アーツの実力
「何者がサダーシュを操り、この武具庫へ侵入させ、ザンヤの剣を手に取らせ、化け物に襲撃させたのか。謎はたくさん残っています。先生方はどうお考えですか?」
「学院に敵対する者の仕業だろうな」
「ボクたちに気づかれずに学内の生徒に方術を施して操るなんて不可能ですよ。
もっともサダーシュ君が外部と頻繁に接触していたのなら話は別ですけど……」
「わたくしが知る限りサダーシュが外出した回数はそれほど多くはありません。その時は必ず他の人と一緒に行動をしていたようです」
「ならば外部で何者かの影響下に置かれた可能性は低いか」
「敵は学内に潜んでいると考えた方が納得しやすいのではないでしょうか?」
「イーサティア。軽々しくそういうことを口にするな。それは私たち教師陣だけでなく、国王の尊厳をも傷つけるものだ」
「申し訳ありません、ニシキーン先生。そういう意図で発言したのではないのをご理解ください。
ただサダーシュが何者かに操られた可能性が高いのは事実です。それはわたくしを含めてすべての生徒、学院関係者にも手を伸ばすことができると考えることもできないでしょうか。そのことを憂慮しています」
「彼女の言う通りね。学院として警戒レベルを引き上げましょう。
今晩起きたことは積極的に生徒たちに知らせる必要はありませんが、人の口に戸は立てられません。賊が武具庫に侵入しようとしたという話を流しておきましょう」
「このまま犯人を放置するおつもりですか? 大切な生徒に手を出したのは絶対に許せないのですが」
「まさか。きっちりお灸は据えますよ。ただ犯人捜しを大っぴらにやると生徒たちに悪影響が出かねません。間もなく対抗戦がありますし、密かに事を進めて行きましょう」
「私は対抗戦を延期なり中止すべきだと思うのだが」
「ボクは実施すべきだと思います。学院に影響なしをアピールするためにも予定通り行うべきではないでしょうか。もちろん対抗措置をしっかりする必要はありますが」
「私もジンバルク先生の意見と同じです。予定通り行いましょう」
「妖異の調査は私が行う。かつて戦った経験もあるしな」
「それなら方術師として私も手を貸そう。アミュレットでの失点を挽回させてもらいたい」
「サダーシュ君を操った者とこの妖異に関係があるかを確認する必要もありますよね。これだけのことをした以上、単独犯だとは考えにくいと思うのですが」
「そこに予断を持つべきではないだろう。可能性は広く考えた方がいい」
「妖人族の動向についてはニシキーン先生とジュリウス先生にお任せします。この妖異の情報収集もあわせて行ってください。特異な形状をしていたようですから目撃されていれば情報が残っているはずです。
ジンバルク先生はサダーシュをはじめとした生徒たちへのフォローをお願いします」
うぅ、眠い。
みんながいろいろと話しているんだけど、私の頭には内容がちっとも入ってこなかった。
「何より私が学院長の時にちょっかいをかけてきたことを後悔させてあげないといけませんものねえ」
ただ学院長がすごく楽しそうな表情をしていることだけはわかった。
なんていうか、笑顔が怖いです。
「一つわたくしからもいいでしょうか。サダーシュはこれからどうしたらいいのでしょう。アーツであることは隠し通すべきですか?」
「公表すればいい。事実なのだからな」
「私は反対だ。第一、そんなことを言われても誰も信じない」
「彼女の特殊性はクラス全員が知るところですし、アーツと言われればそういうものかと思われそうですけどね。説明が難しいのなら特定の武具に特化したユースだったというのでどうでしょうか」
「そうですね。あえて喧伝せずに今まで通り過ごしてもらうのがいいでしょう。他の生徒から彼女のことを聞かれたらジンバルク先生のような説明をするなり、実はトリプルだったという話で納得してもらうしかないですね。私たちもアーツについて詳しく知っているわけではありませんし」
ふにゃ? 私の話をしてます?
