ex密会1
おまけのお話です。
おまけは基本的に三人称で書いています。
「――報告を」
深夜、王立学院の一角。
かすかな月明りだけが届く人気のない場所に二つの影があった。
「たいしたことではないし、わざわざ耳に入れるまでもないんですがね。僕様には判断の自由を与えられてないのでこうしてご足労を願ったわけで」
一人は男子の王立学院の制服を着ている。
手足が長く、背も高い。
前髪を降ろしているので表情はよくわからないが、口角は常に上がっているようだった。
「今の立場がご不満ですか?」
もう一人は女子の制服を着ている。
背は高くもなく低くもない。
月の光を集めたような銀髪を結いあげており、うなじが露わになっていた。そこにはユースの証である武印が見える。
「いえいえ滅相もない。こうして生きていられるだけで重畳。感謝することはあっても不満に思うだなんてこれっぽっちも。それこそゲスの勘繰りってやつです。人間というのは信頼関係が大切ですから」
男は軽薄な笑いを口元に貼り付けている。だが顔の造形がよいために決して嫌味には見えない。
少女は男の顔を見なかったことにして話を続ける。
「それで?」
「彼らが到着しました。ただし6人」
少女の眉根がかすかに寄る。
「出発時は7人いたと聞いていますが」
「どうやら途中の町に体調不良になった者を置いてきたようです。薄情なことで。裏を取るように指示はしておきましたが問題は?」
「ありません。偽情報に踊らされるなんて愚かしいことですから。それで?」
ほつれた髪の毛を指に絡めながら少女が尋ねる。
「道中で入れ替わっていないのなら例の秘蔵っ子のブレイドかと。入寮した面子を確認しましたから間違いはないと思います。
正直、アレが入学しなくて僕様はホッとしてますよ。噂通りなら正面からやり合うのはご免ですし。狂剣を相手にするなんてぞっとしない」
男は肩をすくめる。
「理由を推測できますか?」
「不確かな情報に踊らされるのをご希望なら」
少女の視線に男は口をつぐんだ。
「気になる噂が一つ」
「聞きましょう」
「一行が移動していた街道に『迷宮に誘う白蛇』が出たらしいです」
少女の目が驚いたと言いたげに見開かれる。
かすかな月の光にアイスブルーの瞳が輝いた。
「また多くの被害が出たのでしょうね……痛ましいことです」
美しい色をした瞳が憂いの海に沈む。
「実を言うとここからが驚くべき話なんですが……その幻想蛇は倒されたそうです」
「まさか!? アレは上位危険種ですよっ。
腕利きの冒険者のパーティーが複数で挑まなければ倒せないという魔獣が倒されたなんて俄かには信じられません……」
魔獣の危険度は下位、中位、上位、最上位に分けられる。
下位は腕が立つ者であれば単独でも討伐可能、中位はできればパーティーで戦うのを推奨、上位は優秀な複数のパーティー、最上位は国家が動くレベルと言われている。
男は少女の驚いた顔を愉快そうに眺めて楽しんだあと、ゆっくりと口を開く。
「どうやら狂剣が倒したようです。その戦いにおいてなんらかのダメージを負い、町に残らざるを得なくなった。そういう情報があります。ただし――」
「裏取りはしていないというわけですか」
少女が昏い溜息を吐いた。
「他の者が協力をしたということは?」
「不明です。幻想蛇が出る時は深い霧に包まれますから正確なところは本人たち以外にはわからないでしょうよ。
残りのメンバーが王都に何事もなく到着している以上、仮に手を貸していたとしてもたいしてダメージを負わなかったのは間違いないかと。あそこの連中は手練れが揃っているそうですし」
ギリと少女の歯が鳴る。
「狂剣の名は本物ってことですかね。あの噂を証明しているのでは?」
男の目が少女の反応を伺うような色を見せる。
「まさかアーツだと? そんなものは伝説にすぎません。すぎませんが……単独で幻想蛇を倒したのであれば可能性はありそうですね。
お願いできますか?」
「はいはい。調べておきますよ。
え、いやいや。人使いが荒いなーなんて言ってないじゃないですか。心の中でも思ってませんからね?」
「その言葉、信じておきましょう」
「……信じてませんよね。顔が笑ってませんよ?」
「信じていますよ」
かすかに少女の口角が上がる。
「かー、その顔、僕様以外に見せないほうがいい。いらぬ誤解を招くので。
今回の計画では面倒事を避けると言ったのを忘れたわけではないでしょう? だから必ずこの言いつけは守ってください。お願いします。なんでもしますから」
「そうですか。わかりました。
なんでもしてくれるのですよね?」
「え、そっちに食いつくんですか。別にいいですけど。
でもこういうのって女の子にしてもらうのがセオリーなんですよ。僕様は色男ですがニーズなんてわずかなものですし。
で、何をすればいいので?」
「おそらく動きがあるはずですからなるべく早く報告を。後れを取れば致命傷になりかねません」
「難しいことを言いますね。いいですけど」
男は愉快と言いたげに口元を歪めていた。
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