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物見の儀

今日はおまけがあります。

おまけは17時前後に更新する予定です。

 なにやら口の中でモゴモゴとつぶやいてから、カーモリア学院長が次々と武具を私の前にかざしていく。


 剣、槍、槌、盾、杖。


 私にはなにも感じられない。

 でもこうすることでユースとしての特性がわかるんだ。


 一巡して、また剣がかざされた。

 どうしてなのか学院長は眉根を寄せている。


 もう一度、剣、槍、槌、盾、杖の順番でかざされる。


「……おかしいわね」


 あんまり不安になるようなことを呟かないで欲しいなぁ。

 小首を傾げる学院長の首筋に武印らしきアザが二つ見えた。

 つまりこの人は少なくともツーユースってこと。

 イーサほどではないにしても、学院長ともなるとレアなユース持ちなんだなぁ。


 講堂内がざわざわしている。

 私の物見の儀が始まってかなり時間が経っているんだけど、結果はまだ出ないんでしょうか?


 実は私には特別な能力が隠されていたりして!?

 私が知らないだけで、実はすべてのユースを宿しているとかでもいいんですよ?


 いいね、いいね。特別なのってあこがれちゃうよね!

 だから学院長は慎重に慎重を重ねて確認してくれているとかとか!


 イーサやトゥシスみたいに複数のユース持ちだとなにかと有利だろうしね。お仕事だってより取り見取りじゃないかな。

 そしたらお給料が一番いいところに就職して、安定した生活を送るんだ♪


「……ふう。参ったわね」


 言葉通り学院長は困ったような表情をして私を見ている。


「貴方のユースの反応なんだけど、よくわからないのよ」


 あ、講堂のざわざわがさらに大きくなった。


「たぶん、ブレイドのユースだと思うんだけど……」


 愛用の剣以外はさっぱりだけど、逆に言えば愛用の剣を使う限りは強いんです。

 ええ、それはもう迫りくる魔獣だってばっさばっさと斬り捨てますから。


 それに王都に来る途中ではソウジュといっしょにミラージュパイソンっていう上位危険種だって倒してますし。

 最期は見てないですけど、少なくとも瀕死にはしておいたので。


 だから私がブレイドのユースなのは間違いない……はずです。


「ブレイドっぽい反応はあるんだけど、それがとても不安定なの。反応もかなり集中していないと感じられないぐらいだし、こんなの珍しいのよ。

 ダブルやトリプルの可能性も考えたんだけど、そういう感じでもないのよねぇ。なんなのかしら」


 ヒュンヒュンと私の目の前を儀式用の剣が行きかう。


「本来、ユースは該当する属性の武具であれば万遍なく扱えるものだけど、ごくごく稀に特定の武具とだけスバ抜けて相性がいい人がいるの。だから貴方も同じなのかもしれないわね。もっともそういう人は厳密にはユースと呼ばないんだけど」


 なら私もユースじゃないってことですか?

 それは困るんですけど……騎士になって安定収入を得る夢が……。


「長いことこの儀式をやっているけど、こんなことは初めてよ。ユースの才があればいずれかの武具に必ず反応が出るものだから。珍しいこともあるものね」


 学院長は抜き身の剣を肩に担ぐ。


「まあ、サダーシュ=シュラインベースはブレイドでいいでしょう」


 そんなぞんざいな言い方しないでくださいよぉ~。





 教室に向かう間、私たちは注目を集めていた。


 イーサとトゥシスには羨望の眼差しが向けられている。

 フォーユースにツーユースでガードのダブルなんていう超エリートでかつ見目も麗しいとくれば耳目を集めないはずがないわけで。


 最後の一人である私には「なんでこんな奴がいるの?」で間違いない。

 そりゃ、私はぶちゃいくでぺちゃぱいだけどさ……ユースについてだって学院長から反応が不安定で珍しいって言われちゃうしさ。


「どうかしたの、さっきから元気がないようですけど」


「聞いてやるな、お嬢。こいつは落第生と認められたようなものなんだからな」


 グサッ。

 どうして人が一番言われたくないことを平気で口にするのよ。


「もっとも物見の儀だって絶対じゃない。それはお嬢だって知っているだろ。

 実際、俺がダブルなのがわからなかったわけだし」


「そうね、そうだったわね。

 でもあの子とサダーシュは随分と違うように思うけど。サダーシュは心も体も健康なようだし……」


 誰の話をしているんだろうと聞こうと思った時には教室についていた。


「あれ? トゥシスも同じクラスなの?」


「クラスは一つしかないのを知らなかったのか」


 わ、悪かったわね。

 学院に通えることに興奮しすぎて資料に目を通してなかっただけなんだからねっ。

 べ、別にわざと確認してなかったわけじゃないんだからね!


