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アーツ

 優等生であるイーサは緊急事態であったにも関わらずとても冷静だった。


 私が部屋からいなくなったことをすみやかに先生たちに連絡し、協力して捜索にあたってくれた。


 私の位置は探知の方術で追うことができた。

 でも途切れてしまったので、途中から手分けをすることになったんだって。

 そして真っ先にここへたどり着いたのがイーサだった。


「これはどういうことなんですか?」


「私もよくわからないんだよね。気が付いたらここにいて、なぜだか化け物に襲われて……」


 複数の足音が近づいてくる。


「無事だったか……」


 真っ先に武具庫に足を踏み入れたニシキーン先生は私の姿を認めたあと、床に転がっている武具に目を向けた。


「オルーナ、アーガスロン、ヨーツン……名だたる名刀の最後をこの目で見ることになるとはな。

 ルーソーはもともと柄を外して保管してあったから問題なさそうだ。こいつの保管の厄介さが幸いしたか。ガンディーヴァも弦を張れば使えそうだな」


 激しい戦闘の影響で棚はひっくり返り、並べられていたさまざまな武具は床に散らばっている。

 刃こぼれ程度ならまだいい。いくつかは致命的な損傷を負っていた。


 わ、悪いのはこの化け物です。私は自衛に専念しただけですから……で納得してもらえるかなぁ。


「それよりもこの化け物だ……ジンバルクは知っているか?」


「いえ、初めて見ます。腕が複数あるってことはクァルの一種ですかね」


 ジュリウス先生、ジンバルク先生もほどなく駆け付けてくれた。

 二人は私が倒した化け物を興味深そうに検分している。


「クァルは四本足の獣だぞ。それに上半身というか背中から生えているのは触手で人間のような腕ではないはずだ」


「この脚は……クモに似ていますね。触れても大丈夫……あっ」


 ジンバルク先生が斬り落とされた脚に触れようと手を伸ばすと、サラサラと砂のようになって形が崩れていった。

 それは腕や上半身も同じで、武具庫の床には大量の砂のようなものが残るだけになっている。


「こいつは妖人界の生物だな」


「妖人界……やっかいなのが出てきましたね」


 状況がわからないので、いつものようにイーサの顔を見た。


「妖人族のことは知っているでしょう?」


「人間より強い種族のことだよね? 残虐で血も涙もないっていう」


 指先をアゴにあててイーサはしばらく言葉を探していた。


「サダーシュはこの世界に裏――地面の反対側にそっくりな世界があるというお話を聞いたことがありますか?」


 知らないので首を横に振る。


「境界理論ですね。地面の下にはもう一つの世界が存在するというものです。そこには地上と鏡合わせになった世界があり、そこをボクたちは妖人界と呼んでいます」


「二千年ほど前の戦いで妖人族のほとんどが地下世界へ追いやられた。だから奴らは地上世界を奪い取ろうとしている――らしい」


 へー、知らなかった。

 じゃあ、地面を掘ったらあっちの世界に行けるのかな?


「あら、いやだ。ひどいことになっているわね」


 声がした入口を見ると、派手で扇情的な夜着をまとったカーモリア学院長がやってくるところだった。

 って、スケスケなんですけど!

