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トリプルとアーツ

今日はおまけがあります。

おまけは20時ごろに更新する予定です。


 正中線に沿った連続突きを体軸をずらすことでかわす。

 滑るような足運びで相手の右側に回り込む。

 剣を突き出した態勢のまま放たれた横凪ぎの一撃は半歩下がることでかわした。


 踏み込んで再びの突き。

 相手の軌道に寄せるようにこちらの剣を合わせて絡める。

 硬いはずの剣がまるで生き物のような滑らかな動きを見せる。


「くっ」


 こちらの意図を悟って剣を引こうとする。

 その動きに合わせて私は前へ出る。

 引いた分だけ黒い剣が相手の体へと迫る。


 このまま下がると押し込まれると判断したのか剣を立て、足を止めて鍔を合わせた。

 至近距離で睨み合う。

 キシキシという金属音が二人の間からしている。


「バケモノか、貴様」


「バケモノって言わないでくださいっ」


 わずかに体を沈めて下からかち上げる。

 それだけで先生の上体はバランスを崩す。

 何が起きたのか相手が理解する前に畳みかける。


「よいしょっと」


 鍔迫り合いの状態にも関わらず剣を振り切る。


「ぐおっ」


 死に体になっていた先生はあっさりと吹き飛んでいった。

 でも瞬時に態勢を整え、転がりながら勢いを殺そうとしている。

 地面を蹴って先生に迫る。

 10メートル以上吹っ飛んだところでようやく先生が止まる。


「なんて馬鹿力だ!」


 剣を地面に突き刺して最後の勢いを殺した先生はまだ立ち上がれない。


「またバカって言った!」


 飛び込みながら突く。

 目標はしゃがんだ先生の目の前の地面。


 ボッ! ボッ! ボッ!


 先生がいる位置の1メートル手前から等間隔で三つの穴が開いた。

 意識が一瞬だけど地面へ向かう。


「えーい!」


 剣を体に仕舞って、胸板を蹴る。


「ぐはっ」


 今度はコントロールできない状態でゴロゴロ転がっていく。

 そのまま訓練場の壁に激突して止まった。

 さすがに立ち上がれないみたいだ。


「ふぅ。おしまいです」


 手合わせは私の圧勝だった。


「お、おい……央国五剣が負けたぞ……」


「これ夢だよね? あたし、夢を見てるんだよね?」


「バケモノかよ……」


 誰よ、バケモノって言ったの!

 見学していたケインズ君たちのうちの誰かなのは間違いない。

 発言者に一言文句を言ってやろうと思ったんだけど、みんなぽかんとした顔をしている。


「参ったな。子供扱いされるなんていつ以来だ……」


 体に着いた砂を落としながら先生が立ち上がる。

 ぱっと見た感じ、大きなケガはなさそうだけど。


「大丈夫ですか?」


「ああ、問題はない」


 先生は笑いながらこちらに近づいてくるけど、途中で足が止まる。


「あああああああああ! ちっくしょぉ――――!」


「はぅわ!?」


 いきなりの大声にびっくりする。


「あー、すまん。剣で負けるのはさすがに悔しくてな。生徒の前で恥ずかしいところを見せた」


「いえ、その……すみません」


「そこで謝られると私の立場がない。ザンヤを手にした貴様は以前とはまるで別人だ。立ち会った瞬間にこのままでは勝てないと悟ったぞ」


 目の前に立つ先生が手を差し出した。

 ちょっと考えてから握手を求められていると理解して手を握る。


「そうかもしれないですね。私もこんなに戦いやすいと思ったのは初めてです。なんか全部見えるんですよ。まるで死角がないみたいに」


 これまでも常に視界を意識した戦い方をしてきたつもりだけど、さっきは今までと明らかに違っていた。

 先生の動きも、イーサたちの様子も、訓練場の状況も全部見えていたんだから。


「もともと貴様の反応はよかったが、たしかにあの動きは奇妙だったな。まるでこちらの動きがすべてわかっているようだった」


「ザンヤが動き方を教えてくれたみたいです。私はそれに従ってもいいし、自由に動いてもいいみたいで。力の加減も自由自在でしたし」


「世の中にはまだまだ上がいるな。修行のし甲斐がある」


 最後に笑って、先生は訓練場を後にした。


「サダーシュ! すごかったですね」


 駆け寄ってきたイーサに抱き着かれる。

 柔らかい体を抱きとめた。


「本当に央国五剣に勝ってしまうだなんて」


「あー、そういえばそうだったね……」


 ニシキーン先生がまたヘンなことを言いださないといいなぁ。


「ちょっとちょっとサダーシュ! 何があったのよ。さっきの戦い方っておかしくなかった?」


 ヘイズたちがやってくると、あっという間に囲まれてしまう。


「斬撃を飛ばす方法にコツなどはあるんですか?」


「あのパワーはおかしいだろう。何を食ったんだ? どんな筋トレをした?」


「間合いを詰める時の迷いのなさはどうすれば身に着けられるんですかね?」


「俺もあんな風に蹴られたい」


 次々に質問を浴びせられて目が回りそう。


「えっと、意識を先に持ってきて振り切ればいいよ。ご飯はなんでもおいしく食べてるけど特別な筋トレはしてないから。相手の動きを予測してパターンを解析しておけば迷いはなくなると思うよ。それで誰を蹴ればいいの!」


