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入学前夜

今日はおまけがあります。

おまけは18時に更新する予定です。


 学院の建物を間近で見上げる。

 夕焼け空の色が白亜の壁を彩っていてとってもきれいだった。

 こんな立派な建物なんてこれまでに見たことなかったなぁ。


「おい、いつまで馬鹿面を晒しているつもりだ。まずは受付に向かうぞ。

 お前の荷物だ。忘れるな」


 荷物を下ろしているトゥシスに嫌味を言われる。

 この人は、いちいち他人を不愉快にしないと生きていけないんだろうか。

 それでいて私の荷物をちゃんと持ってきてくれるし。

 なんか矛盾してて、こっちとしてもどういう態度をとっていいのか悩むんですけど!


「わたくしたちは先に行っていますね。あとのことはトゥシスに任せます」


「わかりました。お気を付けください。

 あと、あまり変なご友人をおつくりになりませんよう」


 そのご友人って私のことだよね!?

 やっぱりイヤな奴ってことでいいんじゃないかな!


「いやねえ。サダーシュはとっても素直でいい子なのに。ねえ」


「あ、いえ、その……てへへ」


 笑って誤魔化してしまった。


「ふん」


 あ、また鼻で笑った!


 受付っていっても難しいことはなにもなくて、係の人に招待状を見せるだけですんだ。


「イーサティア=ニアステリアさんに、サダーシュ=シュラインベースさんですね。

 ようこそ、王立学院へ。貴方がたの活躍を期待しております」


 受付の人がお辞儀をするので私も慌てて頭を下げたら、隣で立っているイーサが笑ってた。

 え? 何かおかしいところあったの?


 学院は全寮制なので、受付の人が寝泊まりする部屋まで案内をしてくれるそうだ。

 イーサは荷物が多いので受付の人がいくつか持ってくれている。

 遅れないように二人の後ろをついていく。


「……そうですか、途中で体調が。早くよくなられるといいですね」


「ええ、本当に」


 なんだか親しそうにお話をしている。

 もしかしたらこの二人は知り合いなのかな?


 ぐぅ~。


 ……あぅ。

 お腹が鳴っちゃった。恥ずかしい……。


「今日から食堂もご利用いただけますので」


 先を歩いていた受付の人が微笑みながら教えてくれた。


「わたくしもお腹が空きました。あとで一緒にいかがですか?」


「うんっ」


 お腹が鳴っちゃった私に気を使ってくれたんだろうなぁ。

 イーサはとってもいい人だ。


「お二人の部屋はこちらになります」


「あら。サダーシュと同部屋だったのね。これからよろしくね、サダーシュ」


「こちらこそ。イーサと同じ部屋だと心強いよ」


 部屋は備え付けのベッドや机がそれぞれ三つずつあった。

 つまりここは三人部屋ってことね。


「あと一人は誰なのかな? イーサみたいにいい人だったらいいのになー」


「もう一人はさっき話したわたくしの友達なの。途中で体調を崩してしまったので学院に来るのは少し先になるのだけど、もともと体の強い子ではなかったから心配だわ」


 その話を案内してくれた人としてたんだ。


「その人も早く学院に来られるといいね」


 何故だかイーサは私の顔を眩しそうに見ている。


「ええ、本当に。だからしばらくはこの部屋はわたくしとサダーシュの二人だけということね。

 改めて、よろしくね、サダーシュ」


「こちらこそ!」


 学院へ来て早々、友達ができるなんて幸先がいいってやつだよね!


 ぐぅ~。


 あうぅ、またお腹が鳴っちゃった……。


「ふふ、じゃあ、お夕食に行きましょう」


「さんせーい!」


 どんなお料理が出るのかなー。

 楽しみ。





 冒険者のお姉さまへ


 ずっとお姉さまの料理が世界で一番おいしいんだって思ってたけど、ごめんなさい。一番は他にありました。

 世の中にはあんなにおいしい料理があるんだって初めて知ったよ。

 あまりにおいしくて、ついおかわりまでしちゃったもん。

 イーサもおいしいって言ってたから私の勘違いじゃないと思うんだ。

 明日からのご飯も楽しみだよー。


 食事の後はイーサといっしょにお風呂にも入った。

 お風呂って初めて入ったんだけど、いっぱいのお湯が大きな桶っていうか浴槽ってところに張ってあるの。しかもどんどん追加されてくるの!

 しかも水じゃなくてお湯だよ!

 王立学院ってお金持ちなんだねぇ。


 あと、服を脱いだイーサはとっても大きなものを二つ持ってました。

 なんか女の子としてすごく負けた気がするけど、きっと気のせいだと思う。

 だって冒険者のお姉さまも「女の魅力はおっぱいの大きさじゃない!」って力説してたしね。


 ……そういえば、お姉さまの胸もそんなに大きくなかった気がするなぁ。


「明日は早いですし、もう休みましょうか」


「そうだね」


 ベッドに腰かけて湯冷ましをしながらいろいろ話をしてたんだけど、イーサに促されて横になる。


 うわわっ!

 知らなかった……ここのベッドってこんなに柔らかいんだ!?


 敷いてある布の下にはふかふかのものが置いてある。

 私が使ってた寝床なんて干し草の上にシーツをかけたものだったのに。

 あれって定期的に干し草を交換しないと体がかゆくなるんだよね。


 枕もシーツも真っ白で誰も使ってないみたい。

 すべすべだよ! ふわふわだよ! いい匂いがするよ!

