三話
注:ピラミッドは四角錐です
3話になってようやく気づいた(爆笑)
「……いくぞっ!」
気合一新、烏兎は最も与し易そうな一人を狙って駆け出した。
相対する敵は六人。内訳は後衛と思しき者が三人、盾役が一人、攻撃役が一人、そして攻撃と盾をどっちもこなす金髪碧眼の少年。
狙うは後衛の一人。
だがそれを許す都市貴族の末裔達ではない。
「暴君の鎧ッッ!!」
金髪碧眼の少年が吠える。
その華奢とも言える肉体が瞬時に中世の騎士が纏うような全身鎧に覆われる。
獣にも似た意匠を施された巨大なその鎧は刺々しいフォルムをしており、その見た目は最早騎士の鎧というよりも怪物の外骨格と言われた方がしっくりくるほどのものだ。
その大きさは装着している少年の二倍はあろうか、三メートルほどの巨躯を誇る。
そんな怪物がその大きさに見合わぬ速さで烏兎へ迫る。
「っちっ!」
烏兎は攻撃対象として狙っていた後衛の一人を即座に諦め、回避行動をとる。
だが鎧騎士は空中で軌道を変えてホーミング。
暴君の鎧から放たれる拳の一撃は重い。
まともに受けるには少しヘビーだと判断した烏兎は平たい三角錐を盾の様に扱い斜めに攻撃を受けることでダメージを軽減する。
金髪碧眼の少年のギフト、暴君の鎧はその発現時間こそ短いものの、強力なものだった。
背中に噴射機が付いておりその動きは予測不能。気を抜けば一瞬で三角錐の防御を抜けて来る。
拳を受けたと思えば既に横に移動しており、蹴りを仕掛けてくる外骨格の化物。
「お前はどこの機動戦士だ…ッ!」
軽口を叩きながらも烏兎の顔に余裕はない。
金髪碧眼に注意を向けながらも他の学生にも気を払わなければならないからだ。注意を外せば即座に盾役の後ろから攻撃役が飛び出してくる。
「フッ!!」
サムライの様な服装に制服を改造した少年が手に持った刀を振るう。
「あーー!こなくそっ!」
回避は間に合わない。咄嗟に防衛に回していた三角錐を自分に迫る刀にぶつけ回避する時間を稼ごうとするも。
ズバン!!!
「どんな火力してんだ侍いいいっ!?」
驚きのあまり口調が乱れる烏兎。
「ははは!そいつのギフトは両断の悪戯!なんでも斬ることができるんだよ!」
「うっさい!黙ってろ機動戦士!」
咄嗟に作ったため本気で構築した三角錐ほどの硬度はないものの、今まで圧倒的な硬度を有し、S級エネミーの攻撃さえも凌いだ三角錐を斬り飛ばされる。
そしてその剣速は衰えを知らない。
だが烏兎は斬られる寸前に刀の側面に三角錐をさらにぶつけ、斬撃の軌道を反らしてこれを回避。
同時に槍の様な形状をした三角錐を侍に向かって飛ばす。
高速で飛翔する槍が侍を貫こうとする。
「まずは一人っ!」
殺った!と烏兎が喜ぶも、侍に槍が当たる寸前に盾を持った大柄な厳しい顔つきをした青年が滑り込み、その盾が光ると同時にぬるりと槍を滑らせその一撃を反らす。
「んなっ!?」
これには烏兎も絶句。
盾の青年もまた超絶技巧とギフトの持ち主。
そしてその隙を暴君は見逃さない。
噴射機で増幅された神速の蹴りが烏兎に炸裂する。
「う…おっ…!!」
直前に盾型の三角錐を差し込んだもののその威力は絶大。
「その盾が破れないならそのまま圧し潰してやるだけだ!!」
暴君の咆哮。
浮遊する三角錐の盾が押し込まれる。
咄嗟に盾を支えた手がみしりと軋む。
五メートルほど後方に吹き飛ばされる烏兎。
砂煙が舞う。
「くそっ!その鎧反則だろ!」
体勢を整え愚痴を吐く烏兎に対し、鎧の発現時間が過ぎ、生身に戻った暴君が言う。
「お前の三角錐も大概だがな平民。…だが勝つのは僕らだ。」
その言葉が発せられるよりも早く後衛三人の攻撃が飛ぶ。
稲妻、氷、毒でそれぞれ構成された三本の槍。
その威力も凄まじいが付属効果が厄介。
それらのどれもが行動阻害を目的としたものだと悟る。
もし食らって動きが悪くなれば袋叩きだ。
(これは食らったらマズい!!)
烏兎は瞬時に前方に三角錐を集め防御。
衝撃、だがそれは防ぐことが可能な範疇。
防ぎきった、そう烏兎が確信した時。
「平民。これで、詰みだ」
響く勝利宣言。
その瞬間に気付く、背後で膨れ上がる殺気。
同時に放たれる背後からの神速の居合。
砂煙が立ち込めた時、侍の少年は一時的に烏兎の視界から外れた隙に回り込んでいたのだ。
(本命はこっちかよッッ!??)
土壇場で気付くも最早回避するには遅すぎた。
烏兎が三本の槍を防御することを見据えた上での戦略。
この瞬間、確かに彼らは烏兎を上回った。
暴君達の勝ちだ。
……と誰もが想像した。
「惜しかったな。我が相手でなければその策は完璧だったぞ」
烏兎の首を狩ろうとしていた凶刃は烏兎の手前十センチほどの位置で止まっていた。
「「「……!!」」」
「なっ!?どういうことだ!?何故動きが止まる!??」
上がる驚愕の声に烏兎は愉悦の笑みを浮かべた。
「ふふふ、ふはは、はーはっはっはっはァ!!!簡単なことだ!目に見えないくらい小さい三角錐で止めたのだ!!」
本当はこの技を見せるのは想定外だったがな、と小さく呟くが、その言葉は少年達には聞こえていない。
その首元には目に見えるか見えないかといったほどの極小の三角錐が無数に存在し、侍の刀を抑え込んでいた。
刀の両方の側面を無数の三角錐で挟み込むことで固定し、さらには侍の手首ごと抑え込んでいるため、侍のギフトである両断の悪戯は発揮されない。
「我の能力、はるか偉大なる三角錐はひたすら硬い三角錐を生み出し操る能力だ。さらに言うと形や大きさもある程度の応用は利く」
ヒントは出していただろう?と嗤う烏兎に。
「くそがっ!暴君の鎧!!」
異形の騎士が迫るも。
「そして我はこの小さな三角錐を模擬戦が始まる前からそこかしこに撒き散らしている。呼吸をして吸い込んでも気付かないくらいに小さい三角錐をだ。君達もこれからは毒ガス攻撃みたいなのには気をつけなさい。」
親指で音を鳴らすと。
「これで王手だ」
その合図で体内に潜む三角錐が暴れ出す。
そして相対する六人の体から無数の三角錐が飛び出し血の雨を降らせた。
「勝負は戦う前からついているのだよ!ふはははははははは!!」
凄惨な現場を引き起こしておいて満面の笑みで勝利のVサインをする烏兎を見て。
馬鹿の方だったか…と那由多は頭を抱えた。
主人公の能力が今明かされる!!
次回は那由多視点……っぽいのが書けたらいいなぁ