「彼女も眠そうですし、今日のところはここまでにしましょう。
この部屋は改めて私が封印をしておきます。調べる時は連絡をください。私も立ち会います」
「サダーシュ、わたくしたちの部屋に戻りますよ」
「うん……」
差し出されたイーサの手を取る。
柔らかくて、暖かい手だった。
「今晩は私が部屋の前で不寝番を務めよう」
「わたくしたちは大丈夫だと思います。ご無理をなさらないでください」
「いや、対抗方術の不手際もあったことだからな。やらせてくれ」
「……わかりました。よろしくお願いいたします」
※ ※ ※
「ふわぁ~~。まだねむいょ……」
「大欠伸。昨夜、大騒動を起こしたようには見えない」
ジト目のハージェシカさんにそんなことを言われる。
「だってバタバタしてて寝る時間が遅くなっちゃったんだもん」
無事に次の朝を迎えることができた。
部屋のドアを開けたら寝ずの番をしてくれていたジュリウス先生の背中に思い切りヒットさせてしまい、朝から頭を下げることになっちゃったんだけどそれはそれとして。
私自身は方術対抗のアミュレットに効果がなかったことは先生の不手際なんて思っていないけど、そのことについて何度も頭を下げられるので、今朝のことと相殺で納得してもらった。
真面目な人だよね、ジュリウス先生って。
「なんだ。何かあったのか?」
ハヤード君は昨夜の騒動について何も知らないみたいだけど、男子寮だし仕方ないよね。
一方、勘のいい女子は何人かいたようで、私たちのチームにも一人いた。
朝一番で私たちの部屋にやって来て話してくれないと梃子でも動く気はないと宣言をしたハージェシカさんにはざっとしたあらましだけ話してある。
「実は昨夜、武具庫に侵入者があって……」
ハージェシカさんにしたのと同じ説明をする。
ただし妖人族の代わりに盗賊が入り込んだってことになっているけど。
そしてたまたま部屋の外を出歩いていて賊の姿を見かけた私が騒いだので逃げて行ったという話になっている。
「うーむ、学院に忍び込むとは凄腕だな。しかしサダーシュの寝ぼけ具合もとんでもないな。もしかして夢遊病とかいうやつか?」
「違うんじゃないかなー。たぶんだけどね」
我ながら白々しい。
もともとウソをつくのって苦手なんだよね。
「いつまで喋ってるつもりだ。授業が始まるぞ」
そういえばトゥシスからはなにも聞かれてない。
イーサから事情を聞いているから、今更必要ないのかな?
「ありがとうございました!」
今日の授業が終わってニシキーン先生にみんなで礼をする。
この後はケインズ君たちのチームと練習試合をする予定になっていた。
対抗戦まで練習相手をケインズ君たちが買って出てくれたのは本当にありがたい。
「サダーシュ、ちょっと来い」
なんだろう。
呼ばれたので先生の所へ行く。
「手合わせをするぞ。もちろん貴様はザンヤの剣を使え」
授業ではいつものように学院の武具――今日はパタという手にはめて使う剣での訓練だった。
当然、ちっとも使えてなかったんだけどね。
「本気ですか?」
「剣士たるもの強敵と出会ったのなら手合わせしたいと思うのは当然のことだろう。こちらも全力でやらせてもらうがな」
先生の腰には地味な装飾がされた剣が下げられている。
柄なんかを見る限り、かなり使い込まれているのがわかる。間違いなく私物だ。
央国五剣が使い込んでいるとっておきの剣。そういう雰囲気がこうしているだけで伝わってくる。
「ザンヤを抜いたりしたら、みんなびっくりするんじゃないですか? 下手に目立ったりするのは困るんですけど」
規律を守らない生徒は騎士に相応しくないって烙印を押されたくないしね。
「今さらそんなことを気にするな。貴様は十分に目立っているぞ?」
う、それはそうかもですけど……あとで怒られるのはイヤなんです。
「口を尖らすな。学院長に何か言われたら私に唆されたと言えばいい」
「……絶対ですからね?」
「ああ。私に勝てば央国五剣の席をやろう」
「い・り・ま・せ・ん」
先生から少し距離を取る。
イーサたちに手を振って少し待っていて欲しいと伝えた。
振り返ってニシキーン先生を見る。
それだけで先生の顔がこわばる。
まだなにもしてないですよ?
「初めて立ち会った時とは別人だ」
右手に剣を構えた先生の声がわずかに震えている。
央国五剣の肩書を持つ達人剣の姿にはとても思えない。
「じゃあ、いきますよ」
腰を落として左手のひらに握った右手を添える。
「や――っ」
踏み込みながら右手を上から下に振り抜く。
空気が断ち切れたのが見えた。
一瞬遅れてから衝撃波が走り、訓練場の地面が割れる。
「わっ、たた」
二つに裂けた地面に足を突っ込みそうだったので慌てて足を着く場所を変更する。
体を崩しても問題はない。
先生は立ち会った状態で茫然としているだけだから。
まるで体中に目がついているみたいに周囲の状況が把握できていた。
すべての動きがゆっくりに感じられる。
それからドォンという大きな音が訓練場に響く。
「な、なんだ?」
「何が起きた!?」
見学していたケインズ君たちが驚いた声をあげている。
「ば、馬鹿な……」
ニシキーン先生は驚愕を顔に張り付けていた。
先生に当たらないようにしたからケガはしてないはずだけど。
「……全く見えなかった」
アーツは体内に武具を仕舞っておけるから、得物が相手にバレないだけじゃなくて、どこからどういう攻撃をしてくるのか予測がしづらいと思うんだよね。
間合いもわかりにくいし、タイミングだって掴むのが難しい。
アーツだったと言われるイーンエーイが強いのも納得だよ。
ちょっとズルいレベルで有利だもん。
おまけに軽く振っただけでこの結果。
攻撃を受けるとか考えるまでもないんじゃないかな。
下手に衝撃刃の前に立てば真っ二つになるのは間違いないんだし。
「どうします? まだ続けますか?」
私もわかってしまった。
アーツはとんでもない存在なんだって。
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