 こんなところで本当に寝てもいいのかと不安になる。


「ねぇ、イーサ……って、あれ? もう寝てる?」


 小さな寝息が聞こえてきた。


「移動で大変だったもんね。私も疲れてるからきっとすぐに眠くなるはず………………ダメだ。ぜんぜん眠くならないっ」


 興奮しているせいかなぁ。

 眼が冴えちゃって、とても寝付けそうにない。


「んー……そうだ。せっかくだし日課をこなしておこうかな」


 荷物から愛用の剣とタオルを取り出して部屋を後にする。


 食事に行く途中で人があまり来なさそうな場所があったから、あそこで素振りでもしようっと。





 ビュ! ビュ!


 剣が風を切る音がする。

 しばらく無心で剣を振り続けた。


「……ふぅ」


 額から汗がにじみ出てくる。


「あ、せっかくお風呂入ったのに汗かいちゃった。お風呂ってまだ入れるのかなぁ」


 こっちに来る前は水で濡らしたタオルで体を拭くか、小川で水浴びをするしかなかったんだよね。


 上着を脱いでタオルで汗を拭きとっていく。


「ごほっ、ごほ、ごほっ!」


「だ、誰!?」


 タオルで胸元を隠し、剣を抜く。

 まさかこんなところで覗きだなんて……警備はどうなってるのよ!


「い、いや、すまん。怪しい者じゃない」


 そう言いながら暗がりから姿を見せたのはトゥシスだった。

 顔は横を向いている。


「そっか、トゥシスって覗き魔だったんだ……」


「違う! お前が勝手に脱ぎだしたんだ!」


「だったら脱ぐ前に声をかければよかったじゃない。スケベ」


「スケベじゃない! 声をかける前に脱いだからできなかったんだっ」


「じゃあ、しっかり見てたってこと!?」


 月明りでもトゥシスの顔が赤くなっているのがわかった。

 ……あれ? もしかして照れてる?


 へー、ほー、ふーん。

 トゥシスって意外に純情なんだ。


「どうでもいいから早く服を着ろっ」


「そんなこと言って。私が着替えてるところをじっくり見るつもりなんでしょ」


「誰が見るかっ」


 それはそれで傷つくんですけど……。


「本当に見ない? 顔だけそむけて、実は視線だけこっちを見ているなんてことは……」


「ないっ。断じてない!」


 一応、背中を向けてから服を着た。

 視線は感じないし、律儀に口にしたことを守っているみたい。


「……もういいわよ」


 仏頂面をしたトゥシスが目を伏せながらこちらを向く。


「ここって関係者以外は入れないんでしょ。なんでいるの?」


「俺も学院に入学したからだ」


 あ、トゥシスも入学するんだ。

 てっきりイーサのお付の人かと思ってた。


「なによ」


「別に」


「ウソ。なにか言いたそうな顔してる」


「言ってもいいのか?」


 むっ、そういう反応をされると困るっていうか。

 イーサと比べると小さいんだなとか言われたら二人の友情にヒビが入りかねないので言って欲しくないんだけど。


 無言を了承と受け取ったのかトゥシスが口を開いた。


「お前の練習にはまったく意味がないな」


「……はぁ?」


 この男、いったいなんの話をするのかと思えば。


「もしかして、さっきの素振りの話?」


「そうだ。あんなもの時間の無駄だ。やめてしまえ」


 会った時から気に食わないと思ってたけど、そうですか、そういう態度で来るわけですか。


「どこが悪いっていうのよ」


「相手を想定していない。貸してみろ」


 トゥシスに愛用の剣を手渡す。


「かなり短いな。だが使い込まれたいい剣だ」


 剣を構えたかと思うと、いきなり激しい動きで剣を振り回す。


「ちょ、あぶな……え?」


 相手がいた。

 トゥシスの前に姿は見えないけど相手がいる。


 斬りかかる。かわす。突く。払う。足払い。跳ぶ。間合いをとる。


 トゥシスは姿の見えない相手と戦っていた。


「……ふぅ。稽古をするならこれぐらいはやれ」


 そう言いながら剣の柄をこちらへ向ける。

 唇を尖らせながら受け取った。


「お前、ちゃんとした師匠について習ってないだろ」


「……わかるの?」


「ああ。お前の動きには剣理がない。我流で剣を振り回しても先はないぞ。ブレイドなら、きちんとした人に師事すべきだ」


「だって剣術なんて誰も知らなかったし……」


 私が暮らしていたところは魔獣の生息地に接していたから戦わないと生き残れない環境だっただけだし。

 魔獣討伐にきた冒険者の人たちの剣の腕前はそれほど高くなかったし。

 だから一人でやっていくしかなかったんだよね。


「筋は悪くない。学院には優秀な撃剣師範もいるだろうからちゃんと学べ。せっかくの宝を腐らせるな。

 ユースを持たない者に比べれば、お前は恵まれているんだ。そのことを忘れるな」


「わかってるわよ」


「わかってないっ」


 大きな声で言われて、思わず首がすくんでしまった。


「そんな怒鳴らなくてもいいでしょ」


「……すまん。悪かった」


「別にいいけど……」


 なんとなく白けた空気が二人の間に漂う。


「鍛錬するのは悪いことじゃない。俺はもう寝る。じゃあな」


「あ、うん。おやすみ」


 トゥシスの背中が見えなくなるまで見送った。


「なによ、偉そうにさ」


 でも真摯な態度ではあったと思う。


「師匠かぁ。学院に私より剣の腕が立つ人がいるといいなぁ」


 見上げた夜空は晴れ渡っていた。


おまけ 密会1……2017/07/10 18:00更新


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