 イーサを抱きながら右足を振り上げると、囲みの輪が一瞬で広がった。

 これでみんなも落ち着いてくれるかな。


 一歩進みでる影があった。


「お前、アーツなのか」


 トゥシスが怖い顔をして私を見ていた。


「えっと……」


 困ってイーサを見る。


「練習を始める前に少し話をしましょうか」


 イーサに促されてみんなが車座になって座る。


「皆さんもご存じの通り、サダーシュのブレイドとしての能力はとても限定されたものでした。その理由がどうやらトリプルだったからというのが先生方の出した結論です」


「ちょっと待ってくれ。トゥシスはサダーシュのことをアーツと言ってなかったか? 神槍イーンエーイがスラストのアーツだったと言い伝えられているんだが」


 ハヤード君の疑問はもっともだよね。

 私も自分がトリプルブレイドなんて初めて聞いたし。

 なんでこんなことを言うんだろうと思いながらイーサを見たら、私に向かってウィンクしていた。


 あ、なるほど。

 学院長が私のことを説明する時は特定の武具が得意だったとか、トリプルだったって言うように話してたんだっけ。


「アーツについてはよくわかっていないらしくて、特定の武具に特化したトリプルの別名ではないかというのが学院長の説明でした」


 気が付くとみんなの視線が私に向けられていた。

 ちょっと怖いです。


「そっかー。サダーシュもソウジュと同じトリプルだったんだ。道理で変な子だと思ってたよー」


 ちょっと待って、ヘイズ! 私、ヘンな子じゃないからね!

 いや、そうじゃなくて。気になる名前が出てきたんだけど。


「ソウジュってブレイドでポニーテールで小柄で三段突きが得意な?」


 あと私と違っておっぱいも大きかった。


「サダーシュはソウジュのことを知っているんですか?」


 驚いた表情をしたイーサに聞かれる。


「うん。学院に来る途中でミラージュパイソンに襲われてね。ソウジュとは霧の中でたまたま出会ったの。

 いっしょにミラージュパイソンと戦ってもう少しで倒せるところまで追いつめたんだけど、また霧にまかれて離れ離れになっちゃって」


「そういえば幻想蛇を倒したと言っていたが、サダーシュと一緒だったなら納得だな」


「あの時はどうなることかと思って慌てましたが、そんな出会いがあったんですね。彼女の幸運を少し分けてもらいたいですよ」


 ゲンザール君とケインズ君がしみじみとした表情で語りあっている。


「すまない。そのソウジュという人物について説明が欲しい」


「あたしたちと同門の子だよ。道場で一番腕の立つブレイドのトリプルなんだけど」


 ハージェシカさんの質問にヘイズが答える。


「トリプル……信じられない」


「目の前にサダーシュがいるではないですか」


 滅多に表情を変えないハージェシカさんの驚いた顔を見ながらイーサが笑っていた。


「とりあえずサダーシュが戦力としてとても頼りになることはわかった。対抗戦は期待してもいいってことだよな?」


 ハヤード君の質問に頷く。


「結構、やれると思うよ」


「はははっ。央国五剣を倒しておいてその程度の自信ってのはどうなんだ」


 レフィ君がお腹を抱えながら笑っている。

 そんなに面白いこと言ってないよ?


「対抗戦が終わってからでいいから俺とも手合わせをしてもらっていいか。同じブレイドとして力量差を見極めさせてくれ」


 真剣な表情でシンハース君に言われて、私は笑顔で請け負った。


「サダーシュの謎が明らかになってわたくしたちのチームも戦い方を変える必要が出てきました。対抗戦まであまり日はありませんが戦術を詰めていくことにしましょう。いいですね」


「おう!」


 全員の声が唱和した。





 その夜。

 日課をこなす場所に必ずいた人の姿がなかった。

 体調でもよくなかったのかな?



        ※        ※        ※



 対抗戦まで残り二日。

 できる限りの時間を使って新しい戦い方を洗練させていかなければいけない。


「正直、サダーシュだけが前衛でいいんじゃないか」


 ハヤード君の呟きに、私以外の全員が頷く。


「じゃあ誰が私の背中を守ってくれるの?」


「弓での援護すら必要ないだろ。むしろ邪魔になってないか?」


「そんなことはないけど……」


 ハヤード君の放つ弓にいちいち反応しちゃってるのは事実だけど、味方が背中を守ってくれているって安心感は大事だし。


「トゥシスがわたくしの護衛なのは変更せず、ハヤードの護衛にハージェシカが付いて互いに拠点を築きましょう。形としては掎角(きかく)の計ですね」


「それであの上級生の攻撃に対抗できるか?」


 ケインズ君たちが手も足も出なかったという上級生の戦いぶりを私は知らない。

 でも警戒する気持ちはわかる。トゥシスですらイーサを守り切るのは難しいというハージェシカさんの言葉は忘れていない。


「そこはサダーシュに期待ですね。なるべく早く相手の王を落としてください」


「う、うん! がんばる!」


「頑張らないでも大丈夫ですよ。サダーシュがいつも通りにしっかり戦えば勝てますから」


「たしかに、央国五剣に勝てる上級生なんていないだろうしな」


「むしろ怪我をさせないかが心配だ」


「サダーシュはわたくしと違って力の制御が上手ですから大丈夫ですよ」


 そんなチームの会話にトゥシスが参加しないのが気になっていた。


おまけ 狂剣……2017/08/05 20:00ごろ更新


ブックマーク等、よろしくお願いします。


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