「せっかくですから、みんな近くの席に座りましょう」


 私を中央に右手がイーサ、左手にトゥシスという配置は入学式と同じだった。


「トゥシスがイーサの隣に座りなさいよ」


「お嬢が決めたことだ。俺に異存はない」


 私に異存があるのよっ。


 教室には20人ぐらいが席に座っている。

 イーサは顔見知りがいるみたいで、小さく手を振ったり、ちょこんと頭を下げて挨拶なんかをしていた。


「皆さん、遅くなりました」


 しばらく待っていると教員の証であるローブを着た男の人が教室に入ってくる。


「ボクはジンバルク=アプキャッスル。このクラスの担任です。わからないことがあったら遠慮なく聞いてください。

 方術師でマジックユースだからそちら系は詳しいつもりです」


 先生は寝癖もつきっぱなしで、どことなく親しみやすい雰囲気をしている。

 その時、さっと一人の生徒の手が上がる。


「えーと、君は……」


「ヨシリアム=ビリーチンです。質問があります。

 この王立学院はユースの才能を持つ選ばれた者のみが所属できる場所のはずです。それがなぜ中途半端な者が入学できているんですかっ」


 それから睨みつけるように私を見る。

 え? 私、あの人になにか悪いことしたっけ?


「ヨシリアム君は元気があっていいですね。それに積極的なところもいい。たしかマジックユースでしたね、期待をしています。

 その上で少々訂正をさせていただきましょう」


 手を後ろに組んだジンバルク先生は教壇の周りをゆっくり歩き始める。


「本来、ユースの才能は武具に限られるわけではありません。

 身近にある道具――例えばキコリが振るう斧や革細工師が使う針、料理人の持つ包丁などに相性がよい人たちもいます。そういった職人が成したものの出来栄えもまたやはり素晴らしいのです」


 イーサやトゥシスは当然と言いたげな顔で頷いているけど、クラスの半分ぐらいの人はそんなまさかって顔をしていた。

 私も半分側の人間なんだけど。


「ただし武具のユースはやはり特別です。戦う力があるのですから。国を、民を守ることができるのですからね。

 武具のユースは大きく分けて5つの属性がありますが、そこに優劣はありません。どれもなくてはならない力です。

 なにより、あなたたちは同じ学び舎にいる仲間です。ライバル心を持つのはいいことですが、決して仲間割れをすることなく、切磋琢磨をしていってもらいたいですね」


 先生のお話が終わったと思ったら、いきなりイーサが立ち上がって力一杯拍手をする。

 トゥシスも座ったままだったけど拍手をしていた。

 なんとなくの流れで私も拍手をすると、クラスみんなが拍手をした。


 ヨシリアム君は顔を赤くして俯いてるけど、目だけこっちを見てるような……なんていうか、その……ごめんね?


「あ、いや、どうも……照れますね。柄にもないことを言ってしまいました」


 先生は照れたように笑っていた。

 きっと真面目でいい人なんだろうなぁ。


「あー、ゴホン。えっとですね、先生はマジックユースなのですが、個人的に研究をしていることがあります」


 教室の熱に煽られたのか、先生の顔に赤みが差している。


「皆さんも方術の発動原理はご存知かと思います。

 おさらいをすると、方術の効果が記された方術印、発動のための文言、使用する方術の知識、触媒。これが一つのセットです」


 同じマジックユースのイーサを見ると、こくりと頷いてくれた。


「サダーシュは方術を正式には習っていないのよね?」


「うん。冒険者の人にちょっと教えてもらったぐらいだからね」


 しっかり教えてもらっていたら、私も使えるようになってたのかなぁ。


「どんな辺境に住んでたんだ。この方術全盛の時代に」


 うっさいわね。

 どうせ私の住んでた場所は辺境ですよーだ。


「マジックユースであれば方術の発動体――触媒さえあれば方術印は使い捨てではなくなります。さらに通常の方術師より高い効果が得られます。これがマジックユースの需要が高い大きな理由です。

 繰り返しますが、だからといってマジックユースが特別なわけではありませんよ。求められる機会と場所が多いというだけのことです」


 教壇の周りを歩いていた先生の足が止まる。

 私たちには背中を向けていた。


「たしかに方術は便利な力です。適正があれば相応の訓練で誰でも使えるものですしね。

 ですが方術よりも優れた技術があります。それこそボクが長年研究を続けているものです」


 くるりと先生が振り返る。

 ちょっとうわぁって思うほどのドヤ顔をしていた。


「ボクが研究をしているのは、ずばり『魔法』です!

 この世界では遠い過去に失われた理ではありますが、方術をはるかに上回る柔軟性、効果が得られると考えられています! まだまだ研究の段階はありますが、魔法は多くの人たちにとって福音になってくれるとボクは信じています!

 もし、もしもですよ。皆さんの中に魔法を学びたいという方がいたらぜひ! ボクと一緒に学びましょう! そしてボクはいつか大魔法使いになる!」


 熱弁を振るってるけど私には方術と魔法の違いがよくわからないのでぽかんとしながら聞くことしかできなかった。

 ただ勢いと熱意だけは間違いなく伝わった。


 なのにユースの属性に優劣なしの話で拍手をしたイーサやトゥシスは困り顔をしている。


「どうしたの?」


「えっと、魔法って空想上の存在だから……ちょっと困惑しているの」


 そうなんだ。

 でも方術でも魔法でも使えるようになれたら楽しいと思うんだけどなぁ。


 こうして私の王立学院での生活が始まった。


おまけ 湯船……2017/07/12 17:00ごろ更新


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