くから声が聞こえた。


「はい、大丈夫です!」


 神野君の声? しかも近い。すぐ近く。目の前と言っていいほど近くで聞こえた。うるさいほどに耳に届いた。

 私は恐る恐る目を開いた。

 え?

 私は咄嗟に目を閉じてしまった。

 何? なんなの? 何が起こってるの?

 私の目の前に神野君がいた。いたというより、この体に伝わるこの感触、このぬくもりは間違いなく抱きしめられている。私、抱きしめられてるの!? 違う! 抱き枕だと思って私が抱きしめてた!?

 お、お、お、落ち着け私! 冷静に何が起こったのか整理するのよ。

 確か私は、家に帰ろうと電車を待っていたのよ。それで、電車が来て、神野君に腕を掴まれた。

 うん、そこまでは合ってる。

 その後は……っ!?

 そうだ、私ホームから落ちたんだ。それで気を失って……え? どうして生きてるの? 電車はすぐそこまで入って来てたのに。それに神野君もここにいるし。まさか、神野君も落ちて、一緒に死んだの? いやいや、この温かさ生きてる証拠でしょ。

 つまり、私は神野君に助けられたの? 本当に護ってくれたの?


「眼鏡してないと、意外と可愛い顔してんだな」


 え? 今何と?

 私の聞き間違いじゃないわよね? 勘違いじゃないわよね? 私が可愛い? そう言ったの? 嘘!? ど、ど、ど、どうしよう。そんな事言われたのはじめてなんだけど。顔が熱い、鼓動が凄いことになってる。聞かれたらどうしよう。もうすでに聞こえてる? あ、これは私のじゃなくて神野君のだ。

 私の思考は混乱の中にあった。

 と、とにかく落ち着こう。聞かなかったことにして落ち着こう……無理だ。でも落ち着こう。深呼吸して落ち着こう。

 すぅぅぅはぁぁぁすぅぅぅはぁぁぁ……

 よし、落ち着いてきた。たぶん大丈夫。

 私は少し目を開けてみた。

 神野君は何やらキョロキョロしている? 何かを探してるの? よく見えないわね。視界がぼやけてるし……あれ? 眼鏡は? ホームから落ちた時に落としちゃったのかな? 神野君、私の眼鏡を探してくれてるのかな? ん~困ったな、これじゃ確認できないじゃない。いやいや、目が駄目なら耳があるじゃない。聞き耳を立てて確認するのよ。

 ……神野君、一人でブツブツ何か言ってるわね。何を言っているのかまではわからないけど……あれ? こんなに近いのにどうして聞こえないんだろう?

 結局、神野君に助けられたこと以外、何もわからないってことがわかったわね。

 と、とりあえず、ずっと神野君に抱きついたままってわけにもいかないし、たった今目が覚めた感じに起きることにしよう。



◇◇◇



 駅員さんに救出された私たちは、駅の事務所で治療を受けた。

 私は運よく打ち身と多少の擦り傷だけで済んだ。

 その後の事はあまり思い出したくない。

 だって、警官も駅員さんも、私が自殺しようとしたと思ってるんだもん。どんなに否定しても信じてくれないし、まるで犯罪者扱いだったわ。でも、神野君だけは信じてくれた。そして、私を突き落とした犯人を見つけてくれた。それが誰なのかは、視界がぼやけててよくわからなかったけど。

 私は嬉しかった。神野君はただ一人私の事を信じてくれた。そして私を護ってくれた。神野君がこんなに頼り甲斐のある人だとは思わなかった。第一印象を取り消さなきゃね。

 この日はとりあえず解放され、神野君にお礼を言って帰宅した。



◇◇◇



 それ以来神野君とは話していない。ううん、学校で体の調子を聞いてくれたけど、それっきり神野君からは話しかけてこなくなった。以前と変わりなく、挨拶程度の接点しか持てていない。代わりに別の男子が声を掛けてくるようになったけど。福島君とか鈴木君とか。それはきっと、被害者ヒーローインタビュー的な一過性のもの。そういうのはあまりうれしくない。

 やっぱり、あれは聞き間違いだったのかな? 私が可愛いなんてあるはずがないもんね。本当に可愛かったら彼から話しかけて来るはずだから。まあ、自分から話し掛ければいいって話なんだけど。どうも気まずくてタイミングを逃しちゃうのよね。

 とはいえ、気になることもあるし、今日こそは話し掛けるわよ。

 と、私はストーカーよろしく、神野君の後を歩いているんだけど、このままいくとG駅に着くわね。やっぱりあそこに行くつもりなのかな?


 案の定、彼はG駅の上り線のホームに向かっていた。

 2番線のホーム、あの花の手向けられている柱の前に彼はしゃがみ込んでいた。

 今日もブツブツ何か言っている。相変わらず何を言っているのか聞き取れない。

 ……気になる。

 何をブツブツ言っているのか、どうして聞こえないのかすごく気になる。


「勇人君? こんなところで何してるの?」


 私は勇気を出して声を掛けた。しかも下の名前で。嫌がられるかな?


「……本城。何って、見ればわかるだろ?」

「それは……まあね」


 気付いてない!? いや、私だって気付いてくれたのは嬉しいけど。

 私は眼鏡をやめコンタクトに変えた。あの言葉を真に受けた結果なんだけど、勇人君の反応はいつもと変わらない。やっぱり聞き間違いかぁ。

 少しガッカリな気もするけど、まあいいわ。

 私は勇人君の隣にしゃがみ手を合わせる。

 私は運がよかった。勇人君があの時、「見送る」と謎の行動をしてくれたおかげで、私は死なずに済んだのだから。ううん、ひょっとしたら櫻木先輩が彼を導いてくれたのかもしれない。「私の後輩を助けてあげて」と。……非現実的過ぎるわね。でも、そう考えた方が納得もできるし、何よりロマンティックでしょ?

 私はその感謝の言葉とお別れを告げた。


「ところで本城。さっき下の名前呼ばなかったか?」


 気付いてた!?


「え!? ダメ?」


 なの? 何も言わないから、てっきり構わないのかと……。


「まあ、別にいいけど」


 よかったぁ。若干素っ気ない返事だけど。仲良くなる切っ掛けには充分よ。

 後はもう少し勇気を振り絞るだけ。


「わ、私の事も、玲奈って呼んでくれていいから」

「え~いいよ、今まで通り本城で」

「なんでよ!」


 思わず本意気でツッコんでしまった。だって、そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。私はただ、もう少し仲良くなりたいだけなのに。


「なんで怒るんだよ!? ……まあ、気が向いたらな」


 勇人君はぶっきら棒にそう言うと、踵を返し歩いて行く。

 ひょっとして照れてる? ……まさかね。

 とりあえず、私の計画(勇人君と仲良くなろう計画)も一歩前進、かな。


「うん」


 私は彼の後を追い、隣に並んで歩いて行く。

 彼の左手首に巻かれたミサンガを気にしながら……。


(あれ? どこかで見たことがあるような、ないような? こんなのしてたかな?)


この話はほぼ同じですね。


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