六話
全然話が進まない…
烏兎と沙由里が何とか那由多の誤解を解いたころ、辺りはすでに暗くなっていた。
「はぁ、疲れた…」
「激しく同意…まさかあんなに話が拗れるとは流石の我も思わなかった」
憔悴しきった表情の烏兎と沙由里。
それに少し慌てて那由多が言う。
「それはお前達が誤解を招くような体勢をしているからだろう!普通男女が部屋であんな状態だったら恋仲なのかと誰も思う!…まさか…もしかして私への当てつけか?この歳になっても浮いた話一つないという私への…いや、それともこれが今の若者にとっては普通のスキンシップなのか……」
後ろへいくにつれてどんどんと音が小さくなり、終いにはごにょごにょと呟く那由多。
その姿に烏兎と沙由里は顔を見合わせ苦笑した。
「ところで教官。そもそもなんで烏兎が私の部屋に来るんですか?私の知ってる限り異性で同じ部屋になってる人っていないんですけど…」
質問する沙由里。
烏兎も薄々おかしいとは思っていたのでうんうんと頷く。
「む。それを私は言いにきたのだった。実は字戸が編入するにあたって空いていた寮の部屋が火宮の部屋しかなくてな。それで仕方なく相部屋させることになったのだ」
「この時期に編入ですか?」
時は既に九月上旬。同年代である沙由里達が入学したのは四月。すでに五ヶ月もの日が過ぎていた。
「あぁ、何でもつい最近突然ギフトが発現したとの連絡があってな?それなのにあんな模擬戦をするんだから末恐ろしいなぁ?字戸」
ニヤニヤしながら烏兎の方をみる那由多。
多分那由多はそれが嘘であるということに気づいているのだろう。
那由多の表情にイラッとしながらも一方では美人のニヤニヤ顔もいいな、と考える烏兎。
「へーーーえ?」
そこにかかるどこか含みを持った沙由里の声。
「突然ギフトが?発現した?それも最近ねぇ?」
ゴゴゴゴ、と鳴る音を幻聴する。
冷や汗が止まらない烏兎。
沙由里と目を合わしたらマズイ!と無意識に視線を左にやる。
「あなた、やっぱり何か隠してるでしょー!!」
再び掴みかかって来る沙由里。
先ほどの二の舞にならないよう必死で逃れようとする烏兎。
「隠しごとなど何もないぞ!?本当だ!」
「絶〜っ対嘘!本当ならなんで目逸らしてるのよ!」
「!??めめめめ目など逸らしてない!見間違いだ!」
「ならこっちを見なさいよ!」
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーと喚く二人。
だが息はぴったり。
その証拠に二人は言い合っている割にどこか楽し気な顔をしている。
しかしそんな二人の側でぷるぷると震える者が一人。
「私の目の前でいちゃつくなーーー!!!」
那由多が怒って帰ってしまったのでまた部屋には沙由里と烏兎の二人きり。
何と無く気まずいような気分になる二人。
「…あなたって今日はこれから何か予定あるの?」
沙由里が問う。
「いや、もう今日は今から寝るだけだが?」
会話によって若干気まずさが紛れどこかホッとする烏兎。
「ふーん、そうなんだ。…なら丁度いいものがあるの」
「?」
ガサゴソとクローゼットの中から縄を取り出す沙由里。
「ちょっと待て!?何だその縄は!??」
邪な妄想が脳裏によぎり、慌てる烏兎。
大体何故クローゼットに縄があるのだろうか。
「それはね…こうするのよ!」
「いや、いや、やめて……アーーーーーー!!!!」
「あなたも男だしね。襲われたりとかしたらたまったもんじゃないから簀巻きにしておくわ」
ふーっ、と息を吐きながらやり切った表情で汗を拭う振りをする沙由里。
その足元には布団と縄でぐるぐるまきにされたさながら芋虫のような烏兎の姿が。
「えっ!?ちょっ我このまま?!今日我このままなの?!?」
当然その声は無視される。
結局烏兎はその日簀巻きのままで寝ることになった。
***
翌日。
簀巻き状態で目を覚ました烏兎は身をよじらせてゆっくりと上体を起こす。
既に沙由里の姿はない。
きっと学園の授業に受けに行ったのだろう。
そばにあったテーブルの上には沙由里の手作りと思しきサンドイッチと何やら書き置きがある。
どうやら沙由里は、昨日烏兎が荷物も食料もまだ寮に持ち込んではいないと言っていたのでわざわざ朝御飯を作ってくれたようだ。
「全く。書き置きを残す前に縄を解いてほしいものだ」
愚痴を垂れながら人間とは思えない気持ちの悪い動きで布団から抜け出し、書き置きを見る。
『もし出かけるなら戸締りよろしく。机の上のサンドイッチは食べてくれていいわよ。あともし私の物何か漁ったら殺すから。』
「…む」
思考を読まれていたことに驚く烏兎。
彼は部屋を物色するつもりだったのだ。
沙由里なら本当に殺りかねない、と思ったので本日の予定を町に繰り出すことに変更した。
サンドイッチを食べる。
瑞々しいトマトとレタス、そしてチーズの旨味が口の中で混ざり合い、至福のハーモニーを奏でる。
パンの部分にマスタードを塗ってあるのもアクセントになって良し。
さらにマスタードのおかげでパンがしっとりしているので食べやすい。
シンプルながらも沙由里の料理の腕が良いことがわかる一品だった。
「……美味いな」
学園都市に来てから食ったものの中で一番美味いかもな、と烏兎は呟いた。
次回、とうとう町へ繰り出す烏兎!そこで烏兎は怪しい黒づくめの男を見つける!その男を尾行していると、怪しい取引を見つけてしまう烏兎!だがその背後には黒づくめの男の仲間が忍び寄っていて……!!……みたいな予定(嘘)