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代表決定

今日はおまけがあります。

おまけは20時ごろに更新する予定です。


「次の試合までもう少し時間あったよね? 私、カージェンスさんのところに直接行って受け取ってくるよ」


 今から走って行けば試合までにはギリギリ戻ってこられるかもしれない


「だから使いを出してあると言っただろう。お前が試合に間に合わなかったらどうするつもりだ」


「それは……」


 強いトゥシスの口調に口ごもる。


「あらあら、なんだか雰囲気が暗いようね。どうかしたのかしら?」


 大きなお尻を左右に振る独特の歩き方でケントール先生が近づいてくる。

 無意識で半歩だけ後ろに下がったのは許して欲しい。

 だってキモいんだもん!


「あらやだ、サダーシュちゃん。今、あたしのことを避けるようなそぶりをしなかったかしら?」


「そそそんなことないですよー。ところで私たちになにか?」


 ジトーとした目で私を見下ろしていた先生は「ま、いいでしょう」と言うと一振りの剣を私に差し出した。


「これはっ」


 手に取って鞘から抜いてみる。

 きれいに磨かれた黒い刀身が露わになった。

 記憶にあるより少し短いけど間違いない。


「私の剣だ! どうして先生が持っていたんですか?」


「いえね、手違いであたしのところに届いちゃったのよ。だからサダーシュちゃんに渡してあげようと思って来たのに、あんな冷たい態度を取るんだもの。先生、とても傷ついたわ」


 わーん。そういうことなら先に言ってくださいよー。


「どうかしら、仕上がりは」


「いいと思います。ちょっと試してみますね」


 みんなから少し離れて剣を構える。

 目を閉じて、ゆっくりと細く長い息を吐く。

 それから横凪ぎに一振りしてみた。


 ブォンという風切り音。

 まるで自分の手のように思い通りの力加減、速度で振ることができる。

 遠くでドカンという音がした気がする。


「うん、ばっちりです!」


 剣を抱えてみんなのところへ戻る。


 あれ? なんでみんなそんな顔してるの?

 これで私も戦力になれるんだから少しは喜んでよ。


「相変わらずとんでもないな」


 ため息半分でハージェシカさんに言われた。


「なにが?」


 くいとアゴで示された先には破壊された壁がある。


「誰がやったの? 危ないなぁ。修理の人を呼んでおかないと」


「ぷ、ぷぷぷ……」


 ヘンな破裂音がするなぁって思ったらケントール先生の笑い声だった。

 先生、仕草だけじゃなくて笑い方もキモいですよ……。


「その分なら問題なさそうね。思う存分やってらっしゃい。

 あ、言っておくけど、あの壁を壊したのはサダーシュちゃんだからね。試合が終わったら直しておくように」


「ええ~」


 そういえば壊れた壁はさっき剣を振った先にある。

 そっか。思わず衝撃刃を放っちゃってたんだ。

 コントロールが上手くいっていないのは腕輪のせいかな? 試合の時は気をつけないと。


「飛燕刃って達人(マスター)クラスにしかできない芸当だよな……その剣を持っている時のサダーシュってやっぱり妖人族並だ」


「正直、冗談は顔だけにしてもらいたいと思う」


 ちょっとちょっと!

 ハヤード君とハージェシカさんがひどいこと言ってるんだけど!


「イーサ、これで私もみんなの力になれるよ! 絶対に勝って私たちが代表になろうね!」


 口元に形だけの笑いを張り付けてイーサが頷いてくれた。

 どうしたんだろう。怖い目をしてる。


「ケントール先生。イーサの剣が先生のお手元にあったことは先方の手違いなのですね?」


 その声はさっきケインズ君たちを問い詰めようとした時と同じトーンだった。


「ええ、そうよ。それがどうかして?」


 まっすぐにイーサがケントール先生を見つめる――睨んでいる。


「……わかりました。これで次の試合は万全の体制で臨めそうです。ご配慮、感謝いたします。

 また不躾な質問をしてしまい申し訳ありませんでした」


「いいのよ。あたしは生徒みんなが健全であってくれたらそれでね。大丈夫、ちゃんと落とし前はつけさせるから。今は試合のことだけを考えておきなさいね。

 当たり前だけど相手を死なせてしまうのはダメよ。サダーシュちゃんも気を付けるように」


 ウィンク付で言われた。


「そんなことしないですよ」


「どうかしら。サダーシュちゃんがその剣を使うといつもとんでもないことになるんだもの。次の試合だってそうならない保証はないでしょう?」


 それはそうですけど……。


「だからイーサティアちゃんがしっかり面倒を見てあげるのよ。だってあなたがこのチームの王役なのですからね。参謀のトゥシスちゃんじゃなくて、王であるあなたがすべきことよ。いいかしら?」


「はい、お任せください」


「結構。じゃあね、頑張るのよー♪」


 ケントール先生はでっかいお尻をこちらに見せつけながら行ってしまった。

 どうしてフリフリ左右に振るのかなぁ。キモいのに。





「サダーシュは好きなように動け。その剣を持っていればハージェシカのフォローも不要だろう。ハヤードもサダーシュのことは気にせずに相手を狙ってくれ。俺とお嬢はいつも通りでいく」