 イーサよりも大きなおっぱいがプルンプルン揺れているところまで全部見えてて目のやり場に困るのに、ご本人はまったく気にしてないみたい。


「それで、こんな夜に何があったのですか?」


「それは――」


 ジンバルク先生の視線が私に向いた。

 説明するべきなんだろうけど、私もよくわかってないんだよね。


「実はここ数日、サダーシュが消灯時間を過ぎてから校内を彷徨っているようでした。ただし本人にはその記憶がなかったようなのですが」


 困っていた私に代わり、イーサが説明してくれる。


「サダーシュは方術が使えないので方術の影響を受けやすい傾向にあります。ですから何者かに操られていた可能性があります。

 その対抗措置としてジュリウス先生から方術抵抗を強化するアミュレットを貸していただいたのですがその効果もなかったようです」


 学院長の視線にジュリウス先生が頭を下げる。


「申し訳ない。私の力が及ばなかったようだ」


「そのアミュレットはどこにあるのですか?」


 そういえば首のところが軽い。


「あっ、ない」


「それなら先ほど回収しておいた。戦闘中に破損したようだな」


 ジュリウス先生の手には壊れたアミュレットがあった。


「ご、ごめんなさい!」


「いや、私の方こそすまなかった。しっかりした対応策を考えるべきだった」


「わかりました。彼女への方術の影響については改めて調査をするとしましょう。

 ところで、ここにはどうやって入ったのですか? 簡単には入れないようになっていたはずですが」


「私が扉を斬ってしまって……」


 入口の近くに半ばあたりから折れた黒い刀身の剣が落ちている。

 ごめんね、無理をさせちゃって。


「剣で私の封印を破るって……はあ」


 学院長はこめかみを押さえながら大きなため息をついた。


「先生方からとんでもない新入生がいるとは聞いていましたけど、ここまでとは思いませんでした。まさかこういう形で私の封印が破られるとは……」


 考え込む学院長の姿を申し訳ない気持ちで見ていたらジンバルク先生が耳元で囁いた。


「封印系の方術で学院長より腕が立つ人はいないんですよ。ボクやジュリウス先生でもかないません。普通、剣で破れるものではないんです」


「すすすみませんでしたっ」


「いいのよ。改善できるところが見つかったと思っておきましょう。

 それより状況を整理しましょうか。今後のこともありますから。武具庫に入ってからのことを教えてください」


「えーとですね……」


 ここであったことをつらつらと並びたてる。


 以前から何かに呼ばれる気がしていたこと。

 無意識のうちにザンヤという剣を手に取ったこと。

 気が付いたらここにいたこと。

 その剣は私の体内にあること。

 五本腕で八本脚の異形に襲われたこと。

 それをなんとかやっつけたこと。


 つっかえながらも全部説明した。


「……冗談ではないようね」


 学院長だけじゃなく先生たちとイーサまで私を見ながら信じられないという顔をしている。


「本当です。いきなり出てきた異形には五本も腕があって……」


「いいえ、わたくしたちが驚いているのはそのことではないの。サダーシュ……体から取り出せるの? その……剣を」


「うん、もちろん」


 左手のひらに当てた握った右手をゆっくりと離していく。

 そこには長く黒い刀身をした両刃の剣がある。


「……たしかにそれはここに保管してあったザンヤの剣です」


 学院長が手で口元を隠す。


「今、どうやって取り出したんですか?」


「トリック……ではないようだな」


「やはりイーンエーイと同じだったわけだ」


「サダーシュ、あなた……」


 みんなが一様に信じられないと言いたそうなので、何度か入れたり出したりして見せる。

 出し入れは自由自在。どこにでも仕舞えるし、どこからでも取り出せた。

 私も不思議なんだけど、痛くもなんともないんだよね。


「生徒が何者かに操られ、封印を破壊して武具庫に侵入され、何者かの襲撃があり……信じられない出来事ばかりで混乱しそうです。

 そうですか、貴方はアーツだったのですね」


「アーツってなんですか?」


 ニシキーン先生は口元を笑いの形にしている。


 長い年月を経た優れた力を持つ武具は特有の魂を持っていること。

 ごく稀に武具の持つ魂の色と自分の魂の色がぴったり一致して心を重ねられる者がいること。

 その二つが出会うことによってアーツと呼ばれる存在が生まれること。


 アーツは武具を自分の体内に取り込み、自由に出し入れできるようになる。文字通り一心同体。

 つまりアーツとは『武具の体現者』であり、『生きる芸術』なのだ――。


「……それが私ですか?」


「貴様はブレイドなのに刃を持つ武具の扱いが不得手だっただろう。唯一使えたのは愛用していた黒い刀身の剣だけだった。そんなユースは本来存在しない」


「そうか、そうだったのか。やっとわかった。折れた剣はアカツキ。ザンヤと同じ名匠メウラの手による剣だ」


 珍しいことにジュリウス先生が大きな声をあげている。


「一人の刀工によって同じ時期に作られたシリーズだからそれぞれの持つ魂の色が近かったのではないか? だからサダーシュはザンヤに近いアカツキを扱えたとは考えられないだろうか」


「そして本来のパートナーであるザンヤと巡り合いアーツに目覚めたと?」


 ジンバルク先生の言葉にジュリウス先生が頷く。


「そんなに有名な剣だったんですか?」


「ザンヤ、アカツキ、アリアケ、レイメイ……どれも妖人族との戦いで活躍したと言われている。優れた武具として魂を持つに至るには十分だろう」


「何かに呼ばれている気がしていたと言ってましたよね」


 イーサの問いかけに頷く。


「うん」


「もしかしたらその声の主はザンヤだったのではないですか?」


 手にした剣を見つめる。

 あなたが私を呼んでいたの?


「じゃあ、私はユースではないってことですか?」


「そうなります。だから物見の儀ではっきりしなかったんですね。納得がいきました」


 私は納得いってないんですけど。

 今どきの騎士はユースが当たり前なのに、ユースじゃない私は騎士になれないってことじゃないですか?

 それは困ります!


「アーツは武具と一つになる存在だ。かの神槍イーンエーイもそうだった。槍使いとして頂点にありながら生涯クロスチドリ以外の槍を手にしなかった。それは何故か?」


 目を輝かせニシキーン先生が私を見る。


「それ以外の槍を手に取る必要がなかったからだ。彼の突きはどこから繰り出されるかわからなかったと言い伝えが残っている。

 目に見えない速度で突いていたというのが従来の解釈だったが真実は違った。体内に取り込めるのならばそれも納得だ」


 ニシキーン先生の手が私の肩に置かれる。


「貴様はその剣だけを極めればいい。アーツとはそういうものだ。剣の芸術となってくれると私は嬉しい。すべてのブレイドの目指すべき目標であってくれ」


 いや、そんなこと言われても困ります!


ブックマーク等、よろしくお願いします。

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