 試合前のトゥシスの指示通り、私は森が多い訓練場をまっすぐに走り抜ける。

 途中で遭遇したブロウのシントリアさんは剣の腹で殴って伸しておいた。


 少し開けたところに出る。

 そこには王役であるヨシリアム君と女の子が三人いた。


「ブルガの黒い狂戦士に勝てるわけがないっ。お、俺を守るんだ!」


 彼の前にブレイドのユウリーンさん、スラストのジョアンナさん、ガードのマーサさんが壁を作る。

 役割だから仕方ないけど、みんな女の子なんだよねぇ。


「手加減するけど、ケガしたらごめん!」


 飛び上がって壁役三人の少し前を狙って剣を振り下ろす。

 まるで地面が爆発したみたいな音。

 同時に大量の土砂が同心円状に放たれる。


「「「きゃああぁ!」」」


 地面を抉り取った衝撃波と放出された土砂といっしょに三人は吹っ飛んでいった。


「ば、馬鹿な……こんなことってあるのか……人間を吹き飛ばす勢いって……お、お前はバケモノか!」


「違うわよ! 失礼しちゃうんだから」


 ヨシリアム君は入学した日からなにかと絡んできて面倒な人だ。

 嫌われてるみたいだからなるべく接点を持たないようにしてたんだけど、あっちからちょっかいかけてくるし。


 彼を守っていた三人が起き上がる様子はない。致命的なケガもしてないはず……たぶん。


 一歩距離を詰める。


「ひぃ……っ」


 森でうっかり魔獣と目があっちゃったみたいな顔しないでもらえる?

 女の子としてすごく傷つくんだけど。


 もう一歩足を進めて剣を構える。


「ま、参った! 降参する! 俺たちの負けだ!」


「……え?」


 そんなのアリなの?


『――勝者、イーサティアチーム!』


 アナウンスが流れた。


「勝ち……なの?」


 なんだかあっさりしすぎてて実感が伴わない。

 振り返ると私の背中をカバーしてくれていたハージェシカさんが走ってこちらへ向かってくるところだった。


 そのさらに後ろからはハヤード君とトゥシス、それからイーサが走ってくるのが見える。


「サダ――シュ!」


 私の姿を認めたイーサが方術を使って一気に加速する。


「わっ、イーサ、あぶっ」


 どーんとイーサの体が飛びついてきた。


「むぎゅぅぅ~」


 二つの柔らかいものが顔に押し付けられて呼吸が苦しい。

 でもイーサを受け止めることはできた。


「すごいわ、サダーシュ! たった一人で勝ってしまうなんてっ」


「あはは。これまでみんなの足を引っ張り続けてたからね。これで少しはお返しできたかな?」


 イーサの手にさらに力が加わる。

 苦しいけど気持ちいい……なにこれ。天国ってここですか?


「わたくしはずっと信じていましたからね! サダーシュは強いんだって」


「……ありがと。みんなもありがとね」


「背後を守るつもりがついていくことすらできなかった。こちらこそ力になれなくてすまない」


「一瞬で視界から消えてびっくりしたぞ。なんだよあの加速力。本当は方術が使えるんじゃないのか?」


「使えないよ。この腕輪のおかげだと思う」


 イーサを抱きしめながら両手に装備した腕輪を見せる。


「この試合はあくまで通過点に過ぎない。本番は上級生と戦う対抗戦だからな。浮かれすぎるなよ」


「わかってる。でも今ぐらいはよろこんだってバチは当たらないでしょ?」


 いつもの仏頂面を崩そうとはしないトゥシスだったけど口元が緩んでいるのを隠しきれてなかった。

 なんだかんだで喜んでるんじゃない。素直じゃないんだから。


 イーサを降ろして周囲を見るとたくさんの人たちが私たちを囲んでいた。


「サダーシュ君。君はもしかして魔法を使えるようになったんじゃないのかな? あの動き、魔法の力だって言われても先生は信じますよ! ともかくおめでとう!」


 ジンバルク先生、さすがにそれはないですから。


「おめでとう、お嬢。必ず勝つと思っていたよ」


 ケインズ君たちがイーサを祝福している。


 人垣の隙間からケントール先生の大柄な姿が見えた。

 ヨシリアム君たちとなにか話してるみたい。ああ見えて気遣いのできる先生なんだよね。ちょっとキモいけど。


 気が付いたら祝福の輪から抜け出てしまっていた。


「おめでとう。お前は方術がなくても十分すぎるほど強いな」


 いつも眉間に皺が寄っているジュリウス先生に褒めてもらえるなんて。


「ありがとうございます。きっとこの腕輪のおかげですよ」


「ふむ。もしかしたらその剣との相乗効果でもあるのかもしれないな。なるべく一緒に持ち歩くといい」


「一つ聞きたいんですけど、この腕輪を装備してると夜中に勝手に歩き回ったりするんですか?」


 せっかくなので、ここ数日の夜のことを相談してみた。


「そんな話は聞いたことがないが方術が使えない者は抵抗力が低いという説もある。

 このアミュレットを身に着けておけ。多少の備えになるはずだ」


「いいんですか? ありがとうございます!」


 わーい、首から下げるお守りをもらっちゃった。

 赤い宝石がついたかわいらしいデザインで装飾品として身に着けていても悪くない。


「俺が作った方術具だ。何かあればまた言うがいい」


 これで今夜はぐっすり眠れるかな?

 対抗戦の代表にも選ばれたことだし、久しぶりに気持ちよく眠りたかった。


おまけ 教師陣3……2017/07/31 20:00ごろ更新


ブックマーク等、よろしくお願いします。


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